ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
79話「攻略再開 ~料理教室と若輩冒険者~」
公爵令嬢襲来からのくっころさん決闘事件をなんとか解決させた後、当初の予定通りダンジョン攻略を再開することにした。前回までの攻略階層は、九階層のセーフティーゾーンの一つで中断となっていた。
今回はそこから攻略を再開することにし、再びダンジョン入口へとやってきた。受付で手続きを済ませ、転移ポータルを利用するため冒険者の列へと並び、しばらくして自分の番がやってきたので、転移ポータルを使って九階層まで転移した。
「さて、邪魔が入ったが再開といきますか」
ようやく自分のやりたいことができることに安堵しながらも、命の危険のあるダンジョン攻略に改めて気持ちを引き締める。と言っても、まだ低階層の部類に入る九階層に俺の命を脅かすモンスターは存在しないのだが、それでもダンジョンでは何が起こるかわからないため、気を引き締めるに越したことはない。
九階層は一階層と同じく洞窟タイプのダンジョンで、一見一階層と同じ構造をしているように見えが実は違う。というのも、五階層に入ってから罠の存在が確認されたからだ。
ダンジョンにつきものなギミックである罠は、低階層であれば命に係わる危険なものはなく、どちらかと言えば周囲の魔物を呼び寄せたり、浅い落とし穴などの妨害系の罠が多い。この先階層が深くなるにつれて罠の脅威度が増していくのだろうが、現状では問題なく対処できている。
この先のどんな罠が待ち受けているのか見当がつかないため、できれば早めに罠に対応できるスキルを覚えたいところではある。
「って思ってたら、覚えちゃったよ……」
そういえば、俺ってこの世界でチートな人間だったわ。俺の持っている【スキル習得率アップ】と【スキル熟練度アップ】の二つのスキルのお陰か、それともすでに覚えるための条件を満たし掛けていたのかはわからないが、二、三回ほど罠を発見し対処したところで【罠察知】と【罠解除】を覚えてしまった。
これで罠をすぐに発見し対処できるようになったので、襲ってくるモンスターたちに対し、戦いという名の回収作業をしながら進むことができるようになった。
しばらく罠を解除しつつモンスターと戦っていると、新たなセーフティーゾーンが見えてくる。セーフティーゾーンの周囲には、相変わらずモンスターは近寄ってこず完全なる安全地帯となっているようだ。
今回のセーフティーゾーンに冒険者の姿はなく、完全なる貸し切り状態となっていた。時間的にも昼飯時だったため、さっそくクッキングタイムを開始する。
まず、大地魔法を使って地面を隆起させかまどの形に形成する。その中にあらかじめ拾っておいた薪代わりの木の棒を入れ、火魔法で火を熾す。さらに前回冒険者たちにステーキを振舞った時に使用した鉄板を取り出して、即席の調理場を作り上げる。
「はい始まりましたー。ローランドのクッキングチャレンジー!」
などと、地方のテレビ番組風タイトルコールを行い、料理を開始する。これも誰も見てないからこそできることである。
今回少しばかり凝った料理を作りたいと考えている。いつもいつもステーキばかりでは味気ないし、栄養バランスも悪いので、ここは野菜を使った料理もレパートリーに加えたいところだ。
というわけで、まず初めにこの数日間で買い込んでおいた野菜を取り出し、水魔法を使って汚れを洗い流す。そして、風魔法を使って野菜たちを適切な大きさに切り刻み、熱した鉄板の上に放り込む。じゅうじゅうと音を立てる野菜たちを、これまた時間の空いた時に買っておいた木べらで混ぜながら調理していく。
均等に野菜に火が通ったら、塩胡椒で味を調えれば野菜炒めの完成である。時間経過での劣化が起こらないストレージに一度完成した野菜炒めをしまい込むと、次に野菜たっぷりの具沢山野菜スープを作る。
作り方は単純で、鍋に入れた水にキャベツと人参とじゃがいもを投入する。ちなみに、この世界での野菜の種類は地球の時と変わらないが、たまに地球にはないファンタジー野菜があるらしい。まあ、そこはファンタジーという言葉で片付けてしまおう。
煮立ってきたらそこに薄くスライスしたダッシュボアの肉を入れ、肉に火が通るまでじっくりと煮込んでいく。火が通ったら、塩胡椒で味を調えて完成である。
最後にメインだが、これはいつものダッシュボアのステーキにしておくことにし、ついにすべての料理が完成した。
「では、いただきます」
出来上がった料理を取り出したテーブルに並べ、お待ちかねの実食タイムとなった。まずは野菜炒めを口に入れ、ゆっくりと咀嚼する。野菜自体の甘味を残しつつも、シャキシャキとした歯ごたえを楽しむことができる一品に仕上がっており、とても美味しい。
次に野菜スープを飲んでみると、体の芯がぽかぽかと温まる。冬の寒い時期には持ってこいの一品だ。アクセントで入れたダッシュボアの肉もしっかりと野菜スープを引き立ててくれており、しっかりとした味を出してくれている。
最後にメインのステーキだが、これは以前ステーキを食べたオルベルトという冒険者が味の内容を語っているので、敢えて割愛させてもらう。まあ、美味いよ? うん。
昼食を食べ終わり、しばらく休憩したあと使った調理器具や地形を元の状態に戻して、攻略を再開した。
そのままダンジョンを突き進み、いくつかの分岐から一つの道を選びながら進んでいると、索敵に反応があった。確認してみると、どうやら一組の冒険者パーティーがモンスターと戦っているらしく、結構苦戦しているようだ。
「下手に介入すると、マナー違反になるからな」
冒険者の間で、暗黙のルールとなっているものがいくつがある。そのうちの一つが、冒険者同士のモンスター戦闘時の介入についてである。冒険者の主な収入源は、討伐したモンスターを冒険者ギルドに卸すことによって得られる買取金となっており、冒険者の実に七割から八割がこの方法で収入を得ている。
だからこそ、自分たちが先に見つけた飯の種となるモンスターを横から掠め取るような行為は、あまり褒められたものではないということだ。それ故に、他の冒険者がモンスターと戦っている際は、相手からの要請がない限り戦いに参加することはないのである。
傍から見れば冷たい対応に見えるかもしれないが、のちの素材の分配で揉めることもあり“お前に助けてもらわなくてもなんとかなった”と宣い素材の分配を渋ってくる冒険者もいるのだ。
そういったトラブルを避けるべく、いつしか冒険者間で他の冒険者が戦っているモンスターがいた場合、戦いが終わるまで静観し相手が救援要請をしてくれば、戦闘に介入するというルールが浸透していくことになったのである。
そして、救援要請をした側の冒険者は、要請によって介入した冒険者に謝礼として素材の分配の割合を多くすることで、貸し借りを無しにするというルールもいつしかできあがっているのである。
「見た感じ、ちょっとヤバそうだな」
冒険者たちの戦いを見ていると、それなりに連携は取れているもののかなり苦戦しており、危うい場面がいくつも見受けられた。それ故、俺としても助けるのはやぶさかではないのだが、冒険者の暗黙のルールに従って静観を決め込んでいるのである。ただし、相手側の冒険者の目に入りやすい場所にしゃがみ込んでという注釈がつくが。
冒険者たちが戦っているのは、ゴブリンウォーリアーやゴブリンアーチャーなどのゴブリンの上位種で、ランクとしてはDランクに属しており、そこそこ手ごわい相手ではある。
ただしDランクとはいっても、Eランク寄りのDランクといった感じなので、パーティーとしての連携が機能していれば苦戦することはないのだ。
「おい、そこのお前! 見てないで助けろ!!」
などと彼らの状況を観察していると、リーダーと思しき相手から救援要請があったため、ルールに従い介入することにした。といっても、相手はDランク程度のモンスターなので、勝負は一瞬にして片が付いてしまい、あっという間にモンスターの死骸が量産される結果となった。
「す、凄い」
「あ、圧倒的だわ」
「……」
「おい、お前! なんで、最初から戦いに参加しなかったんだ!?」
戦っていた冒険者は四人組で、男と女がそれぞれ二人ずつの若いパーティーだ。俺が介入したことで他の三人は驚愕していたが、救援要請をしたリーダー格の青年一人だけが、俺の行動に非難の声を浴びせてきたのだ。
「冒険者の暗黙のルールで、他の冒険者が戦っているときは助けを求められない限りは戦いに参加しないっていうのがあるんだ。まさか知らなかったわけじゃないだろう?」
「だからって、状況的に救援要請できないこともあるだろうが!」
確かに彼の言う通りそういう状況に陥る場合もなくはない。しかし、今回は明らかに救援要請できる状況であった。それに出現しているモンスターに実力が伴っていないところを見るに、おそらくは……。
「お前らランクは?」
「な、なんでランクを言わなきゃならないんだ! そういうお前こそランクはいくつなんだ?」
「俺はBランクだ。これで俺のランクはわかったな。で、お前らのランクは?」
俺の提示したギルドカードに全員が驚愕する。そして、全員が何か後ろめたいような雰囲気で視線を逸らした。……こいつらまさか。
「まさかお前ら、Eランクじゃないだろうな? ギルドカードを見せろ」
「そ、それは……」
青年は、ギルドカードの提示を渋っていたが、俺が促すと渋々といった具合に取り出して見せた。やはり、俺の思った通り彼のランクはEランクだったようで、その結果に思わずため息が漏れる。
ダンジョン攻略に際し、ギルドは冒険者に対しとあるルールを設けている。それはランク別による攻略可能階層だ。ランクに応じて攻略を許可している階層があり、Eランク冒険者が攻略できるのは七階層までなのだ。そして、今俺がいる階層は九階層であるため、彼らはギルドのルールを破ったということになる。
「お前ら自分たちがルール違反をしていることは理解しているな? 許可されていない階層に入った挙句、格上のモンスターにやられかけそうになってたんだぞ。俺が助けに入らなかったら、死んでたかもしれないんだ」
「「「「す、すいませんでしたー!!」」」」
それから、俺のお説教が続きようやく解放された彼らだったが、肉体的な疲れよりも精神的な疲れが出ているようだった。それから、このまま放っておくわけにもいかず、俺が近くのセーフティーゾーンまで護衛しながら送るということになり、次のセーフティーゾーンで彼らと別れた。
彼らには、ちゃんとギルドに報告して然るべき処分を受けるように促しておいた。これで報告しないようなら、冒険者としては彼らも長くはないだろう。
それから、そのまま進んでいくとようやくボス部屋に通ずる扉が見えてきた。扉の前には数組の冒険者パーティーが順番待ちしていたので、その後ろにならんで順番を待った。後ろに並ぶ際何人かが視線を向けてきたが、特に声を掛けてくることもなかったので、順番が来るまで待つことにした。
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