ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
87話「遅れてきた奴らと最近出会った奴らの邂逅」
「む、むーん、むーん、むーん」
「会いたかったです。先生……」
ファーレンの指名依頼を終えてからさらに三日が経過した。俺は今、大いなる胸の谷間に誘われて……否、誘われさせられていた。
どこで情報が漏れたか知らないが、いつの間にやらギルムザック達がオラルガンドまで追いかけてきていた。
いつものように朝一に冒険者ギルドへとやって来ると、俺の姿を見つけたギルムザック達が駆け寄ってきた。特に熱烈な歓迎を受けたのはメイリーンで、そのご自慢の大きな胸を使って、あの伝説のぱふぱふを体験することができてしまったのである。
女性特有の、甘い柑橘系の香りが鼻腔を擽る。顔全体をうずめるほどの乳房は柔らかく、まるでプリンに顔を埋めているかのようだ。
「ぷはっ、えーい離れろ! うっとおしい!!」
「あぁーん、先生いけずですぅー」
並の男であれば、嬉しさのあまり小躍りしたくなるような体験だったが、残念ながら今の俺には迷惑でしかない。まあ、好きか嫌いかで言えば好きだけど……。なんだ? 文句あっか、おおう!?
身をよじらせながらはにかむメイリーンを全力で無視しつつ他の連中に話を聞くと、予想通り俺を追ってオラルガンドへとやってきたらしい。
「もう、お前らに教えることは何もないはずだが?」
「自分はそうは思いません!!」
「……」
“お前はどこのあ〇れる君だよ!”という突っ込みが、喉から出かかるのを辛うじて押し留めることに成功した俺は、彼らに免許皆伝を言い渡す。だが、それでも四人は納得せず俺に教えを乞おうとするが、正直言って本当に教えることは何もないのだ。
そもそもの話だが、こいつらは基礎体力が足りておらず、自身の持つ身体強化のスキルでなんとかやっていたところを俺がそれを指摘し、基礎体力を付けさせた結果今の強さにまでなっているのだ。基礎体力が増強された今、強くなるためにはそれぞれがそれぞれの訓練方法で強くなっていくのがベストなのである。
であるからして、俺の元に押し掛けられたとしても、彼らに教えることは本当の本当に何もなく、精々模擬戦の相手をするくらいしか残っていないのだ。
その程度であれば仲間内でも模擬戦はできるだろうし、強い相手を求めて他の場所へ旅立つという選択肢もある。にもかかわらず、なぜこいつらは俺に固執するのだろうか?
「とにかく、お前らに足りてないものは前回の修行で補えているはずだ。あとはそれぞれが勝手に強くなる方法を模索すればいいだけだ。以上、解散!」
「「「「そんなの納得できません(ないぜ)(ないわ)」」」」
そんなこと言われたって知らんがな。教えることはないったらないんだから……。強いて言うならば、メイリーンは魔法の制御と操作を更に向上させ、他の三人は肉体的に負荷を掛けた状態での基礎体力の強化が残っているといえば残っているのだが、それも個人で十分訓練が可能なものであるため、わざわざ俺が教えてやるほどではないのである。
トラブルというものは、一つ起こると他のトラブルが重なるという悪循環を引き起こすことがあり、今の俺にとって最悪の人物たちがそこに現れたのである。
「この騒ぎは一体なんですか?」
「じぇじぇじぇ」
「何を言っているのだ貴様は?」
そこには二人の美人が立っていた。一人はまだ少女としての幼さを残しながらも、その儚げな雰囲気は見る者を魅了してやまないほどに美しい女の子だ。そして、もう一人はその少女に寄り添うようにその身を守る騎士然とした女性で、その凛々しさと美しさは名のある画家が描いたのではないかというほどの洗練さを持ち合わせており、その雰囲気と相まって彼女を麗人たらしめていたのである。
しかしながら、それはあくまでも二人のことを外見的なもので見た場合の感想であり、中身だけを重視して見た場合において俺個人の意見としては、ただの好奇心旺盛なガキンチョと見た目だけはいい残念美人という身も蓋もない感想しか思い浮かばないのであった。
「師匠、この二人は誰なんだ?」
「いや、こいつらは……」
「ローランド様、師匠ってどういうことですか?」
「そ、そうだ、どういうことなんだ!?」
(うわあー、説明したくねぇー)
今俺の心の中を支配している感情は、ただただ面倒臭いというシンプルなものだ。“混ぜるな危険”という、柔軟剤や風呂掃除などに使用する中性洗剤などによく記載されている言葉が頭に思い浮かんでしまうところを見るに、どうやら俺にとってこいつらは会わせてはいけない相手であったことは確実だったようだ。それが証拠に……。
「おい、お前ら師匠とどういう関係なんだ!? 随分と馴れ馴れしいじゃないか」
「それを言うなら、あなた方の方こそ距離が近すぎるのではないのかしら?」
「師匠は、俺たちを強くしてくれた恩人だ。弟子が師匠を敬うのは当然だろ?」
「それこそ、ローランド様は私たちを盗賊の手から救ってくれた大恩人です。まだあの時のお礼もできてませんのに、邪魔をしないでくれませんこと」
「……」
「……」
ギルムザックとファーレンとの間に火花が散る様子を、まるで他人事のように観戦する。アズールがそれを止めようと間に入っているのを見ていたが、不意に他の三人のことが気になり視線を向けてみると、こっちはこっちで大混戦となっていた。
「あなた、先生とどういう関係なんですか?」
「それを貴様に話す必要はない。それよりも、なぜあの少年を先生呼ばわりする?」
「それこそ、あなたに話す必要はありません」
「……」
「……」
やはりというべきかなんというか、悪い予想は良く当たるもので、こちらはメイリーンとくっころさんの一騎打ちが始まっていた。こちらの仲介人は意外にもアキーニが担当しているようだが、二人とも聞く耳持たぬといった具合に一触即発の雰囲気であった。
ってか、一つだけ聞いてもいいか? 帰っていいだろうか? いいよね? こいつらが喧嘩してるのはこいつらが始めたことであって、俺には関係のない話だ。間接的には関係しているかもしれないが、俺にとってこいつらが喧嘩していること自体がどうでもいいことであり、できることであればこれ以上関わり合いたくないというのが正直な話だ。
両人とも嫌いな人間ではないのだが、かといって好きという訳でもない。たまたま関わる機会に恵まれただけの所詮は顔見知りでしかないのだ。
「あー、じゃあ俺帰るからな」
「師匠に付きまとうのはやめろ!」
「あなたこそ、師匠などと呼ぶのはやめなさい!」
「頭でっかちが!」
「牛乳女が!」
「よし、帰るか」
喧嘩に夢中で誰も俺の言葉に反応しなかったため、俺はその場から気付かれないようフェードアウトしていった。昨日納品した素材の買取金を受け取る予定だったが、それは明日でもできるため、今はその場から逃げることに専念する。
やはり、混ぜるな危険者同士を会わせると、ろくなことにならないということがこれで立証された。これから冒険者ギルドに行きにくくなってしまったが、彼らのいない時を狙って行くという無駄な工作をしなければならないかもしれない。
そんな憂鬱な気分で街中を歩いていると、俺の進行方向から見知った顔が現れた。俺のアクセサリーの委託販売を依頼している商人のグレッグである。どうやら、俺を探していたようで、俺を見つけるなりこちらに駆け寄ってきた。
「坊っちゃん、今少しいいだろうか?」
「なんだ、何かあったのか?」
「実は、あれからいくつかの商会に商品を卸してるんだが、もっと在庫を欲しいと言われていてな。できれば都合して欲しいのだが」
「わかった。とりあえず、今日の分だ」
あれから二人で話し合った結果、他の商会にも一定数のアクセサリーを卸すことにしたのだが、どうやらかなり売れ行きがいいらしく、もっと卸してほしいとせっつかれているようだ。
作業内容としては、もう手馴れているためもっと数を増やしても負担にはならないのだが、この街にやってきた目的はあくまでもダンジョンでの修行であるため、無理のない程度にやっていこうと考えている。
それからグレッグと別れた後、その足でダンジョンに赴き素材回収と攻略を行ってその日はそれで一日が終わった。ちなみに、現在の最高到達階層は十三階層の前半まで攻略が進んでいて、ペースとしてはかなりゆったりとした攻略となっている。
それというのも、アクセサリーの素材となる魔石英を手に入れるために一度十階層に立ち寄っているのが原因なのだが、立ち寄る頻度としては二日に一回程度なため、大した苦はないのが現状だ。
とりあえず、ギルムザック達とファーレン達の問題としては、見なかったことにして、俺は俺の目的を遂行するべく眠りに就くのであった。
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