ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

61話「決戦開始」



 オークの駆除を行ってからさらに三日が経過し、とうとうオークたちがレンダークの街のすぐ近くまで迫ってきていた。
 この数日間という時間で、街を防衛するこちら側としては、すでに準備は万端と言っても過言ではないほどだ。


 街を防衛する兵士の数は五千に加え、レンダークの街に在中する冒険者の数は約千人にも及ぶ。といっても、冒険者の半数がEランク以下の実力があまり良くない連中ばかりなので、そのほとんどが兵士と一緒に籠城する役目に就いている。


 全冒険者の中で精鋭と呼ばれるDランク以上の冒険者の数は約二百名だ。その内訳はDが百名、Cが七十名、Bが二十六名で最後に残った四名がギルムザックたちAランクの冒険者だ。


 今更だが、ギルムザックたちはこのレンダークの街を拠点とする唯一のAランク冒険者であり、その実力は他の冒険者を追随を許さないほど優秀であり、頭一つ抜きん出た存在でもある。


「見えたぞー! オークの群れだ!!」

「いよいよ来たか……腕が鳴るぜ」

「俺、この戦いが終わったらミリムラちゃんとよろしくやるんだ!」

「こんな時に堂々と娼館に行く宣言をするな!!」

「お前ら、目の前の敵に集中しろ!!」


 オークの姿を目の当たりにしたことで、周囲にいる冒険者たちが騒ぎ出す。現在精鋭である二百名の冒険者たちは、街の防衛ではなく襲来するオークたちを迎え撃つための迎撃部隊として街の正面に展開していた。


 その中の一人が何を隠そう俺なのだが、少々困ったことが起こっていた。


「……なあ?」

「ついにこの時が来たぜ!」

「いよいよですね先生!」

「修行の成果を見せてやるわよ!」

「僕だってやってやるよ!」

「……」


 俺の冒険者ランクは、現在Cランクだ。だから迎撃部隊である精鋭冒険者の中の一人として出陣している。それはいい。ギルムザックたちにもオークが来たときは一緒に戦うと宣言した。それは俺も納得している……のだが。


「おい、なんで俺の隣にお前らがいるんだ? おかしいだろ!?」

「なんでって言われても。そりゃ、ローランドの師匠が俺たちの師匠だからに決まってるだろ?」

「アタイたちよりも実力のある冒険者なんだから、寧ろ師匠が先頭でもいいくらいよ」

「当然の配置だね。うん」

「先生、人間何事も諦めが肝心ですよ?」


 解せぬ。大いに解せぬ。俺のランクはCランクであり、まかり間違ってもAランクであるこいつらと同列にされることなどあってはならないのだ。
 だが、周囲の人間はそう思っておらず、なぜかAランク冒険者のギルムザックの師匠ということで俺を見ている節がある。それが原因で、Aランクのこいつらと肩を並べる結果となってしまった。


 最初俺はCランク冒険者が並ぶ隊列にいたのだが、俺を見つけた周囲の冒険者どもが「ジェネラル狩りがなんでこんなとこにいるんだ?」と疑問を投げかけてきたと思ったら、手を引っ張られあれよあれよという間にギルムザックたちがいる最前線の場所へと半ば強制的に配置換えさせられてしまったのであった。


 本来は目立たないようCランクの列にしれっと居座り、こそっとオークの二、三匹を狩りつつ、ピンチになりそうだったら周りにバレないようこっそりと手助けするつもりだった。なのに蓋を開けてみれば、この様である。


「今からでも、Cランクの列にこっそり戻れば……」

「師匠諦めてくれ、もうそろそろ始まる」

「くそう、どうしてこうなったっ!?」


 自分の実力を知られないようにしつつ、ギルムザックたちを英雄にするために動いてきたというのに、最初の段階で計画が破綻してしまうとは……。
 しかしながら、起こってしまったことを嘆いたところで、解決はしない。今は目の前のオークに集中するべく、意識を迫りくるモンスターたちに向けた。


 オークの進行は緩やかで、それが返って恐怖を助長させているように見えた。だが、精鋭冒険者たちに動揺した様子はなかったのである。
 やがてオークの群れの全容が見える位置にまで到達すると、それを見た冒険者たちが口々に言い始める。


「おい、あれって?」

「ああ、なんか……」

「思ったより数が少ないし、満身創痍のオークもいやがる」

「どうなってやがる?」


 眼前に広がる光景に困惑気な冒険者たちだったが、事情を知っている俺からすれば当然の帰結であった。奴らを満身創痍にした張本人である俺からして、予想よりもオークの数が少なかった。おそらく、レンダークにたどり着くまでに力尽きた個体がいたのだろう。


(数としては、千もいないな。八百……いや、七百がいいとこだな)


 これなら他の冒険者でも問題なく対処が可能であることがわかり、内心で安堵のため息を吐く。しかし、戦いというのは最後まで何が起こるかわからないので、油断することなく臨むのがちょうどいいくらいだろうと考え、戦闘態勢に入った。


「遠距離攻撃を持ってるやつは、攻撃準備をしろ!」


 ギルムザックの号令に従い、弓使いや魔法使いが攻撃の準備を開始する。オークたちとの接敵まであと数十メートルと迫った刹那、ギルムザックの叫び声が開戦の合図となった。


「今だ! 攻撃開始!!」


 彼の合図を皮切りに弓矢や魔法が戦場に降り注ぐ、ただでさえ満身創痍な状態のところにそんな攻撃を食らえばどうなるのかは容易に想像できることだろう。


「ブヒィッ」

「ブギャ」

「グギャッ」


 鈍重な動きで進軍するオークたち目掛け矢や魔法が襲い掛かり、その数を確実に減らしていく。だが、敵もさることながらそれで戦意が喪失することなく、ただ愚直に突撃をする。
 遠距離攻撃によって約二百のオークが戦闘不能となったが、まだ五百程度のオークが諦めることなく進撃を続けている。


「全員迎撃の準備をしろ! ここから乱打戦だ!!」

『うおおおおおおお!!』


 ギルムザックの言葉に呼応する形で、戦場に野太い声が響き渡る。そして、それを受けてオークたちも突撃の勢いが増していく。


(このまま、突撃してきたら何人かに被害が出るな。仕方ない、ちょっとだけ介入するか)


 このままでは戦う前に死者が出ると判断した俺は、両手を地面に置き魔力を流す。土魔法の上位の大地魔法を使い、その効果は瞬く間に現れる。
 冒険者とオークが激突しようとするまさにその時、その数メートル手前の地面が変化し始め、周辺一帯が底なしの泥沼へと変貌する。


 突如として変貌した地面に対応できるわけもなく、オークたちが泥沼に嵌り突進の勢いが目に見えて衰えた。それを好機と見た弓使いや魔法使いが無抵抗のオークに対し、無慈悲な攻撃を食らわせさらにオークの死骸を量産していく。


「な、なにが起こったんだ?」

「誰かが魔法でなんかやったんだろ?」

「何にしても、チャンスだやっちまえ!!」


 何が起こっているのかは理解できないものの、目の前に起きている出来事を好機と捉えた冒険者たちが、各々オークに攻撃を開始する。
 近接系の冒険者たちも攻撃できるよう、タイミングを見計らって地面の泥沼化を解除し元の状態に戻す。それと同時に冒険者たちの総攻撃が開始することとなった。


 不意打ちを受けたオークたちは、冒険者の攻撃に対応できず右往左往するばかりで初手から冒険者優勢で戦いが進んでいく。このまま一気に全滅するかに思えたが、そう簡単にいくわけもない。


「ブヒィィィイイイイイ」

「ブヒブヒブヒ!!」

「オークジェネラルだ! Cランク以下は通常のオークに専念してBランク冒険者で迎え撃て!!」


 不利な状況だと判断したオーク側が、主力級のオークジェネラル二匹を投入してきた。その瞬間ギルムザックが的確に指示を飛ばし、オークジェネラル討伐の陣形が完成する。


(ふむふむ、これなら俺が付きっきりで介入する必要はないかもな。意外と優秀な冒険者がいて、正直驚いたな)


 特訓したギルムザックたちの動きは言うまでもないが、他のBランク冒険者たちの動きも存外に悪くはない。Aランクの彼らと比べれば見劣りするものの、それを補うように卓越した連携でオークジェネラルを翻弄している。
 元々俺の攻撃でそれなりのダメージを負っているというアドバンテージがあるが、なかなかの健闘ぶりを見せる冒険者たちに思わず舌を巻く。


 それでもオークジェネラルの能力は並外れており、何度か危ない場面もあったが、奴らが反撃に出るタイミングで俺が他の冒険者たちにバレないようにこっそりと妨害したお陰もあって、二匹のオークジェネラルの戦いはすぐに決着がつく。


「ニンゲンドモメ、ズニノリオッテ」

「とうとう本命が出てくるか……」


 オークジェネラルがやられたことで、とうとうオークキングが動き出す。オークともオークジェネラルとも違う圧倒的な存在感に、その場にいる誰もが怖気づく。
 オークキングが動き出した時すでにほとんどのオークが殲滅されており、残りはオークキングを残すのみとなっていた。最終決戦が今始まろうとしているのであった。

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