ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

72話「後からやってくる富と名声」



「わふ、ご主人様っ! ウルルと一緒に世界を見て回るです!!」


 目の前には、ケモ耳少女ことウルルが嬉しそうに駆け回っている。そして、ひとしきり駆け回り満足すると、俺の元に戻ってきた。


「ご、ご主人様……ウルルは、ご主人様の子供が欲しいです……」


 体をもじもじとさせながら顔を赤らめるウルルが、俺に近づきその顔を近づけてくる。そして、その愛らしい唇が俺の唇と重なろうとしたその時――。


「……知っている天井だ」


 意識が覚醒した俺の視界には、木造の宿の天井が目に映った。そう、所謂一つの夢オチというやつである。しかしながら、先ほどのやり取りが仮に夢であったとしても警戒しなければならないことがあるのだ。


「まさか、予知夢じゃねぇだろうな……?」


 先ほど見た夢が予知夢であるという可能性に、俺は警戒を強める。現在俺は、前世でできなかった旅をするという目的を果たすべく行動している。そして、その目的は基本的に一人旅を前提として考えているつもりなのだ。


 確かに一人でいるということは寂しい一面もある。だが、同時に複数人での行動をするとなると、ある程度の自由が利かなくなるというデメリットも持ち合わせているのである。


 仮に俺が見た夢が予知夢であった場合、何としてもそれを阻止しなければならない。そう、なんとしても……。


 まあ、可愛らしいケモ耳少女とのイチャラブ展開というのも悪くはないが、もし仮にこの状況を第三者が見ていたとすればこう言われることだろう。“テンプレ乙”と……。



 ―― もう言われてるぞー。ってか、こっちが新キャラ出そうとしてるところに感想コメでそれを邪魔しないで欲しいんだが……。感想コメ封鎖しようかな? ――



「っ!? なるほど、そういうことか」


 以前から聞こえていた空耳がまた聞こえてきたことで、俺はそれを理解する。どうやらこの世界というのは、誰かが描いた物語の中にいて俺がその主人公であるらしい。そして、聞こえてきた声はこの物語を書いている作者の怨嗟の声なのだと俺は結論付ける。


 ということを思ったのだが、理論的にそんなことがあるのかという思いもあり、結局どちらなのかと迷った結果、そういう存在がいるという体で話を進めることにした。……いなかったら、ただのおかしい人になってしまうからな。


「作者よ。残念だが、俺も読者の意見と同じで旅の仲間は必要ないんだ。だから、あのケモ耳少女の仲間入りは全力で阻止させてもらうぞ」


 俺は着の身着のまま世界を見て回りたい。ただ異世界観光旅行がしたいだけなのである。それを邪魔するというのならば、徹底抗戦に出てやるまでだ。


「やらせはせん。やらせんはせんぞ!!」


 宿の一室に響き渡る俺の声が虚しく掻き消えると同時に、自分がただの独り言を言っている姿に恥ずかしさを覚えた俺は、そそくさと朝の支度をして朝食を食べに一階の食堂へと向かったのであった。





     ~~~~~~~~~~~~~~~~~~





 朝食を食べ終えた俺は、宿を出て冒険者ギルドへと向かう。目的は前日に納品した素材の買取金を受け取りに行くためだ。ギルド内に入ると、冒険者たちで込み合っている。どうやら朝の依頼争奪戦が繰り広げられているらしい。


 冒険者ギルドの依頼のシステムは、朝一に掲示板に張り出された依頼書を剥がして受付にて受注作業を行うことで依頼を受けることができることになっている。尤も、依頼に書かれている内容がある特定の素材を納品してほしいという依頼であった場合、先にその素材を集めておき後で依頼を受けてから即納品という形の後受注というやり方も存在する。


 しかし、後受注の場合先に依頼だけを受けていた冒険者と納品する素材が被ってしまうことになり、そうなった場合買取金に若干のマイナス補正が付く可能性もある。そうならないようにするためにも、冒険者基本的に依頼書が張り出される朝一にギルドに赴き、依頼を受注してから素材を取りに行くというのがセオリーとなっている。


「ま、俺は多少お金に余裕があるから減額されても問題ない。それにあれに並ぶのは嫌だしな」


 そう言いながら人でごった返す掲示板を見ながら、俺は受付カウンターへと向かう。受付カウンターの買取専用の受付に顔を出すと、そこにはジョーイ式おっぱい眼鏡姉ちゃんことムリアンがいた。


 こちらに気付いた彼女が、眼鏡をくいっと上げる仕草をしながら笑顔で挨拶をしてくる。うむ、今日もいいおっぱ……もとい、いい笑顔だ。


「あ、たしかローランド君でしたね。今日はどうしましたか?」

「昨日納品した素材の買取金を受け取りにきた。清算できているか?」

「確認しますので、少々お待ちください」


 そう言うとムリアンがカウンターにあった書類の束の中から、俺が納品した素材に関する書類を引っ張り出し、内容を確認していく。そして、確認が終わると驚いた様子で再び声を掛けてきた。


「驚いたわ。昨日の今日でかなりの素材を納品してくれたみたいですね。清算の確認が取れましたので、買取金を取ってきます。もうしばらくお待ちください」


 確認が完了し、買取金の用意をするため彼女が立ち上がり、バックヤードへと下がっていく。しばらくして、重そうに袋を抱えながら戻って来ると受付カウンターにドサッという音を立てながら袋が置かれた。


 中を確認してみると、そのほとんどが大金貨や中金貨で埋め尽くされていた。少なく見積もっても大金貨換算で三百枚以上はある。それはいくらなんでもおかしい。


「なんだこれは? 買取金の金額としてはおかしいと思うんだが」

「いいえそれで合っています。ローランド君はこのオラルガンドに来る前にレンダークの街にいましたね?」

「あ、ああ」

「その時にオークキングが襲来したことはこのギルドにも情報が入ってきています。あなたがそのオークキングを倒すのにかなり貢献したことも」

「……」


 なるほど、だからレンダークのギルドマスターは俺が街を出ていくのをすんなり見送ったわけだ。合点がいった。


 実のところ、俺がレンダークの街を出ると言えば、ギルドマスターがその権限で報奨金の支払いなどを出し渋ることで俺を引き留める画策をしてくると考えていた。しかし、結果的にはすんなりと俺が街を出るのを見送ったのは、他のギルドで報奨金の支払いの肩代わりができると知っていたからなのだろう。


 おそらくレンダークのギルドマスターは、オークキング討伐の報奨金を出し渋ったところで俺を止められないと判断した。実際のところその判断は正しく、仮に報奨金がもらえなかったとしても俺は次の街へと向かっていたはずだ。


 それを予想していた彼は、レンダークの冒険者ギルドでの報奨金の受け渡しを取りやめ、オラルガンドに俺の情報を予め伝えておくことで、払いそびれた報奨金を支払う形を取ったのだと予想を立てた。


「ちなみに今回の報酬金の内訳ですが、レンダークでのオークキング討伐の報奨金が大金貨三百枚、納品いただいた素材の買取金が中金貨七枚と小金貨五枚となっております」

「そ、そうか」


 Oh……ほとんど報奨金というわけですか。そうですか、そうですか。でも、素材の買取金も日本円で七千五百万円になってるから、これはこれで破格の値段だと言えるのかもしれない。


 それにしても、オラルガンドにやってきただけで一気に三百億円という大金を得てしまった。十二歳にして億万長者になってしまうとは、人生何が起こるかわかったものではない。


 俺がそんなことを考えていると、ムリアンからさらに突拍子もないことを告げられてしまう。


「それと、今回のオークキング討伐の一件により、ローランド君のBランク昇格が決定しました。おめでとうございます」

「うそーん! 聞いてないんだけど?」

「今言いましたよ?」


 そう言いながら小首を傾げるムリアン。くそう、可愛いから何も言い返せん。……じゃなくて、いきなり急展開すぎないかこれ?


 まだオラルガンドにやってきて二、三日しか経っていないのに、なぜBランクに昇格してしまうのだろう。まあ、理由としては前の街で手続きをしてなかったからなのだろうが、それにしたってあまりにもあまりな通告である。


 こちらとしてもいずれBランクになるつもりだったとはいえ、期間的には一年後とかあるいは成人する十五歳を考えていたのだが、まさかこんなに早く昇格が決まってしまうことになるとは思っていなかった……。


「まあいい、とりあえずこの金はもらっておく」

「そうしてください。あと、ギルドマスターがローランド君にお会いしたいと言っておりますが、どうしますか?」

「……会おう」


 とりあえず、いろいろなことが起こり過ぎたため、一体何がどうなってこういうことになってしまったという経緯がまったくわかっていない状態だ。その経緯を知るためにも、それを知っているであろう人物に会うことは間違いではないので、今回はギルドマスターに会いにいくことにした。

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