ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

64話「大騒動!? 小さな英雄を探せ!!」



 時はローランドがレンダークの街を出発して数時間後のこと……。


 ~Side ギルムザック~


「どこだ? どこに行ったんだ!!?」

「探せ! 俺たちの英雄を探すんだ!!」

「一体どこに行ったっていうの!?」


 朝目が覚めると、そこには慌ただしく動く冒険者たちの姿があった。どうやら誰かを探しいるらしい。
 前日しこたま酒を飲み続けたせいか、頭がズキズキと痛い。完全な二日酔いだ。


 最悪な目覚めの中、意識がはっきりとしてくると今まで見えていなかったものが見えてくる。俺と一緒に酔い潰れていたはずの仲間姿がないということに……。


「あいつらどこに行きやがったんだ?」


 そんな呟きを一つ零したその時、宿の入り口から見知った顔が勢い良く飛び込んできた。アキーニだ。
 俺の姿を見つけると、すぐさま駆け寄ってきて焦ったように捲し立ててきた。


「大変よギルムザック! 師匠がいなくなっちゃの!!」

「なにっ? ……そうか、行ってしまったか」


 どうやらこの騒ぎは、俺たちに修行をつけてくれた師匠であるローランドの坊主がいなくなったことで起きていたもののようだ。だが、それを聞いても俺は慌てることはしない。寧ろついにこの日が来たかとすら思っているくらいだ。


 師匠、ローランドの坊主はもともと世界を見て回る旅の途中にこの街に寄ったと話していた。だったら、いずれこの街からいなくなるのは必然のことだ。


 俺たちの稽古も終わり、オークキングの討伐も完了した今となっては、師匠がこの街にいる理由はないだろう。
 そもそも師匠がこの街にやってきたのだって、効率のいい路銀稼ぎをするためにできるだけ大きな都市に行ってみようというあやふやなものだったらしいから。


「なに寝ぼけてるのよ!? これから凱旋パレードだってやる予定だったのに、この街を救った英雄がいなくなったら意味ないじゃない!!」

「あんまり怒鳴らないでくれ……二日酔いの頭に響く」

「とにかく、あんたも一緒に師匠を探しに行くわよ!!」

「お、おい! 今引っ張るなって!!」


 それからアズールとメイリーンの二人と合流した俺は、散々連れまわされることとなってしまった。二日酔いの人間を無理矢理連れまわした代償は大きく、途中で胃の中のものをすべて吐き出すという最悪の結果が待っていた。


 俺たちの捜索も虚しく、得られた情報は師匠が夜明け前にレンダークの街を出ていったというだけだった。他の三人は悔しいような顔を浮かべていたが、ある程度覚悟をしていた俺は悔しさよりも寂しさの方が勝っていた。


「どうしてアタイたちに何も言わずに出ていっちゃうのよ!?」

「まだ教えてほしいことがあったのに……」

「まだチューもしてないです……」


 一人だけおかしなことを口にしているが、それについて突っ込みを入れると厄介なことになりそうだという己の勘に従い、ただ黙って体力の回復に努める。
 ある程度騒ぎが収まってきた頃、師匠が泊っていた部屋の食堂のテーブルで休憩していると、宿の女将であるネサーナさんが現れた。


「あの~、ちょっといいですか~?」

「な、なんですか?」


 機嫌の悪いアキーニ、絶望するメイリーン、そして二日酔いの俺に代わり、四人の中で唯一まともな状態のアズールが彼女の対応をする。
 一体どんな用事なのかと気怠そうにテーブルに体を預けていると、彼女の口から出た言葉は意外なものであった。


「実は~、坊やからあなたたちに手紙を預かってるんですよ~」

「「「「え?」」」」


 二日酔いで気分が最悪のところに、今まで探していた人物から手紙を預かっているという言葉を耳にし、四人全員が驚きの声を上げた。
 今まで気分が最悪だったことなどまるで忘れてしまったかのように気分が回復し、ネサーナさんからひったくるように手紙を受け取ると、師匠からの手紙に目を通し始めた。



『よお、お前ら。俺が急にいなくなって驚いていることだろう。まあ、とりあえずオークキングの件も片付いたし、纏まった金も工面できたから次の街に行くわ。まだまだ足りない部分はあるが、とりあえず俺が教えることはもうなくなったと判断して、お前らに免許皆伝をくれてやる。喜べ! このあとの訓練のことは、自分たちでなんとかしてくれ。ああ、あと俺の後を付いてくるのは勝手だが、その時は全力で逃げるからそのつもりでな。いろいろあったが、お前らに出会えて楽しかった! じゃあな。ローランド』



 師匠の手紙を読み終えると、椅子に座り込み何もない空中に視線を向ける。他の三人が手紙の内容を問い質してきたため、力なく手紙を渡す。
 その内容はあまりに太々しく、あの愛らしい顔からは想像もつかないほどの仏頂面で言ってるのが見えてくる。


 くそう。何が喜べだ。まだあんたから学びたいことは山ほどあるってのに、こんな半端な状態でほっぽりだすとか、そりゃないだろうがよ。
 他の仲間も同じ気持ちなのか、手紙を読み終えると憤り悪態を吐く。しばらく、師匠の陰口合戦が続いたがそれも長く続かず、沈黙が訪れる。


「……追いかけるわよ」

「ええー。でも師匠がどこに行ったかわからないだろ?」

「あてもなくただ探し回るだけじゃなぁ……」

「……ねぇ、ちょっと待って」


 その沈黙をアキーニの一言が破り、次いでアズール・俺が続く。そんな会話を遮るようにメイリーンが口を開いた。


「先生が街を出る前、最後に立ち寄った場所ってどこなのかな?」

「はぁ? それがいったい何の関係が――」

「そうか、もしかしたら街を出る前に何人かに挨拶をした時、行き先を告げてるかもしれないってことか!」

「そう、だから調べてみましょう」


 メイリーンの提案に俺たちは同意し、まずは俺たち宛の手紙を受け取っていたネサーナさんに話を聞いてみることにする。そして、返ってきた答えはこうだった。


「坊やならうちの宿を出る時、冒険者ギルドに寄るとか言ってたわね~」


 その言葉を聞いた後、すぐに冒険者ギルドに向かう。最後にギルドに向かうのならギルドマスターに挨拶をしているはずだという結論に至ったからだ。
 ギルドに向かい、ちょうど受付にいたミリアンに声を掛ける。ギルド内はいなくなった英雄を探している冒険者たちで溢れかえっていた。


「ミリアン、すまないがギルドマスターに会わせてくれ」

「わかったわー。ちょっと待っててね」


 ギルドマスターにお伺いを立てるため、すぐにミリアンがギルドマスターの部屋に向かって行く。すぐに帰ってきたミリアン口からギルドマスターが会う旨を伝えられ、そのままギルドマスターの部屋へと直行する。


「入れ」


 執務室のドア、ギルドマスターの部屋の扉をノックすると、すぐにそう答えが返ってきた。
 遠慮なくドアを開けると、そこには執務机の椅子に腰を下ろしたギルドマスターがいた。


「それで、何の用なんだ?」

「街を出る前に師匠があんたに会ったってことを聞いてな。何処に行くとか言ってなかったか?」

「……」


 俺の問いに沈黙で返答するギルドマスター。だが、その沈黙はこちらの問いに対しての肯定を意味している。沈黙は是というやつだ。


「何処へ行ったか教えてくれないか? 俺たちも追い掛ける」

「はあ、俺が教えないと言っても勝手に出ていくんだろう。いいだろう、教えてやる」


 この街唯一のAランク冒険者である俺たちが街を出ていかれるのを危惧しているようだが、元々冒険者とは着の身着のまま旅をする存在なのだ。一所に縛り付けておけるものではないことをギルドマスターも理解しているのだろう。


「俺も直接次の目的地を聞いたわけじゃないが、次何をするつもりか聞いてみたんだ。そしたら返ってきた答えは“強いモンスターがいる場所で修行する”とか言っていたな。このレンダークから最も近くて強いモンスターがいる場所は……」

「迷宮都市【オラルガンド】だな」


 ギルドマスターの答えを聞く前に、その答えを口にする。その答えは正解だったようで、ギルドマスターが静かに頷く。


 迷宮都市【オラルガンド】は、このラガンフィード領から東にあるガルガンド領という領地にある迷宮都市の名で、迷宮というだけあってダンジョンが存在する都市だ。
 ダンジョンとは、モンスターが自然発生する場所がいくつもの層となって構成されたものであり、出現するモンスターも多種多様だ。


 さらに共通点として下の層になればなるほどモンスターの強くなっていき、その分難易度が高くなっていくという特徴がある。
 ダンジョンを持つ街は、ダンジョンから取れるモンスターの素材やたまに出現する宝箱から手に入る戦利品などを取引することで、繁栄している。


 今回話に上がったオラルガンドはシェルズ王国最大の迷宮都市であり、世界有数のダンジョンの一つにも名が上がるほどの都市なのだ。
 シェルズ王国の王都も王のお膝元であるためかなり発展している都会だが、オラルガンドもまた大型ダンジョンによって王都に次ぐほどの勢いで目覚ましい発展を遂げているとのことらしい。


「坊主を追うのか?」

「ああ、こんな中途半端な形での別れは納得できないからな」

「まったく、師匠も師匠なら弟子も弟子だな。お前らがいなくなって困る連中のことなんてこれっぽっちも考えちゃいねぇ!」


 そう言い放つギルドマスターだったが、その言葉には邪はなくどことなく嬉しそうであった。


「この街のことは気にするな、行ってこい」

「ありがとう。今まで世話になった」


 その言葉を最後に俺たちはギルドマスターの部屋を後にする。それから俺たちがレンダークを出立したのは二日後のことだった。本来であればすぐにでもオラルガンドに向かいたかったが、いかんせん旅の準備ができていなかったため、その準備に手間取ってしまったのである。


「早くいきましょ」

「そう焦ることはないだろアキーニ。師匠の行き先はわかってるんだ。ゆっくり向かえばいいじゃないか」

「わ、わかってるわよっ!」


 アズールの指摘に顔を真っ赤にするアキーニ。早く向かいたいという子供っぽい仕草に、思わず顔が綻んでしまう。
 メイリーンはメイリーンで、なにやらぶつぶつと「逃がしませんよ先生。先生の初めては私が……」という不穏な言葉が聞こえてきたが、聞かなかったことにした。


「よし、いよいよオラルガンドに向けて出発だ。忘れ物はないな」

「ないわよ」

「ないね」

「ないです」


 忘れ物の確認も終了したところで、俺たちはオラルガンドに向けレンダークの街を出発した。
 こうして、師匠と再び会うことを願って俺たちはその一歩を踏み出していくのだった。

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