ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
80話「十階層」
「はい、終了っと」
九階層のボス部屋とやってきた俺は、そこにいたボスを瞬殺する。ちなみに九階層のボスは、ゴブリンナイトという通常のゴブリンの二回りほど大きなゴブリンで、その取り巻きにゴブリンリーダーなどの上位種と通常のゴブリンの群れが三十匹ほどいた。
ランク的にはナイトがCランク上位種がDランクだったので、範囲魔法一発で事足りてしまった。ボスとの戦闘時間は出会ってから五秒であった。……なんか、似たようなタイトルの映像媒体があったような気がするが、気のせいか? 出会ってから〇秒で……いや、これ以上はやめておこう。
とにかく、そんな短時間で瞬殺してしまった相手のことを語れるほどの情報はなく、あっさりとした事後報告という結果になってしまったのである。
とりあえず、九階層攻略後の転移ポータルの登録を済ませ、二桁の階層に突入する階段を下りていった。
十階層は、どうやら草原タイプのフィールドとなっているが、見渡す限り草原となっている訳ではない。所々に森や川などの他の階層にあったフィールドがあり、特に目立つのは大きな山だ。どうやら、見た目的に鉱山になっているようで、この階層を攻略するためには鉱山内に入る必要があるようだ。
「まずは森に行ってみるか」
とりあえず、目先にある森に入ってみることにする。森は以前に攻略したジャングル的な森ではなく、林に近い類の森でピクニックにちょうどよさそうな感じだ。ただ、索敵のスキルで調べてみるとその森にいる魔物はどうやらオークらしく、それを踏まえればピクニック気分にはなれないだろう。
向かってくるオークを討伐しながら、自生している薬草や茸などを採取しつつ進んでいると、川がある場所へとたどり着いた。川のせせらぎの音が癒しとなり、しばらくその音を聞きながらその場を眺める。川の中には長い年月をかけて形成された石があり、一つ拾ってみると白っぽい玉のような綺麗な石だった。解析してみると、少し興味深い結果が表示される。
【魔石英】:マジッククォーツとも呼ばれ、魔力を込めると透明な色になる。装飾品としても人気が高く、負のエネルギーを浄化するおまもりの役割も持っている。
なるほど、どうやらただの白い石ではなく、浄化効果のある石らしい。そういえば、前世でラピスラズリやタイガーアイなどのパワーストーンを浄化する意思として石英が用いられることがあると聞いたことがあるが、この世界の石英も似た効果があるのかもしれない。
ただ少し気になったのが、そんな人気の装飾品の材料である魔石英が、どうしてこんな川の底に一杯あるのかということだ。装飾品として人気であれば、ここの石を持ち帰って宝石商やアクセサリー職人に売れば、儲けになるのではないのだろうかという疑問が浮かんだのだ。
可能性としては、この石がそんな価値のあるものだと知らないのか、それとも何かしらの理由があってこの川から石が取れないのか、いずれにしてもこの石を持って帰ってはいけないという理由はないので、とりあえず形のいいものを百個ほど持ち帰ることにする。
石を拾っている最中にもオークたちがやってきたが、すぐにストレージの中に納まってもらった。これで当分の間は肉に困ることはなくなった。豚肉万歳。
しばらく川のマイナスイオンに癒されながら、童心に帰った気分になり、有意義な時間を過ごす。三十分ほど癒されたあと、満足したので再び十階層の散策を続ける。
次の目的地は、このフィールドで一番目立つ存在である鉱山だ。どうやら最終的な終着点はあの鉱山となっており、稀に見かける冒険者のパーティーもあの鉱山を目指しているようだ。
ひとまず鉱山を目指すのを目標として、道中にあったセーフティーゾーンに寄り転移ポータルを解放したあと、鉱山に向かって歩き始める。
道中に今まで出現したダッシュボアや角ウサギなども登場したが、尽くこちらに襲い掛かってきたためすべて素材となってもらった。俺は来るものは拒まない主義なのである。
そんなこんなで鉱山の入り口となる山の麓付近まで到着すると、鉱山の入り口と思われるすぐ近くに転移ポータルがあったので、すぐさま登録をする。
「さて、ここからこの鉱山を探検しよう」
探索ではなく探検と言ってしまうあたり、危機感がまるでないが、現時点で俺の脅威となるモンスターが出てこないため、臆することなく鉱山へと入って行く。
鉱山は誰が掘ったのかわからないが人工的な補修がされている箇所があり、鉱山というよりも炭坑や採掘場という表現の方が適切に思えた。
鉱山内は意外にも明るく、松明などの明かりが必要ないほどの明るさが保たれている。どうやら、鉱山内に自生する苔が光を吸収して発光する性質を持っているようで、ファンタジー的にはヒカリゴケというものだと脳内補完しておく。
このヒカリゴケも持って帰ればお金になるかと思ったが、解析してみると発光するのはダンジョン内だけらしく、それ以外の場所では発光しないし何の使い道もないようだ。
そのまま人工的に作られたかのような坑道を進んでいくと、発動させていた索敵に反応があった。どうやら蜘蛛型のモンスターがこの先にいるらしく、少し警戒しながら進んでいく。
たどり着いた先は少し開けた空洞になっており、その中央に体長が五十センチほどの蜘蛛のモンスターがいた。特に何をしているわけでもなく、RPG風に例えるのならノンアクティブ状態だと言える状況だ。
試しに解析で調べるとモンスター名は【ポイズンマインスパイダー】という蜘蛛のモンスターで、ランクはCランクに分類されるらしい。パラメータは同じCランクのオークと比べると、物理特化のオークに対しポイズンマインスパイダーは魔力や器用さや抵抗力などが高く、どちらかと言えば魔法型のモンスターに分類されると推察する。
スキルは蜘蛛らしい【糸吐き】と【跳躍】などがあり、中でも要注意するべきなのは【毒攻撃】と【土魔法】の間接攻撃と遠距離攻撃だ。
「シャー」
ある程度近づいたことで、こちらに気付いたポイズンマインスパイダーが威嚇のような声を上げる。こちらがどう対処しようかと悩んでいる隙を突き、ポイズンマインスパイダーがいきなり糸を噴射してきた。
突然のことで驚いたが、俺の人外なステータスをもってすれば避けられない速度ではないので、軽く身を翻して回避をする。ふと気になったので、吐き出された糸を解析すると思わぬ情報が表示された。
【ポイズンマインスパイダーの糸】:ポイズンマインスパイダーが吐き出す糸で、伸縮性と強度が強く主に衣服や装飾品の材料として人気があるが、危険度の高いモンスターであるため入手は困難。
なるほど、つまりはこいつの糸は金になるのか……ならば、俺が今すべきことは一つだな。ここまでくれば、大体の想像はついているだろう。
「おら、とっとと糸を吐き出せ」
「シャー」
そう、それは限界まで奴に糸を吐き出させ、その糸をできるだけ多く持ち帰ることである。入手が困難なのは、推測だがポイズンマインスパイダー自体がCランクのモンスターであるということと、毒を持っており下手をすれば毒で命を落とす危険があるという理由で、入手の難易度が上がっているのだろう。
そして、なにより積極的に糸を狙ってポイズンマインスパイダーと戦う物好きな冒険者がいないということも、ポイズンマインスパイダーの糸が入手困難であるとされる理由ではないかと考えたのだ。
では、毒攻撃に注意しながら糸攻撃をさせるように仕向ければ、無限とはいかないまでもある程度の糸は確保できるのではないだろうか?
「でもよく考えたら、今の俺ってこいつからすればとんだ迷惑野郎だな」
考えてみて欲しい。自分が家でくつろいでいる時、突然家の中に無断で侵入してきた上「金目の物を寄越せ」とはやし立ててくる人間を。はっきり言って迷惑以外の何物でもないだろう。ポイズンマインスパイダーにとって今の俺がその迷惑な人間ということになるのだ。
だが、相手はモンスターであり、こちらの言葉を理解するほどの知性のかけらもない存在なのである。元よりモンスターに人権などないのだ。
こういう発言は前世でいた地球では大問題となり、SNSで炎上する案件なのだろうが、ここは異世界――ファンタジーのなのだ。蜘蛛ちゃんには悪いが、俺の金儲けのための生贄となってもらおうではないか。
「よし、こんなもんか」
「シャ、シャー……」
それからありったけの糸を吐き出させた俺は、奴の攻撃を避けながら糸を回収していき、とうとう限界に達したのか糸を吐き出さなくなった。こちらの言葉を理解しているとは思えないが、念のため「もう限界か、もっと出るだろ?」とか「蜘蛛さんの、ちょっといいとこ見てみたい」など挑発してみたのだが、どうやら本当に限界のようで弱々しい声しか出さなくなってしまった。
弱者をいたぶる趣味はないので、そのまま剣で止めを刺しストレージに収納する。蜘蛛ちゃんの立場としては、体内の糸を全て吐き出させられただけでなく、その死骸もすべて根こそぎ素材として扱われてしまう結果となり、蜘蛛ちゃん的にはまさに踏んだり蹴ったりな状況であった。
「これが弱肉強食ってやつなんだな。自然界の掟は厳しいなぁー」
蜘蛛ちゃんが踏んだり蹴ったりな状態に陥る原因を作った張本人が言う台詞ではないだろうが、俺が言わなきゃ言う人間がいないので一応口にしておく。そして、蜘蛛ちゃん……ごっつぁんです。
そんな感じで、ポイズンマインスパイダーからかなりの量の糸を手に入れることに成功した俺は、邪魔者がいなくなったので周辺の探索を開始する。
鉱山チックな見た目をしているため、もしかしたらその辺に落ちている石が鉱石かもしれないという期待を抱きつつ、ダメ元で拾った石を解析してみた。
【鉄鉱石】:鉱山によくある鉱石の一つ。精錬することで、鉄を取り出すことができる。
……おお、そうですか。やはり、ここは鉱山フィールドらしい。となってくれば、やることは決まってくるだろう。
「採掘開始!」
ということで、周辺に落ちていた石を片っ端から解析していく。中にはただの石という残念な結果も返ってきたが、一応念のため一定数はストレージに保管しておくことにした。
……だって、ほら、石って色んなことに使えるでしょ? メタルなスライムにダメージ与えたりとか、大きなタル爆弾を起爆させたりだとか、ポケットに入るモンスターを進化させたりだとか色々。なに? 最後のは違う石だって? 細かいことはどうでもいいんだ!
そうやって落ちている石を回収していると、ふと炭坑内の壁が気になったので索敵を使って調べてみると、どうやら壁の中に何か埋まっているという反応があった。
ツルハシはなかったが、土魔法の上位である大地魔法を使い壁の一部を砂に変え、壁の中に埋まっていたものを取り出し解析してみた。
【エメラルドの原石】:翠玉と呼ばれる宝石に加工することができる原石。希少性は高く、この宝石を使った装飾品は貴族や王族の間で高値で取引される。
どうやら当たりを引いたようだ。手に入れたのはエメラルドの原石で、地球でも高価な宝石として有名だったものだ。宝石の原石を手に入れたことで、一気にモチベーションが上がった俺は、崩壊を起こさないよう気を使いながら宝石を探しまくった。
結果として、エメラルドの他にルビー・サファイヤ・トパーズ・アメシスト・ダイヤモンドなどの原石を入手することができた。
それからほくほく顔で坑道を進み、出現するポイズンマインスパイダーから糸を拝借しつつ、鉱山内にあったセーフティーゾーンにある転移ポータルを解放すると、一度街へと帰還することになった。
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