ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
81話「アクセサリー作ってみた」
ダンジョンから帰還すると、すぐに冒険者ギルドへと直行する。いつものように手に入れた素材を納品し、ギルドを後にしようとするとサコルが声を掛けてくる。
「ギルドマスターがお呼びです」
「わかった」
具体的な要件はわからなかったが、とりあえず本人から詳しい話を聞いてみることにし、イザベラのいる執務室へとやってきた。
「……なにか、俺に、用なのか?」
「い、いきなりなんだい。その殺気をしまっておくれな」
前回不意打ちで殺気を飛ばしてきたので、後れを取らないようにと今回は俺の方からアプローチを掛けてみたのだが、どうやらそういうことではなかったらしい。
「まったく、小僧の殺気は体に堪えるわい。年寄りを殺す気か?」
「ふん、婆さんならあと三十年は生きそうな雰囲気があるぞ?」
「そんなに長生きしたら、それこそ魔物か何かになっちまうわい」
「ふ……それで、用ってのはなんだ?」
「ああ、実はの……」
そう言って、イザベラは事情を話し始めた。彼女の話によると、冒険者ギルドにとある貴族の令嬢が護衛依頼を出したのだが、その条件が特殊で該当する人物が俺しかいないらしい。
そこで、唯一その条件に当て嵌まる俺にその貴族令嬢の護衛をしてくれないかという、実質的な指名依頼であった。
「ちなみにその条件ってのは?」
「歳は十二歳前後で、身長百五十センチから百五十五センチの間の男の子であり、Bランク以上であること。それに加え、髪が金髪で目の色は緑色という条件じゃ」
「それ実質俺を指名してきてるじゃねぇか!!」
「そうみたいじゃの」
俺の叫びに、イザベラが苦笑いで答える。こんな回りくどいやり方で接してくる相手は一人しかいない。しかも最近お知り合いになったばかりの人物だ。
そいつの目的がいったい何なのかは不明だが、依頼の内容としてはごく普通の護衛依頼で、ダンジョンの七階層にある【ピップル】という果物を採取したいので、その道中の護衛を頼みたいとのことらしい。
そんなことを貴族の令嬢直々にやることなのだろうかと疑問に思わなくもないが、これは明らかに俺をおびき出すための罠だろう。それ以外の何物でもない。
しかしながら、仮に呼び出したとしても何をされるわけもなく、おそらくは俺との接点を増やしておきたいという思惑なのだということは何となくは伝わってくる。
あのくっころさんと鉢合わせる可能性は高いだろうが、俺としては別段彼女の依頼を受けても構わないと考えているし、仮に実力行使に出るのなら返り討ちにすれば問題ない。それにこの依頼、かなり報酬がいいのだ。
「依頼報酬の桁間違ってないか?」
「いいや、担当した受付嬢が何度も確認したから間違いない。依頼の報酬は大金貨三枚じゃよ」
「あの馬鹿令嬢は何を考えてるんだ?」
たかがBランクの冒険者一人を雇うのに、三億円を支払う馬鹿がどこにいるんだ? ここにいるってか? 冗談にもならないぞ。
しかもこの大金貨三枚というのは、俺に支払われる金額であって、ギルドで依頼を出す際に手数料としてさらに上乗せして支払っているということを意味している。それほどまでして俺と接点を持ちたいのか、それとも貴族令嬢らしく金銭感覚がぶっ壊れているのか、どっちかはわからないが俺としても護衛だけでそれだけもらえるのならこの依頼を受けても損にはならないと判断した。
「わかった。この依頼受けよう」
「そうしてくれると助かるよ。では、依頼の手続きはこちらでやっておくから、小僧は三日後の早朝にダンジョンの入り口で待っていておくれ」
「了解した。じゃあ、これで失礼する」
なんだか相手の手のひらで転がされている感がしなくもないが、今後のことを考えてお金はあるにこしたことはないので、そこは割り切ることにした。
ギルドでの用事は済んだので、ひとまず宿に戻ることにした。時刻はちょうど夕飯時ということもあって、宿の食堂はかなり混雑しているようだった。あとで満席になっても困るので、そのまま開いている席に座り夕飯を食べてから部屋へと戻ることにしたのであった。
夕食後、やっと自分の部屋へと戻ってきた俺は、深いため息と共にそのままベッドに倒れ込んだ。俺がダンジョンに出掛けている間、宿の誰かがシーツを交換しておいてくれたらしく、お日様の香りが漂ってくる。
その匂いに癒されながらしばらくベッドに横たわり、食後の休憩を愉しむ。しばらくして、お腹の満腹感も緩和されたので、今日の成果を確認するべくストレージからいくつかの素材を取り出した。
まずは川辺で手に入れた魔石英と鉱山で採掘してきた宝石の原石、並びにポイズンマインスパイダーの糸を取り出す。ちなみに、ポイズンマインスパイダーの糸は、そこらへんに落ちていた棒切れに巻き付けることで手に入れることができた。
改めて本日の成果を見ると、実にいい収穫だと自己満足だが思えてしまう。特に僥倖だったのは、ポイズンマインスパイダーの糸と宝石類の数々だ。
「さて、ちょっとばかし試してみようか」
そう言いながら、俺は川辺に落ちていた魔石英を手に取る。まだ加工していない魔石英は、長い年月をかけて川の中を転がっていたことが原因なのか、楕円形に丸みを帯びたものが多い。
今回の試みに関して、その形はとても都合がいいものなので、手に取った魔石英に魔法で加工を加え始める。具体的には、嵐魔法という複合魔法で手のひらサイズの小さな竜巻を生成させ、それを魔石英の表面に宛がうことで、魔石英をミリ単位よりも細かい精度で研磨することができるようにしたのだ。
前世の地球の技術で例えるところの研磨機の代わりといったところだろうか。研磨機とは異なり、電動式ではないため大きな騒音が出ないところが利点となっており、使用しているものが自然現象の一つであるため、その研磨力は地球の研磨機の比ではない。
力を加えすぎて石自体を割らないよう注意を払いつつ、八ミリ程度の玉に加工していく。数十個作ったところで、小さな竜巻を針金くらいの細さに変形させ玉の中央に二、三ミリほどの小さな穴を開けていく。
「あとはこいつを開けた穴に通して、解けないように結べば完成だな」
最後の仕上げとして、ポイズンマインスパイダーからカツアゲ……もとい、お願いしていただいた糸を使い、加工したいくつかの魔石英を輪っかのようにまとめれば、魔石英のブレスレットの完成である。
ポイズンマインスパイダーの糸が吐き出された直後は、獲物を捕らえるため粘着性と吸着性の両面の性質を持ち合わせているが、一度獲物を捕らえるてからしばらく時間が経過すると、その性質が伸縮性と耐久性というまったく異なる性質に変化するようだ。
そんな常識外れな性質を持つ糸が本当に存在するのかと、元地球人としては疑いたくもなるが、実際この目で見ていることとファンタジーならそれもあり得るということで自分を納得させた。ってか、ご都合主義ってやつだご都合主義。
そんなわけで、お試しで作ってみたアクセサリーを解析を使って調べてみると、こんな結果が返ってきた。
【浄化のアミュレット】:魔石英を使った腕輪型の魔除けのお守りで、魔力を込めると水晶のように透明になると同時に体内の悪い気を浄化してくれる。疲労回復や腹痛などの軽い症状の病気に効果がある。 相場:中金貨一枚から三枚。
「ま、マジか……これはちょっとヤバそうなのができたかもしれん」
おいおい、これは結構すごいアクセサリーを作り出してしまったかもしれん。地球でもこういった類のお守りやパワーストーンといったものは取り扱われていたが、それでもなんとなく気休め程度といった感覚のものでしかなかった。
だが、今目の前にあるこのアクセサリーは、言ってみれば栄養ドリンクや胃薬の代わりになる可能性があるといった不思議道具のようなものだということだ。地球人の感覚で言えば、栄養ドリンクや胃薬というものは身近なもので、実際その有難みを感じる場面はとかく少ないだろう。だが、この世界は医術がそれほど進歩していない世界なのである。そんな世界で疲労回復や腹痛に効果のあるアイテムがあるのならば、一つは持っておきたいというのが素直な感想だろう。
しかし、これは困った。これは迂闊に売りに出せなくなったな。しかも、今回のダンジョン攻略で解析スキルのレベルがアップしたようで、解析した物の相場が表示されるようになったため、余計にこのアクセサリーの価値が際立つ結果を招いてしまっている。お守り一つ三千万とか、どこのブルジョアだ。こんにゃろめー。
個人的には、普段使いに使用できて価格も小銀貨数枚から高くても中銀貨二、三枚程度の価格帯に抑えるのが理想だ。くそう、レア過ぎて売れないとか予想外だ。
「そうだな。このお守りは数量限定にして二、三個だけ売りに出してみるか?」
そんな風に頭を悩ませていたその時、テーブルに出しておいた戦利品の中にとある鉱石が目に入った。何の気なしに手に取り、解析を掛けるとこんな情報が表示される。
【暗魔鉱石】:黒い色をした鉱石で、浄化の力を吸収する効果のある鉱石。一定数の浄化の力を吸収すると、様々な色合いの石に変化する。 相場:大銅貨三枚から四枚。
おいおい、ご都合主義甚だしいんだが? 俺が今欲しかったものがすぐに出てくるっておかしくないか? そう思い、俺は上を見上げ何もない宙を睨みつける。……まさか、あいつのしわざじゃないだろうな?
まあ、仮にそうだったとしても使わないという手はないので、魔石英と同じ八ミリの玉に加工して魔石英三個毎に一個暗魔鉱石を挟む感じで再製作し、再び解析で確認してみた。
【魔石英のブレスレット】:魔石英と暗魔鉱石を使ったブレスレット。魔力を込めると、魔石英が透明になる効果があるが、それ以外は何の効果もないただのブレスレット。 相場:小銀貨二枚から三枚。
「勝った。第二部完!! ……って、終わって堪るか。まだ他の国にも行ってないのに」
自分でボケておいて自分で突っ込むという、一人ノリ突っ込みをやってしまったが、ともかく俺の狙った通りのアクセサリーが完成した。しかも、使用している暗魔鉱石は時間が経てば、それぞれ異なる色に変化するため、一つとして同じブレスレットになることはない。しまったな……こんなことならば、もっと魔石英を根こそぎ取ってくるんだった。
とりあえず、持ち帰ってきた魔石英すべてをブレスレット用の玉に加工し、さらに四つの魔石英のブレスレットが完成する。これで浄化のアミュレットが一個に魔石英のブレスレットが五個完成したことになり、小売りするにはちょうどいい個数ができあがった。
「まあ、今日はこれくらいにして、明日商業ギルドで売り込みに行ってみるか」
気付けば外はすでに暗くなっており、途中から光魔法で手元を照らしながらの作業となっていた。初めて作ったアクセサリーも一区切りついたので、今日はこれくらいにして眠りに就いた。
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