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ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

75話「装備の新調」



 ――ビリビリッ、ビリッ。


 冒険者ギルドから逃げるように外に出てきてしばらくすると、不穏な音が聞こえてくる。音の出所を探ってみると、どうやらそれは俺の体から発せられたものだとわかった。


 正確には、俺の身に着けている装備から出ているもので、なぜそれがわかったのかというと身に着けていた革装備の肩部分がちぎれてしまっていからだ。


「ああ、もう寿命だなこりゃ」


 今まで言及してこなかったが、俺が使っていた装備は実のところ、ラレスタの街で新調した駆け出し冒険者向けの装備だったのである。自分の能力の高さと魔法での対応力が高かったために、今まで装備を重要視してこなかった結果によるものだ。


 当然ながら、そんな状態を見た他の者が誰も何も言わなかったのかという疑問が浮かぶことだろう。まあ、その答えは想像通り、再三に渡って言及されまくっていた。


 ギルムザックたちやミリアンやニコルなど、今まで出会ってきた知り合いに耳にタコができるほどに言われてきたのである。“新しい装備を新調しろ”と……。


「こりゃ、もう年貢の納め時ってやつだな。仕方ない、ちょうど大金が手に入ったことだし、これを機に装備を新調するか」


 まるで往生際が悪い悪役のような言い回しをしてしまったが、俺とて新しい装備が嫌なわけではないので、そのまま装備品を取り扱う店舗へと向かうことにした。


 この世界の様式美がそうであるのか、はたまた機能的に優れているのかはわからないが、オラルガンドの街の構造は周囲を円形の外壁に囲まれた内側に街があり、区画毎に整備されている。


 それぞれ、住居区・商業区・公共区・貴族区の四つに分類されており、各々建築されている建物の種類が異なる。住居区は主に平民が住まう建物が軒を連ね、前世で言うところの団地のような区画である。


 商業区は、物を売り買いする商店や軽食や食材などを取り扱う露店などが建ち並び、街の中で最も賑わいを見せる区画でもある。公共区は冒険者ギルドや商業ギルドといった公的機関の建物が多く、それに伴って宿などの宿泊施設もかなりの数が存在する。


 最後に貴族区は、その名の通り貴族などの富裕層が住まう区画で、街の中で最も豪華な建物が建ち並ぶ区画でもある。国の要人が多く滞在していることもあって、一般人は立ち入りを制限されており、特別な許可を得た者か貴族区に住居を構える者でなければ入ることはできない。


 それから当然のことではあるが、この区分けはかなり大雑把に分けられたものであって、住居区にも露店や店舗があるし、商業区に住居を構える人間だって存在する。さらに加えてこの四つの区画に属さない場所も多数存在し、その一例として挙げられるのがスラムという場所だ。


 スラムは、決まった住居を持たず、尚且つ決まった職に就いていないその日暮らしの人間が行きつく場所とされており、当然だが治安もかなり悪い。他の区画にはちゃんと巡回の兵士が警邏をしているのだが、その巡回のルートにスラムは含まれていないのだ。


 オラルガンドの街としての規模もシェルズ王国の王都に次ぐものとされているため、この四つの区画に分けるというだけでもかなり大変なことなのである。


 それだけの規模であれば、到底だが徒歩での移動は困難を極める。その対策として、大通り限定ではあるがある一定の区間を往復する乗り合い馬車が設置されている。


「らっしゃい、どちらまで?」

「商業区まで行ってくれ」

「あいよー」


 かく言うこの俺も歩いて商業区まで行くのは辛いので、乗合馬車を使って商業区へと向かっているのだ。ちなみに運賃は小銅貨三枚ととってもリーズナブルになってはいるが、りんご一個の値段が小銅貨二枚なため平民はあまり利用する機会は少ない。


 ガタゴトと馬車に揺られること十数分後、お目当ての商業区に到着する。商業区に入ると、大通りを挟んだ左右にこれでもかというくらいに店が建ち並んでおり、そのすべてが営業中の看板を掲げている。


 その中の一つに剣の看板が置いてある店に入ってみたのだが、俺の姿を見るなり店番をしている店員が声を上げた。


「いらっしゃい! 今日はどんなものをお探し……って、なんだガキかよ」

「装備の新調を頼みたいんだが」

「おめぇみたいな駆け出しにうちの商品が買えるわけがないだろ! 邪魔になるからとっとと出ていってくれ!」

「待て、金ならあるぞ」

「ふん、吐くならもっとマシな嘘を吐くことだな!!」

「……本当なんだが。まあ、いいか」


 そんな感じで頭ごなしに怒鳴られた結果、こちらの言い分も聞かずに追い出されてしまった。……まあ、装備品を取り扱う店はここだけじゃないんだ。他の店で買えばいいだけのことだ。……なんて、思っていた時期が俺にもありました。


「出ていけ、お前のような駆け出しに買えるもんはねぇ!」

「……」


 ……なぜだ? 何がどうしてこうなった? なぜどこの店も俺に売ってくれないんだ?
 あれから武具を取り扱う店を渡り歩いたが、未だに俺を客として取り扱ってくれるところがない。……解せぬ。


 最終手段として、相手が何か言う前に金貨の入った袋を叩きつけてやれば売ってくれるだろうが、そんな連中から物を買いたいとは思わない。俺のことを一人の客として扱ってくれるところから買った方が気分がいいだろうし、何よりもそんな相手が作った物であれば値段は抜きにして価値のあるものだと俺は思う。まさにプライスレスだ。


 そんなこんなで、見た目で追い返され続けること七軒、今から八軒目となる店に足を踏み入れようとしていた。ここが駄目だったら、一度冒険者ギルドで紹介してもらったほうがいいかもしれないという考えが脳裏に過る。


 今回の店舗は今までの店舗よりも少し手狭な広さで、扱っている武具のグレードも他店と比べるとあまり良くはなさそうだった。


「いらっしゃいませっすー。【ドルフ武具店】へようこそっすー」

「……」


 入店するとすぐに店員の少女が声を掛けてきた。歳は十代半ばくらいで、褐色の肌をした身長の低い女の子だった。身長の割に女性として均整の取れた体つきをしており、昔風に言えばトランジスタグラマーというやつである。こげ茶色のボサボサ髪をした鍛冶職人の弟子風な服装に身を包んでおり、着崩しているのかそれともただ単にズボラなのかはわからないが、なんとも色情的な雰囲気を纏っていた。


「何かご入用っすかー?」

「ああ、見ての通り装備が使い物にならなくなってな。新しく新調したい」

「了解っすー。ちょっと待っててほしいっすー」


 俺が来店の目的を告げると、武具を作っている工房のある扉へと入って行った。しばらくして少女と共に現れたのは、厳つい顔の髭もじゃ親父であった。その肉体は鋼のように鍛えられており、まさに筋骨隆々という表現が適当だ。しかしながら、その身の丈は通常の成人男性よりもかなり低く、所謂ずんぐりむっくりであった。


「お前がプリムの言っていた小僧か? 装備を新調したいらしいな」

「ああ、使い物にならなくなってしまったんでな」

「ほう。小僧、その装備ちょっと見せてみろい」


 俺の装備を見た髭もじゃ親父が、感心したような声を上げながら見せろと言ってきたので、装備を脱いで差し出した。装備を受け取ると、細かいところを観察し始めそれが終わると豪快な笑い声を上げ始めた。


「ガハハハッ、おい小僧。この装備かなり使い込まれているようだが、どれくらい使っていたんだ?」

「一月かそこらだな」

「ふん、そうか……ところで新しい装備はどんなものを希望するんでぃ?」


 髭もじゃがそう聞いてきたので、改めてどんな装備がいいのか考えてみる。今まで使っていたのは、駆け出し冒険者が使用する最低限度の装備であるため、同じ装備を選ばない限りは性能自体はどれも上の性能となる。


 だが、せっかく装備を新調するのであれば、今手に入れることができる最高の物を手に入れるべきだと俺はそう考えている。もちろん今の俺が出せる金額内での話にはなるが、希望としてはできるだけ高性能なものがいい。


「前の装備と同じくらいの重さで、系統としては軽鎧だな。とにかく動きやすさ重視で頼む」

「ふむ、ちなみに予算の上限は?」

「ない。だから軽鎧の中でも高性能なものがほしい」

「言いやがったな小僧。なら、今のお前にちょうどいいもんがある。ただし、結構値が張るが本当に大丈夫か?」

「大金貨数百枚なら厳しいかもな」

「そんなにはしねぇよ! とにかく持ってくっから、ちょっと待ってろい」


 そう言うと、二人とも工房とは反対にある扉の方へと入って行った。どうやらその先は倉庫へと繋がっているようで、出来上がった品を保管しておくための場所らしい。


 しばらくして二人が持ってきたのは、一つの軽鎧一式だった。見た目は灰色がかった色合いをしており、地味目ではあるがどこか他とは違う雰囲気が漂っている。


「待たせたな。こいつはロックリザードっていうモンスターの素材を使って作ったものなんだが、見ての通り子供サイズに作られててな。なかなか買い手が付かなかったんだ」

「なぜ子供サイズに?」

「実を言うと、もともとはある貴族の坊ちゃんが購入する予定だったんだが、他にいい装備が見つかったとか何とかで土壇場になってキャンセルされちまったんだよ。大人サイズに再加工しようにも、子供サイズ分の素材しか手に入らなかったこともあって、ずっと倉庫に眠ってたってぇ寸法だ」

「ふーん。で、肝心の値段はいくらなんだ?」


 事情はなんとなくわかったが、問題は値段である。この装備がドタキャンで死蔵になったという経緯は抜きにして、決して悪い装備ではないということは見ただけでわかる。値段によっては購入を考えてもなんら問題はない。


「本来は小金貨八枚だったんだが、納品する予定だった貴族からキャンセル料として材料費は支払ってもらったから、特別におまけして小金貨五枚でどう――」

「買った」


 髭もじゃ親父の言葉を待たずして、小金貨五枚を取り出し即座に支払う。駆け出し冒険者にとって小金貨五枚は決して安くはない値段だ。日本円して五百万円なのだから。


 だが、今の俺なら余裕で支払えてしまうため、即決で購入することにしたのである。俺が小金貨五枚を支払えないと考えていたのか、突如として出てきた小金貨を片手に呆然となっているようだ。


 おそらく、こういう装備を買えるように頑張れと発破をかけたかったのだろうが、残念ながらそんなことをする必要はないのだよ。


「おい、なにを呆けているんだ?」

「お、おう。すまない。まさか本当に買ってくれるとは思わなかったんでな……」

「じゃあ防具はこれでいいとして、あとは解体用のナイフと剣も一つずつ欲しいんだが」

「……」


 まさかさらに追加で購入するとは思っていなかったのか、再び黙り込んでしまった。結局、鋼製の解体用ナイフと剣を購入し、ひとまず装備の新調は完了した。ちなみに値段はナイフが大銀貨七枚で剣が小金貨四枚である。


 魔法鞄の方が高かったので、この程度の値段であれば安いと思えてしまう感覚を覚えながらも、これで装備の新調が整った。それから防具の細かい調整を行い、俺の体に合うように調整してもらった。


「小僧、お前さん一体何もんだ?」

「何もんって、冒険者だよ。見てわからないのか?」

「そういう意味じゃねぇよ!」

「まあ、とりあえず自己紹介をしよう。俺はローランドだ。冒険者をやっている」


 まだ名乗っていなかったことを思い出した俺は、二人に自己紹介をする。俺が名乗ったことて反射的に二人も返答する。


「ドルフだ。見ての通り鍛冶職人でドワーフだ」

「あたしはプリムっす。十六歳っす。この店の看板娘で、ドルフの娘っす」

「そうか、二人ともよろしくな。じゃあ、俺は今からダンジョンに行ってくるからこれで」


 装備の新調も終わったので、店を後にしようと踵を返して出ようとする。その背中に向かって慌てたようにドルフが問い掛けてきた。


「小僧、ランクは何だ」

「Bランクだ。じゃあまた」


 それだけ言い放つを俺は店を出た。突如として言い渡された情報を噛み砕くのに、数秒の時間を要したドルフとプリムは、俺を呼び止めるのが遅れてしまう。


「「え?」」


 そして、彼らが言葉の意味を理解したその時、驚愕という形で一文字の言葉が叫び声となって店に木霊した。


「「ええええええええええええええ」」


 すでにその場にいなかった俺は、その声を聞くことはなかったが、言われた二人からすればそれどころではなかったのである。その後、俺の言葉が真実かどうか冒険者ギルドで確認を取り、それが本当のことであると知ってさらに驚くことになる二人だが、それはまた別のお話である。

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