ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

78話「くっころさんVSローランド」



「むうー」


 今起こっている状況に、俺は口を引き結んだ状態で不満げな声を上げながら目を細める。……どうしてこうなった?


 現在、冒険者ギルドの訓練場にある模擬戦専用の武舞台に立っている。そこまでは良しとしよう。だが、問題は対面に対戦相手がいるということである。


 不敵な笑みを浮かべながらこちらを凝視する姿は、獲物を見つけた猛獣の如しだ。……うわ、舌なめずりしてやがるよ。


 すべての女騎士がそうだとは言わないが、統計的に女騎士という生き物は好戦的であり、戦うことが至上の喜びであると言わんばかりの脳筋種族である場合が多い。どうやら目の前にいるくっころさんもその例の漏れず、戦いが始まるのを今か今かと待ち侘びていらっしゃるようであった。


「いいか、私が勝ったら大人しく我々と共に公爵家屋敷に行き歓待を受けるのだ」

「俺が勝ったら、もう二度と俺に関わろうとするな。そして、お前が負けた時に絶対に“くっ、殺せ”とは言うな」

「最後のは意味がわからんが、いいだろう」


 状況的に理解できると思うが、一応説明しておくことにする。現在くっころさんことクッコに決闘を申し込まれ、彼女と模擬戦を行うことになったのだ。決闘で勝った後相手に呑ませる条件として、彼女が勝てばファーレンと共に公爵家の屋敷に行くということを提示し、俺が勝てばこれ以上俺に関わらないということを条件とした。


 冒険者ギルドにある、冒険者たちが訓練や実践的な模擬戦などを行うことができる訓練場で決闘を行うことになり、俺と彼女らとのやり取りを聞いていた冒険者たちも野次馬としてこの決闘を見物している。


 当然だが、そこかしこで賭け事が行われ、オッズ的にはくっころさんの方が高い結果となった。まあ、見た目が子供であるからして、そういう結果になるのは仕方がないが、何となくムカつくのはなぜなのだろうか? ああ、わかった。賭けの倍率を聞いたくっころさんが、これ以上ないドヤ顔をやってたからだ。


(いいだろう。そのドヤ顔をできなくしてやる……)


 久々に湧き上がってくる負の感情を押し殺しながら、まずは相手の戦力を確認するべく、解析を使って調べることにする。格下であろうとも油断しないのが俺のポリシーなのだ。



【名前】:クッコ・ロリエール

【年齢】:十七歳

【性別】:女

【種族】:人間

【職業】:騎士


体力:4800

魔力:1700

筋力:A

耐久力:A

素早さ:B-

器用さ:C+

精神力:C

抵抗力:B-

幸運:B-


【スキル】


 身体強化Lv7、剣術Lv8、格闘術Lv7、集中Lv3、限界突破Lv2



 なるほど、でかい態度を取るだけあってなかなかの強さを持っているらしい。しかし、この強さで副団長なら団長は一体どれくらいになるんだ?


 騎士という職業だけあって、パラメータもスキルも物理に特化しているようだ。気になったのは、初めて見た【限界突破】というスキルだ。当然解析で詳細を調べる。



【限界突破】:一定時間、すべてのパラメータのX段階上げる。Xは限界突破のスキルレベルに依存する。



 ……ふぁっ!? な、なんだこのぶっ壊れスキルは? チートじゃねぇか! つまり何か? こいつが限界突破を使えば、現時点で筋力と耐久力がS-にまで跳ね上がるってことか?


 このスキルをカンストさせれば、十段階上昇するからそれだけで彼女の筋力と耐久力がSSS+になりやがるぞ。一番低い精神力でもS+になるって……このスキル俺も欲しいんだが?


 しかも身体強化を抜いた状態でそのパラメータになるわけだから、身体強化が加わったらかなりの強さになるだろう。


 いきなり突き付けられた情報に内心で驚愕するも、俺とてこの数日間何もしてこなかったわけではない。とりあえず、俺自身のステータスもチェックしておこう。



【名前】:ロラン

【年齢】:十二歳

【性別】:男

【種族】:人間

【職業】:元領主の息子・冒険者(Bランク)


体力:11000

魔力:15100

筋力:S+

耐久力:S+

素早さ:S+

器用さ:S+

精神力:S+

抵抗力:S+

幸運:S+


【スキル】


 解析Lv3、身体強化・改Lv3、索敵Lv3、隠密Lv2、魔道の心得Lv2、四元素魔法Lv2、

 炎魔法LvMAX、氷魔法LvMAX、雷魔法LvMAX、大地魔法LvMAX→(炎・氷・雷・大地の魔法が統合)上位属性魔法Lv1(NEW)、

 霧魔法Lv4(NEW)、嵐魔法Lv2(NEW)、木魔法Lv2(NEW)、砂魔法Lv2(NEW)、光魔法Lv7、闇魔法Lv7、時空魔法Lv3(NEW)、

 真・剣術Lv2、真・格闘術Lv2、集中Lv8、スキル習得率アップLv4、スキル熟練度アップLv4、成長率アップLv2(NEW)、分離解体Lv4



 ……うん、順調に化け物になっておりますな。しかしながら、これは現時点での予想に過ぎないのだが、あの女魔族と比べればこれでもまだ勝てないというのが、俺個人の見解だ。それだけあの時の女魔族が、化け物だったということなのだろう。


 体力が五桁の大台に乗り、魔力も順調に成長している。各種パラメータはすべてS+となり、次はおそらくSS判定になるのだろう。


 スキルは上位属性である炎・氷・雷・大地がレベルMAXまで上がり、新たに統合スキルとして【上位属性魔法】となった。複合魔法も順調に上がっているが、強力な魔法であるためなかなか使いどころがないのが難点である。まあ、それは上位属性の魔法も同じことが言えるのだが……。


 あと足りないものといえば、毒や麻痺などの異常状態を回復させるための回復魔法と、それ自体を防ぐ耐性系のスキルだろう。……今度毒キノコを食べてみるか?


 それから地味に嬉しかったのが、時空魔法のレベルが上がったことでストレージの容量が100トンから453トンに増えたことと、分離解体のレベルも4に上がり、一匹で取れる素材の量が増加した。一匹当たりの入手できる素材の量は、最初から決まっているのではと疑問に思ったのだが、そこはファンタジーだからということで自分を納得させた。ってか、ファンタジーに現実世界の常識を持ち込むこと自体がナンセンスである。


 さらに新しく【成長率アップ】というスキルを覚えたことで、各パラメータの成長率も上がり、これでますます強くなることができるようになったのである。


 尤も、現状攻略中のダンジョンに出現するモンスターでは、精々が遠距離タイプの魔法の的くらいにしか役立っていないため、モンスターを倒すよりも自己鍛錬で自分を訓練した方が得られる経験値的なものは多い気がする。


 というわけで、今の俺の強さから見て、仮にくっころさんが【身体強化】や【限界突破】を使用して本気でぶつかってきたとしても、何とかなるのではと考えているのである。


 だが、それもステータスだけを見た予測的なものでしかなく、とどのつまり戦ってみないとわからないというのが今確実に言えることではある。


「それでは、二人とも準備はよろしいですね? では……始め!」


 俺とくっころさんにそう確認を取ると、ムリアンが模擬戦開始の合図を出す。事情を知ったムリアンが、審判を務めてくれることになったのだが、その手際の良さに最初から仕組まれていたんじゃないかと邪推してしまう。


 そんなことを考えていると、いきなりくっころさんが突っ込んできた。模擬戦のためお互い使用している武器は、切れない木剣を使用している。さすがに高いパラメータだけあって、その勢いはなかなかだが俺の方が高い能力を有しているため脅威とは成り得ない。


「はあ!」

「よっと」

「な、なにっ!?」


 まさか自分の攻撃が避けられるとは思っていなかったのか、俺が攻撃を回避して見せると驚きの声を上げる。


「どうした。まさか、そんな程度の実力しかないとか言わないよな?」

「おのれ、調子に乗りおって。ならば、これならどうだ!」

(ふん、猪武者め。さっそく身体強化を使ってきたか)


 俺の挑発にまんまと乗ってしまったくっころさんが、身体強化を使って襲い掛かってくる。しかしながら、俺も身体強化を使ってその動きに対応できるので、先ほどと同じく彼女の攻撃が俺に当たることはない。


 その様子を見た他の連中は、短時間で勝負が決まると思っていたのか、ざわざわと騒いでいる。そんな中、焦ったくっころさんが自身の切り札であろう【限界突破】を使用した。


「まさか、これを使わされることになるとはな……。いくぞぉぉおおおお!!」


 猛々しい声を上げながら、上段から振り下ろされた攻撃はまさにS判定クラスの攻撃だった。その剣筋を見ただけで、その一撃がかなりのものであることが窺える。だが、一つ重要なことを彼女は見落としていたのだ。


「ほっ」

「なぁ!? これも避けるだと!」

「ち、ち、ち。どんな強力な攻撃も、当たらなければどうということはないのだよ?」

「くぅー。な、なめるなぁー!!」


 それからやけになったくっころさんが、一撃必殺に特化した攻撃を繰り出してくる。だが、そういった攻撃は得てして大振りであるため、当然俺に当たることはない。


 一方の俺は、小さく細かい攻撃を彼女に当てていき、確実にダメージを蓄積させていく。普段から剣術などは攻撃の型をなぞらえる程度のことしかできていないため、こういった実践的な訓練を行うことはとかく少ない。増してや、くっころさんほどの実力のある相手との模擬戦となれば、レンダークで出会ったギルムザック達くらいなものだろう。


(右、左、切り上げ、振り下ろし。なかなかの攻撃だが、型に嵌り過ぎている。これなら、目を瞑っていても避けられそうだな。まあ、やらんけど)


 相手の攻撃を見て確実に避けつつ、次の相手の出方を窺う。決して油断することなく、確実に相手の動きを一つ一つ見極めその動きに対する最適解の避け方で回避していく。


 一方の彼女からは戦う前にあった余裕は一切なく、焦りと苛立ちを覚え始めていた。見た目が成人していない子供であるということから、それほど実力はないだろうと舐めてかかった結果がこれなのだから。


「くそ、くそ、くそ、くそくそくそぉぉぉおおおお!!」

「女がそんな下品な言葉を使うのは感心しないな」

「ぐはっ」


 暴言を吐きながら、なり振り構わないといった風に木剣を振り回すくっころさんの側面に回り込み、木剣の柄を彼女の脇腹に突き立てる。その衝撃と痛みによって肺の中の空気を吐き出し、その場に膝をつく。


 誰がどう見ても俺が優位であることは明白だが、それでも彼女は諦めようとせず立ち上がる。先ほどよりも勢いがなくなったが、攻撃の手は休むことはなくもはや意地になっているとしか思えなかった。


「なぜだ。なぜ攻撃が当たらないんだ!!」

「簡単さ。お前よりも俺の方が強いからだ」

「そんなこと信じられるか! お前のような子供にこの私が、この私が負けるはずないんだぁぁぁぁぁああああああ!!」

「はあ!」

「ごふっ」


 俺の言葉に完全に冷静さを失ったくっころさんが、叫び声を上げながら剣を振り上げる。しかし、そんな隙だらけの攻撃を見逃すはずもなく、カウンターで俺の木剣の一撃が彼女の胴体に決まる。


 その一撃を受けた彼女は、数メートルほど吹き飛ばされその身が地面に叩きつけられる。だが、それでも意識を刈り取るには至らなかったようで、上体だけ起こしながらこちらを睨みつけてくる。


 その闘志は目を見張るものがあるが、状況的にこれ以上続けられないことは誰の目にも明らかであるため、審判を務めていたムリアンから試合終了の合図が出されるのは至極真っ当なことであった。


「そこまで! 勝者、ローランド!!」


 ムリアンの宣言によって、決闘の勝者が決まった。俺は、くっころさんの近くに歩み寄り、改めて宣言した。


「俺の勝ちだ。約束通り、俺に二度と関わるんじゃないぞ」

「くっ、殺s――」

「言うなぁああ!!」

「ごぼぁ」


 くっころさんがお約束である台詞を言おうとしたので、そのまま顎にショートアッパーをぶち込んで黙らせた。当然そんなことをされてただで済むはずもなく、とうとう彼女の意識は失われ気絶してしまった。


 彼女が気絶したのを確認すると、俺はその戦いを見守っていたくっころさんの飼い主――もとい、主人であるファーレンの元へと近づいていく。


 圧倒的な力を見たためだろうか、彼女の体が強張っているのが見て取れた。だが、そんなことを気遣う義理はないので、言いたいことを言ってからこの場を去ることとしよう。


「見ての通り、決闘は俺の勝ちだ」

「はい」

「だが、今回はなかなかいい訓練になった。それの礼という訳ではないが、あんたに関しては俺に二度と関わるなという条件から外すとしよう」

「え?」


 つまり、今回の決闘はくっころさんと俺との間で交わされた条件であって、彼女の主人であるファーレンとはなんの約束もしていないのである。だから、二度と俺に関わるなというのはくっころさんことクッコ・ロリエールのみに適応させ、ファーレンについてはその条件から除外することにしたのだ。


 だからといって、彼女とはできるだけ関わり合いになりたくないというのは変わらないのだが、会って間もない俺から見た彼女の性格からすれば、たぶん無理矢理にでも俺との関りを持とうとするのが目に見えているからだ。


 それならば、最初から間口を広げておいたほうが、こちらとしてもある程度の覚悟と心構えができるという思惑からくる妥協であった。


「あ、ありがとうございます!」

「だからといって、用もないのにくるんじゃないぞ?」

「では、用があれば来てもいいということですよね?」


 ……これである。貴族としての教育なのかどうかはわからんが、こういったしたたかさがあるから貴族令嬢はあまり好きではないのだ。


 俺は彼女の質問に答えることなく、その場を後にした。だが彼女の顔は満足げなものであった。俺の沈黙が彼女の質問を肯定するものであったからだろう。


 かくして、くっころさんとの決闘は俺の圧勝で終わり、彼女の“くっ、殺せ”を未然に防いだ俺は、ダンジョンへと向かうのであった。

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