ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

71話「素材清算と厄介事?」



「いらっしゃいませ。本日はどういった御用でしょうか?」


 俺の姿を見つけた少女が、姿勢良くお辞儀をして問い掛けてくる。その姿に好感を抱きつつ、ぶっきらぼうに俺は返答した。


「ダンジョンで手に入れた素材の買取を頼みたいんだが?」

「かしこまりました。では、こちらに出していただけますでしょうか?」


 俺の用向きに人懐っこい笑顔を向けながらそう言ってくる少女。うん、可愛い。……じゃなかった。俺は今、冒険者ギルドに来ている。


 ダンジョン攻略を一区切り付けた俺は、ここまでの行程で入手した諸々の素材を冒険者ギルドで買い取ってもらうべく、ギルドへとやってきた。時間帯的に俺と同じく、ダンジョンから戻ってきた冒険者たちで受付が混み合っていたが、ちゃんと列に並びようやく俺の番がやってきたのである。


「……このカウンターじゃ乗り切らないんだが?」

「そ、そうですか。では、こちらへどうぞ」


 そう言って、他の手の空いている職員に受付を代わってもらった少女と共に、ギルドの酒場とは反対面にある扉から解体場へと案内される。解体場はさすが迷宮都市の冒険者ギルドとあって、レンダークの冒険者ギルドの解体場よりも規模が大きく、前回のオークの襲来で襲ってきたオーク五千匹の解体でも対応できそうだった。


 解体場には、すでに運び込まれたモンスターたちを解体する作業員の姿があり、一日のうちのピークなのかその場にいる誰もが忙しく作業をしていた。それでもこの忙しさになれているようで、山のように積まれたモンスターを手際良く解体していく。


 そんな光景に感心していると、俺と少女を見つけたのか誰かがこちらに近づいてきた。


「おう、サコルじゃないか。どうしたんだ?」

「こちらの方が素材を納品したいと申されたのですけど、量が多いとのことでしたので、こちらにご案内しました」

「そうか。おう坊主、それで素材はどこにあるんだ?」


 話しかけてきたのは、筋骨隆々な体をした上半身裸のへんた……もとい、変質者だった。……え? あまり変わらないだって? 露出狂よりかはマシでしょ?


 男は三十代くらいで、身長百九十はあるんじゃないかという大男であり、なによりも既視感のある髪型をしていた。そう、彼には髪がなく所謂ハg……否、ツルリンヘッドだったのだ。


「ボールド……なのか?」

「なんだ。坊主、俺の従兄を知ってるのか?」

「あ、ああ。レンダークで世話になったんだ。それにしても、あんたもハゲてんだな」

「ハゲてねぇよ! ボールド兄貴も言ってたと思うが、これは剃ってんだよ!!」

「もう、ハゲルドさんいい加減にしてください!」

「やっぱりハゲなんじゃないか!」

「そりゃ名前だけだよ!!」


 などという漫才が繰り広げられたが、サコルが間に入ってくれたことでなんとかその場を収めることができた。ていうか、サコルって例のあの子だよな?


 サコルは、十代前半の幼さを残しながらも女性としての魅力が花開く前の絶妙な年頃にいる見た目をしていた。栗色の髪にサファイアのような青い瞳を持ち、まだ若いということもあって女性的な部分(主に胸)はまだ発展途上というべきではあるが、それでも同じ年代の女の子と比較すればかなり発育が良い方だ。……たぶん、DよりのCと見た。


「君がムリアンの言っていたサコルだったんだな。改めて自己紹介しよう。俺はローランド。見ての通り冒険者をやっている」

「サコルです。この冒険者ギルドで職員をやらせてもらってます。歳は十二歳です。彼氏はいません」


 ふーん、俺とタメね。それにしてはなかなか順調な発育具合だな。十二歳の俺が言うのもなんだが、五年後が楽しみである。それはいいとして、なんで彼氏の有無を答えたのだろう? もしかして、俺に気があるとかか? いや、会ったばかりの俺にそれはないだろ。うん、ただの情報だ。情報。


「俺はハゲルドっていうしがない解体作業員だ。よろしくな坊主」

「このギルドの解体場責任者が何を言ってるんですか? 冗談は髪型だけにしてくださいよ」

「なんだとサコル! そりゃどういう意味だ!?」

「やれやれ、また漫才が始まったな」


 それから、しばらくハゲルドとサコルの議論合戦という名の漫才が繰り広げられたが、切りのいいところで俺が割って入ることによりなんとか鎮静化させることに成功する。途中から同じ意見がループしていただけだっため、割って入るのは簡単だったが、俺が間に入らなければ延々と同じ意見を言い続けていたことは想像に難くない。


 いろいろとあったが、解体場に来た目的である素材の受け渡しができるようになったので、指定された場所に素材を置いていく。時空魔法のストレージについては希少な魔法かもしれないので、手持ちの魔法鞄から素材を取り出している風を装ってストレージからダンジョンで手に入れた素材を取り出していく。


 素材は主にスライム・ゴブリン・ダッシュボア・角ウサギの四種類とビッグスライムとゴブリンリーダーのボス二匹だ。合計すると六種類ということになるのだが、問題はその数にある。ダンジョンのモンスターは、何故かはわからないが実力差があっても何かに動かされるように目についた相手に襲い掛かってくるようで、進行方向にいたすべてのモンスターを相手にすることになってしまった結果、その素材の数はとてつもない量となっていた。


 魔法鞄から取り出していた最初のうちは、その様子を黙って見ていたハゲルドとサコルであったが、徐々に素材の山が大きくなっていくのを見るうちに徐々にその顔が引き攣り始め、とうとう我慢できなくなって叫ぶように問い詰めてきた。


「ちょ、ちょっとローランドくん、これはどういうことでしゅか!?」

「なにがだ?(噛んだなこの子)」

「この量を一日で取ってきたのですか?」

「ああ、そうだぞ」

「ただ取ってきただけじゃねぇな。すべて適切に解体されている。しかもかなりの解体の腕だ」


 サコルの指摘を補足するかのように、ハゲルドが付け加える。……あんたらさっきまで喧嘩してたのに、こういうときだけ結託しないでもらいたい。


 その後、二人からの追求をのらりくらりと躱しながら、なんとか今日手に入れた素材をストレージからすべて吐き出した。すべての素材が出そろった頃には、解体場は騒然となっており、作業をしていた作業員たち全員の視線がこちらに釘付けとなっていた。


「これで全部だ。確認してくれ」

「「……」」

「うん? どうした? 早く確認してくれ」

「サコル。こりゃあ……」

「はい、わかってます。ローランドくん、悪いんですけどこの量は多過ぎるので、買取金は明日の朝でも構いませんか?」

「ああ、ちゃんと金をもらえるなら問題ない」

「そうしてもらえるとこちらとしても助かります……」


 最終的に出てきた素材の数は全部で五百以上にもおよび、そのあまりの量の多さに解体場のスペースを一時占拠してしまったほどだ。あとは解体作業員に仕分けなどは任せ、俺とサコルは解体場を後にした。去り際にハゲルドが「どうやって解体したんだ」だの「うちで働かないか」などと何か既視感のあることを言ってきたが、これまた既視感のある言葉でサコルが割って入り断っていた。


 冒険者ギルドの方へと戻ってきた俺とサコルは、買い取りの手続きをするべく受付カウンター越しでやり取りを始めた。俺がギルドカードを差し出すと、やはりというべきか俺がCランクの冒険者ということに驚いていた。


 それから、買取手続きを行い翌日の朝に買取金の受け渡しが行われる運びとなり、俺は冒険者ギルドを後にした。


 ギルドを後にしてしばらくすると、索敵に反応があった。俺の後方を一定の距離を取りながら後を付けて来ているようで、目的は不明だ。何にしても厄介事の可能性が高いので、このまま宿に向かう訳にもいかない。少し考えた結果、敢えて相手の出方を窺う方針を取り、人気の少ない場所へと移動を開始する。


 相手もこちらの意図に気付いたようで、徐々にその距離が縮まっていく。そして、人気のいない路地へと差し掛かったその時、突如として声が上がる。


「待ちな坊主」

「俺に何か用か? さっきからこそこそと俺の後を付けていたようだが」


 後から追いついてきたのは、筋骨隆々な大柄の男だった。その見た目はゴロツキや盗賊という風貌で、決して善人には見えないほど醜い容姿をしている。


「け、やっぱり気付いてたかよ。まあいい、持ってる有り金全部寄越しな!」

「なんだ。ただの盗っ人か、そんなことして恥ずかしくないのか?」

「う、うるせぇ! やっちまえウルル!!」

「ガウウウ!」


 男の命令に、突如として得体の知れない何かが俺の前に立ち塞がる。……馬鹿な、俺の索敵にも引っ掛からなかっただと!?


 それは一言で表現するなら獣だった。四つん這いになりながらこちらに向かって威嚇をする様は、まさに野生の獣のそれである。ただし、その見た目は毛むくじゃらというわけではなく、幼い少女であった。白く長い髪の頭頂部には特徴的な二つの獣耳が生えており、俗にいう獣人と呼ばれる種族の特徴と一致する。


(な、なんだと? こんな奴がいたのか)


 その見た目の印象もそうだが、なにより俺が驚いたのは彼女の持つ能力にあった。解析の結果によってもたらされた彼女の能力は以下の通りである。



【名前】:ウルル

【年齢】:十一歳

【性別】:女

【種族】:獣人(白狼族)

【職業】:奴隷


体力:4000

魔力:2500

筋力:B+

耐久力:B

素早さ:A-

器用さ:B

精神力:B

抵抗力:C+

幸運:A+


【スキル】


 身体強化Lv8、気配察知Lv6、隠密Lv3、魔力制御Lv2、魔力操作Lv1、

火魔法Lv0、水魔法Lv0、風魔法Lv1、土魔法Lv0、格闘術Lv8、集中Lv2、野獣化Lv2



 全体的にステータスがかなり高く、俺の修行を終えたギルムザックたちよりも高い能力を備えている。奴の気配を察知できなかった理由として、俺の索敵のレベルよりも相手の隠密のレベルが高かったことが要因だろう。


 他に特徴的な能力として【野獣化】というスキルを覚えているらしく、詳細を調べてみると魔力を消費して肉体を獣化させると説明があったことから、MP消費型の身体能力強化系スキルだと結論付ける。


 これはまともに戦えば、パラメータ的には俺に分があるものの、身体強化と未知のスキル野獣化を使われたら勝敗が見えないかもしれない。


「ガウワアアア」

「おっとあぶない」


 いきなりとびかかってきた狼少女の攻撃を紙一重で躱す。相手は全力の身体強化を使ってきているため、こちらも気が抜けない。地面に叩きつけられた攻撃は激しい音と共に砕け散る。それだけでその攻撃の威力が凄まじいことが理解できた。唸り声は可愛らしいのにやることがえげつない。


 何度も飛び掛かってくる少女をまるで柳のように受け流しながら、勝機がないか探り続ける。その攻防が数度続いたその時、しびれを切らした少女の様子が変化する。


 全身に体毛が生え揃い、まるで直立した獣のような姿へと変貌を遂げた。おそらくあれが野獣化というスキルなのであろう。野獣化が完了した少女は、俺に目掛けて突進してきた。


「まずい。【アースパリィ】」


 瞬間的にその突進が危険だと判断した俺は、大地魔法の【アースパリィ】を使って強固な壁を出現させる。しかし、それでも少女の攻撃を数秒持ちこたえるのが精一杯で、壁に穴が開いてしまう。その数秒間の間になんとか直撃は避けられたものの、頬に掠った攻撃によって血が滴っていた。あれを食らったら俺でもただでは済むまい。


「やれ、ウルル! ガキを殺せ!!」

「ガウワ!!」

「ち、犬の分際で図に乗るな! 【マッドフィールド】、【ハーデンロック】!!」


 このままではじり貧だと感じた俺は、咄嗟に地面を泥に変える魔法で少女の足下を沼にし、その後すぐに泥を岩に変える魔法で地面に閉じ込めることに成功する。


 だが、相手の膂力はかなりのもので、もって数秒といったところだ。だが、それで充分である。俺は全力で身体強化を掛けさらに時空魔法のクリックとスロウを使用し、少女に命令している男に突撃した。


 身体強化の上位スキルである身体強化・改とさらに時空魔法でスピードを上げ、スロウで相手の動きを遅くしてからの奇襲に出た。どうやら命令を出していた男の能力はそれほど大したことはなく、若干オーバーキル気味に俺の奇襲攻撃が決まり、壁に叩きつけられた男は気絶する。


 その数秒後、俺の魔法による拘束を破ってきた少女だったが、スロウによる減速によって先ほどの動きは見る影もなく、すぐに背後に回り込み首元に手刀を落として気絶させた。


「ふう、なんとか勝てたか」


 それから騒ぎを聞きつけてやってきた衛兵に事情を説明し、男と少女は連行されることとなった。とんでもない相手に出会ってしまったが、とりあえず今日は疲れたので宿に戻って休むことにした。

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