ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

63話「決別」



 オークキングとの戦いから、丸一日が経過した。俺は今、宿の部屋にあるベッドに腰を掛けながら、自分のステータスを確認している。
 そして、その結果が表示されたウインドウを見ながら、ぽつりと一言だけ呟いた。


「どうやら、あの女魔族に負けたことが相当悔しかったみたいだな。俺は」


 この数日間で血の滲むような特訓……はしていないと思うが、ただただひたすら基本的な能力を集中的に鍛え上げ続けた。
 すべてはあの女魔族に敗北を喫したという屈辱を認められず、自身の無力さを痛感させられた反動から来る衝動的な思いをごまかすために打ち込んだものだったが、それが返って功を奏し目標としていた能力以上の成果を得ていたのである。



【名前】:ロラン

【年齢】:十二歳

【性別】:男

【種族】:人間

【職業】:元領主の息子・冒険者(Cランク)


体力:7500

魔力:9100

筋力:S-

耐久力:A+

素早さ:A+

器用さ:A+

精神力:S-

抵抗力:A+

幸運:S-


【スキル】


 鑑定Lv9、身体強化Lv9、気配察知Lv8、気配遮断Lv8、魔力制御Lv9、魔力操作Lv9、

火魔法Lv8、水魔法Lv9、風魔法Lv8、土魔法Lv8、炎魔法Lv5、氷魔法Lv6、

雷魔法Lv5、大地魔法Lv5、剣術Lv7、格闘術Lv8、集中Lv2(NEW)、スキル習得率アップLv1(NEW)、スキル熟練度アップLv1(NEW)



 ……あれ? 強くなる振り幅おかしくね? という疑問を抱いたかもしれないが、それだけ集中的に訓練を積んでいたのだ。なにせ、スキルにまで【集中】という名前そのままの能力が生えてきてしまうほどなのだから。


 集中の他に【スキル習得率アップ】と【スキル熟練度アップ】というスキルをゲットしている。字面からしてスキルの習得率と熟練度が上がり、スキルが覚えやすくレベルが上がりやすくなったのだろう。これはなかなかいいものを手に入れたかもしれない。


 オークキング戦の時点でこの能力だったので、もはやオークキングは敵ではなかったのだが、平穏な旅を続けるためにはあまり目立った行動は取りたくはない。そう思いその身代わりとして、偶然鍛えることになったギルムザックたちに何とかしてもらおうと考えていたのだが、残念ながらその思惑は外れてしまった。


 オークたちを殲滅後、すぐに後処理の作業に入りしばらくして街が救われたことに対する宴が開かれることになったのだが、なぜかギルムザックたちではなく俺が英雄として祭り上げられてしまったのだ。


 他の冒険者曰く「魔法が凄かった」だの「あのオークキングの攻撃を寄せ付けなかった」だの「さすがはギルムザックたちの師匠だ」だのと称賛の嵐が飛び交い、最終的にこの街を救った英雄だと言い始めたのである。


 ささやかな抵抗として「最後に止めを刺したのはギルムザックたちだ」という反論を言ってみたが、どう考えても俺の方が貢献度が高くギルムザックたち本人が「俺たちよりも師匠の方が凄い」と言うものだから当然俺の反論など通るわけもなかった。


 自分で仕出かしたことなので仕方ないといえば仕方ないのだろうが、敢えて言いたい……解せぬ。
 力量的にギルムザックたちのとオークキングを比べた時、勝つのはどちらだと問われれば即答でオークキングだ。


 俺がいくら鍛えたところで、強くなるには彼らが元々持っている才能がどれだけあるということが重要になってくるため、強くなるにも限界がある。
 この数日間の特訓でギルムザックたちは確かに強くなったものの、それでもオークキングを四人で倒せるかと言えば、それは困難と言わざるを得ない。


 だからこそ、俺自身が直接介入したわけだが、ここで誤算が生じてしまう。思っていたよりもオークキングが強かったのだ。
 本来戦わせるはずだったギルムザックたちですら大苦戦してしまう相手に、予定を変更して俺自らが戦わなければならなくなってしまったというのが、今回の事の顛末である。


「もっと静かな生活を望んでいたんだがな。まあ、こうなった以上仕方ないか」


 そう一言だけ呟いた俺は、部屋を後にし宿の階下へと降りていく。食堂はすでに酔い潰れて眠っている冒険者たちで溢れかえっており、その中にギルムザックたちの姿もあった。
 そんな姿に苦笑いを浮かべつつ、俺は店番をしていたネサーナに話掛けた。


「精が出るな」

「あら~坊やじゃない。こんな夜中にどうしたのかしら~?」

「急な話だが、この街を出ることにした」

「あらあら~、それはまた急な話ね~。この街の事嫌いになっちゃった?」


 彼女の問い掛けに首を横に振りそれを否定する。別にこの街に嫌気が差したとかではなく、次の街に行くための準備が整ったという表現が正しい。
 元々この街にやってきた理由は、俺の兄妹であるマークたちが王都でお披露目パーティーに出掛けている間、マルベルト家からおさらばするという計画の一環として、ある程度の路銀を稼ぐために選んだのがレンダークの街だったというわけだ。


 本来ならもう少し早めに街を出ていくつもりだったが、オークキングの騒動に巻き込まれてしまい、街を出る予定が延びてしまっただけなのである。


「この街はいい街だ。活気もあるし、人も優しいし、女性はみんな美人だ」

「あらあら~、お上手ね~」

「だが、俺にはやりたいことがある。その目的の続きをやるため、俺は次の街に行く。ただそれだけだ。この街が嫌いになったわけじゃない」

「それなら良かったわ」


 俺の言葉に安堵の声を漏らすネサーナだったが、次に口を開いた彼女の言葉は俺を心配する声だった。


「でも、なにもこんな夜中に出ていかなくてもいいんじゃない~? せめて早朝かれでも」

「それだと、今酔い潰れてる連中が起きてきて引き留められそうだしな。今の時間がちょうどいいんだ」

「そう……」

「ネサーナさん、世話になった。ありがとう」

「んー。えいっ」

「ぼふっ」


 最後にネサーナに別れの挨拶をし、握手を求めたところ。いきなり抱きしめられてしまった。ただ十二歳の俺の身長が低すぎたため、彼女の胸に頭が埋まる形となってしまう。


「んー、んー!」

「あら、ごめんなさい。坊やがあまりに可愛いから、我慢できなくなっちゃった」


 ネサーナの胸に埋もれ、息ができなくなっていたことに気付いた彼女が慌てて俺を解放してくれた。幸せな感触がなくなったことに対する寂しさを感じながらも、窒息という最悪の事態を回避できたことに喜んでいいのか落胆していいのかよくわからない複雑な感情が入り乱れる。


 そんなこんなで、彼女との別れを済ませた俺は、冒険者ギルドへと向かうため今まで世話になった宿である【春の止まり木】を後にした。


 そのまま冒険者ギルドへとたどり着くと、受付カウンターにいたミリアンに声を掛けギルドマスターがいるかどうかを確認後、彼の部屋に向かう。


「そうか……寂しくなるが達者でな」

「引き留めないのか?」

「なんとなくだが、お前がこの街を出ていくことは薄々感じていたからな。それに止めたところで聞かないだろ?」

「そうだな。聞かないな」


 ギルドマスターと軽口を叩きつつも別れの挨拶を済ませ、冒険者ギルドも後にする。ギルドを出る際ミリアンとも挨拶を済ませたことは言うまでもない。


 まだ日が昇りきっていない街は街灯がないため、闇に包まれている。一部の酒場や冒険者ギルドなどの公共施設は最低限の明かりが灯っているが、それ以外はほとんど何も見えない状態だ。


「この街ではいろいろあったが、これで次の街に行けるな」


 レンダークの街に来た時のことを思い返しながら、門番にギルドカードを見せ街の外へと出る。こんな夜中に街の外に出ることを咎められるかと思ったが、意外にもすんなりと通してくれた。


 最後に振り返りレンダークの街を一瞥すると、次の街に向け俺はその足を前へと進めた。

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