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ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

66話「ローランド、この世界のテンプレを知ってしまう」



 人通りの多い大通りを道なり進み、しばらくすると大きな建物が見えてくる。入り口付近に、見慣れた剣と盾の絵が描かれた看板が目に入った。どうやら冒険者ギルドに着いたようだ。


 ドアの付いていない開放的な入口を潜り建物内に入ると、正面に複数の受付カウンターがある。時間帯的に込み合っているのか、そこには少なくない冒険者の列ができていた。


 正面向かって左手側に酒場があり、右手側には依頼書を張り出しておくための大きな掲示板が設置されている。受付カウンターの左側に二階に行くための幅広の階段がある。


 オラルガンドの冒険者ギルドの建物は三階建てで、一階部分が主に事務関連の業務を行う部署となっている。二階部分は、大規模な依頼や極秘の依頼を遂行するために話し合いの場として会議室や宿が取れなかった冒険者のために仮眠室などがある。


 最後に三階部分は、様々な情報が記載された書物が保管管理されている資料室と、ある程度の役職を持つギルド職員に割り当てられた専用の執務室に、ギルド職員専用の宿泊寮があったりする。


「次の方、どうぞー」


 大人しく冒険者の列に並び、自分の番になるまで静かに待っていると、ようやく受付嬢から声が掛かる。受付嬢は十代後半で緑髪に眼鏡を掛けた女性で、整った顔立ちに女性として均整の取れた素晴らしいポロポーションの持ち主だった。特に胸が素晴らしく大きさ的にGはありそうだ。


 ……って、あれ? この褒め文句どこかで言った記憶があるぞと思い出したその時、目の前の女性の顔を見て思わず叫んでしまった。


「ジョーイさん方式かよ!」

「い、いきなりなんですか!? 私の名前はムリアンという名前なんですけど」

「もう言い逃れできないレベルだよ!」


 受付嬢ことムリアンが自分の名を名乗った時点で、俺はこの世界のテンプレを知ることとなってしまった。どうやらこの世界の冒険者ギルドの受付嬢は、前世に大流行した某ゲームに登場するキャラクターと同じ仕様となっているらしい。


 その仕様とは、容姿がすべて同じになっているということだ。そのゲームの主人公が新しい街にやってきた時、体力を回復してくれる施設にいる看護師的な仕事をしている女性キャラクターがいるのだが、その見た目はまったく同じの別人という設定があるのだ。


 今回はそれぞれ似ている名前が宛がわれているようだが、その名前もなんとなく語呂が似通っている。


「とりあえず落ち着いてください」

「そ、そうだな。いきなり取り乱して悪かった。で、それはそれとしてだ。マリアンとミリアンという名前に覚えはないか?」

「はい? その二人でしたら、私のいとこの双子の姉妹の名ですが」

「やっぱりかよ……」


 俺の問いに、小首を傾げながらムリアンが返答する。以前に出会った受付嬢と同じ姿なだけあって、その仕草は可愛いの一言に尽きる。……おっと、こんなことで時間を費やしている場合ではない。とっとと用を済ませよう。


 ちなみに俺がギルドへやってきた目的は二つあって、この街のおすすめの宿を紹介してもらうこととダンジョンについて話を聞くためだ。
 俺の後ろにも冒険者が並んでおり、早くしろという無言のプレッシャーを受けているため、気を取り直してすぐに用件を伝える。


「とりあえず、この街に初めてきたからおすすめの宿を紹介してほしいのと、ダンジョンについての規則なんかを聞きたい」

「かしこまりました。まずおすすめの宿ですが【夏の木漏れ日】という宿と【秋の落ち葉】がおすすめです。あとは【冬の枯れ枝】も最近は評判がいいと聞きますね」

「……」


 もし今この場に俺のこの世界での生活を見てきた人間がいるとすれば、そんな連中に問い掛けてみたい。……何か嫌な予感がしないだろうか?
 ラレスタとレンダークに宿泊した宿にいる妖艶な中年女性と、その女性に似た娘の顔が思い浮かんでいるのは決して気のせいだとは言えない自分がいる。


「……そっちはたぶん、ジュンサーさん方式なんだろうな」

「何か言いましたか?」

「いや、なんでもない。ダンジョンについて教えてくれ」

「かしこまりました」


 すでに諦めの境地へと至った俺は、そのことについてはそういうものだと受け入れることにし、ダンジョンについての説明を聞くことにした。


 ダンジョンはいくつもの層によって構成されており、下の階層になればなるほど出現するモンスターが高ランクになり強くなっていく。ここまでは、俺が知っている情報だ。
 それに比例する形で、たまに生成される宝箱の中身も価値のあるものになっていくとのことだ。それ目当てで、一日中同じ階層を探索する冒険者もいるらしい。


 オラルガンドのダンジョンの階層は全部で百階層あると言われているが、それも定かではないらしい。というのも、人類史上オラルガンドのダンジョンの最高到達階層は八十六階層となっており、しかもその人物がかつてのSSSランク冒険者がいるパーティーだったらしい。


 各階層毎に複数の転移ポータルと呼ばれる転送機が設置されており、そのポータルに触れることで行ったことのある場所へとすぐに行くことができるとのことだ。
 転移ポータルに関しては、ダンジョンができる過程で同時に生成されるものらしく、そのメカニズムを長年に渡って世界の学者たちが調べているが、詳しいことはあまりわかっていないらしい。


 ダンジョンの入場に関する規制としては、まず第一に冒険者か護衛を雇った人間でないと入場自体ができない規則となっている。これについては俺はCランクなので問題はない。
 具体的な入場規制としては、一番下のFランクは三階層までの入場が許可されており、他のランクの入場制限は以下の通りとなっている。




 F 三階層まで

 E 七階層まで 

 D 十五階層まで

 C 二十階層まで

 B 三十階層まで

 A 五十階層まで

 S以上 制限なし




 この入場制限に関しては、昔はあまり明確に制限されていなかったのだが、近年になって自分の実力に合っていない階層を攻略する無謀な冒険者が続出したことで、多くの命が犠牲になってしまったことを活かしてできた規則らしい。


 今の俺のランクはCランクなので、二十階層までの攻略が許可されていることになる。ここのダンジョンの難易度がどれくらいのものなのかわからないので、とりあえず街の散策をしたあとで様子見に行ってみることにしよう。


「他に何かございますでしょうか?」

「いや、大丈夫だ。ありがとう。……ああ、そうだ。つかぬことを聞くが……」

「私に恋人はいませんよ?」

「……お前は何を言っているんだ?」

「ええ? 私を口説くんじゃないんですか?」

「……」


 ムリアンのとんちんかんな返答に、思わず目を細める。なんでも、冒険者たちが自分を見るなり食事だのデートだのと口説いてくるので、俺もその手合いだと勘違いしたらしい。

 ……おいおい、俺は十二歳だぞ? いたいけな十二歳の少年がそんなことをすると思うのか? ……なに、する? そんなことはない、絶対にだ!


「このギルドにニコルという職員はいるか? いるだろどうせ」

「なんでそんな決めつけてるんですか。いませんよ」

「……本当か?」

「はい。あ、でもサコルという名前の職員ならいますけど?」

「一個増えとるっ!?」


 どうせいると思っていたニコルがおらず、その代わりにサコルという職員がいることにまたしても妙な突っ込みをしてしまった。
 ジョーイさん方式の範疇にいると思われたニコルがいないことに、この世界のいい加減さを感じてしまう。……そこはもっと徹底しようぜ世界さん?


 そんな訳の分からないことを内心で思いつつも、聞きたいことはすでに聞けたので他の冒険者の邪魔にならないよう、すぐに受付を後にした。
 この世界の三つ目の冒険者ギルドに来たことで、とんでもないテンプレを知ってしまうことになった俺だが、基本的に実害はないのでそういうものだと納得することにした。


 これで冒険者ギルドの用事は済ませたため、ムリアンにすすめられた宿の一つに行ってみることにした。

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