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ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

65話「テンプレに出くわすも、逃亡する」



「ここに来て、テンプレが立ちはだかるとは……」


 レンダークの街を出発して五日が経過した。その間特にこれといったイベントが起きることなく、旅は順調に進んでいた。
 急ぎの旅路という訳でもないので、自己鍛錬を行いながらゆったりとした旅を楽しんでいた。


 現在位置は、ラガンフィード領を東に二百キロほど進んだ地点にある街道を歩いている。これだけの距離を移動してもまだラガンフィード領内だというのだから、このシェルズ王国という国がどれだけ広いかがわかるだろう。


 そんな順調な旅路だったが、それも先ほどまでのことである。街道を道なり進んでいると、少し進んだ場所に馬車が停まっているのを発見する。
 ただ休憩のために停まっているのであれば問題は何もないのだが、馬車の周囲を武装したガラの悪い男たちが包囲していれば話は変わってくる。


 しかも、その馬車というのがまた問題で、明らかに位の高い人間が乗っていることが丸わかりな豪華な造りをしており、少なくとも馬車にいる人間が平民でないことは明白だ。さらに加えて、その馬車を守るように数人の騎士たちがいることで、中にいる人物が只者ではないということを如実に物語っている。


 状況だけを見れば、盗賊たちに襲われていることは理解できるが、このあとの行動をどうするべきか目の前の光景を眺める。取れる選択肢は二つに一つだが、それによっては面倒な展開が待ち受けている。


 例を挙げるなら、中にいる人物が貴族やそれに準ずる存在だったとしよう。そして、今いる盗賊まがいの連中をどうにかした場合、十中八九感謝される。そうなればそういった身分の高い人間と知り合ったことで、様々な厄介事に発展する可能性が出てくるのである。


 もちろん、身分の高い人間を味方につけておくことで、別の身分の高い人間が敵に回った時に対処してもらえる場合もあるが、大概が面倒なことが待ち受けている。


 かといって、このまま見殺しにするのは後味が悪いという自分勝手なジレンマに囚われてしまっている俺がいる。実に悩ましい限りだ。


「なら、取れる選択肢は一つだな。【アクアミスト】」


 武装した連中が、襲い掛かろうと身構えているのが見えたため、即座に行動を開始する。馬車を中心とした周囲一帯が、突如として濃霧に包み込まれる。もちろん、俺の魔法の効果によるものだ。


 しかし、襲っている者からすればいきなり霧が出現したことで、全員が狼狽えているようだ。護衛の騎士たちも何が起こったのか理解が追いついていないが、訓練された猛者だけあってすぐさま平静を取り戻し、一人また一人と襲撃者たちの首を刎ねていく。
 こちらの作戦としては、アクアミストで視界を奪ってその隙に奴らをなんとかしようと思ったのだが、想像していたよりも護衛の騎士が優秀だったようだ。


「これなら、俺が手を下すまでもないな。寧ろ、俺が介入することで返って邪魔になりそうだ」


 状況を鑑みて、もう危機は脱したことを見届けた俺は、そのまま騎士たちに気付かれないよう迂回しようとしたのだが、ここで予想外の出来事が起きてしまう。


『お待ちください』

「っ!?」


 突如として、頭の中に鈴を転がしたような声が響き渡る。いきなりの出来事に驚きはしたものの、ある程度の予想がついたところで答え合わせするつもりで謎の声に問い掛けた。


「馬車の中にいる奴だな。俺に何か用か?」

『助けていただいたお礼がしたいので、こちらまでお越しくださいませんでしょうか?』

「断る。間接的に俺があんたを助けたことは認めよう。だがそれはこちらの都合で助けただけだ。礼は不要。もしそちらが恩義を感じているというのなら、このまま黙って行かせてもらうことが一番の礼になる」

『そういうわけには行きません。我が家の家訓にも――』

「とにかく、俺は先を急ぐ。さらばだ」

『あっ、ちょ、ちょっと!』


 彼女の制止も聞かず、俺は街道から少し外れた場所を高速で移動し始める。周囲の風景を置き去りにする光景は、いつ見ても爽快感があってとても気持ちがいい。
 今回は相手と距離があったから逃げられたが、これが対面だった場合次は逃げられないかもしれないな……。


 そんなことを考えながら、迷宮都市に向けて進んでいく。ラガンフィード領を抜け隣領のマクレグール領をさらに東に突き進む。
 ちなみにマクレグール領には特に目立ったものはなく、ラガンフィード領と迷宮都市があるガルガンド領をつなぐパイプのような役割をになっているだけであった。


 それでも、二つの領地を行き来するためには必ず通らなければならない領地とあって、その活気は決して悪くはなくそれなりの賑わいを見せていた。


「あれが、オラルガンドか。今まで見てきた街とは比べ物にならないほどデカいな……」


 そう言いながら、数百メートル先にある大きな街を眺めていた。その規模はかなりのもので、レンダークの街がいくつも入るほど巨大だ。
 盗賊から馬車を救出してからさらに一週間が経過し、俺はようやく迷宮都市【オラルガンド】に到着した。


 本気を出していないとはいえ、俺の足でも十日以上日数が掛かっていることから、ここに到着するまでの距離がどれだけあるのかということがお分かりいただけることだろう。
 今いる場所からは街を取り囲む外壁しか見ることはできずその全容はわからないが、この距離から見える大きさから見ても、かなりの大都市であることは理解できる。


 街道には迷宮都市へと向かう旅人や冒険者などの人もいれば、荷馬車を引いている行商人の姿も見受けられた。あまり目立った行動は取るべきでないと判断し、注目されない程度の歩調で街を目指して歩いていく。


 オラルガンドの街を視認してから街の入り口にたどり着いたのは、時間がさらに一時間半が経過した後であった。
 門に並ぶ人の列はかなりのもので、かなりの時間が掛かることは容易に想像できる。そのことにうんざりしながらも、待つしかないため自分の番が来るまでひたすら待ち続けた。


「次」


 それからさらに一時間が経過し、ようやく自分の番がきた。結果から言って、特にこれといった問題もなく、すぐに街へは入ることができたのだが、俺がギルドカードを提示した時俺のランクがCランクであることを知って、門番の兵士が驚いていたのが少し面白かったくらいだ。


「さて、街の様子は如何なものかな」


 そう呟くと、首をきょろきょろとさせながらさっそく街の様子を観察していく。田舎者丸出しの仕草だったが、新しい街にやってきた期待感と誘惑に負けてしまうのは仕方のないことだと思いたい。


 オラルガンドの街並みは、レンダークの街とそれほど大差はないが人通りの数は比べ物にならないほど多く、それに対応するかのように大通りの幅も大型の荷馬車が二台すれ違っても余りあるほどの広さだ。


 大通りは舗装された石畳が規則正しく並べられ、行き交う馬車がスムーズに通行している。迷宮都市と呼ばれているだけあって、往来する人々は主に武装した冒険者が多く、改めてこの都市がダンジョンで成り立っていることを理解させられる。


「まずは、冒険者ギルドに行くべきだが、テンプレに逢いそうで嫌だな。まあ、行くしかないんだが……」


 ひとまず、冒険者ギルドで詳細を確認するため、人が流れている方向に逆らわず大通りの先になる冒険者ギルドを目指した。

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