ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
60話「打ち合わせ」
魔族の女との邂逅後、街へと戻ってきた俺は冒険者ギルドへとやってきた。目的はとある人物と打ち合わせをするためだ。
「あ、ローランドさん。今日はどうしたんです?」
「ギルムザックたちはいないか?」
俺がギルドにやってきたのは、現在俺が鍛えているギルムザックたちと会うためだ。
ギルドにいたニコルにギルムザックたちがいるかどうか聞いてみたところ、ちょうどギルドマスターに呼ばれているということなので、しばらく待つことにした。
「おう、ローランドの師匠。こんなところでどうしたんだ?」
「お前らに話があってきた」
俺を見つけたギルムザックたちが、開口一番そんなことを口にする。ちなみに、こいつらの師匠呼びは周囲の人間がすでに俺と彼らとの関係が師弟関係だと知れ渡ってしまった時点で、好きにさせることにした結果である。
とりあえず、人気のない場所に彼らと共に移動し今日俺が取った行動を説明した。もちろん魔族の女のことは伝えてはいない。
「な、なんて無茶なことを!」
「アタイたちにも言わず何勝手なことしてるのよ!?」
「よく無事に帰ってきましたね」
「先生……」
「そんなことは今はどうでもいい。俺がほとんど駆除したとはいえ、まだオークキングも健在だし、オークの軍勢も千匹程度残っている。お前たちの最終試験として、あと数日後にやってくる残りのオークどもを倒してもらうことにした」
「「「「はいっ!?」」」」
俺の説明を聞いて呆れ顔を顔に張り付けていた全員が、俺の補足説明を聞いて目を見開き驚きの声を上げる。
なぜ俺がオークキングたちを全滅させなかったのかといえば、悪目立ちしたくなかったという理由もあるが、それ以外に他の冒険者の手柄を横取りしたくなかったという点も大きい。
冒険者の多くが、モンスターを討伐しそれで得た素材をギルドに卸すことで生計を立てている場合が多い。それ故、今回のオークキングの襲来は一見すると危険ではあるが、DランクやBランクの冒険者にとっては自分の食い扶持を稼ぐチャンスでもある。
それを俺一人が横から掻っ攫ってしまったら反感を買うだろうし、下手をすれば路頭に迷う可能性もなくはないのだ。
そうならないためにも、街に被害が出ない程度のオークを残しつつ、俺が悪目立ちしないよう他の冒険者にも稼いで手柄を立ててもらおうという目論見があるのだ。
そして、ギルムザックたちはそんな冒険者たちの旗頭となってもらい、俺に変わってオークキングを討伐してもらいたいのだ。すべては俺の自由のためなのだが、そこはオークキングを討伐したという功績でチャラにしてもらいたいところだ。
「そういうことだから、頑張ってオークキングを討伐してくれ」
「いやいや、いきなりそんなことを言われても無理だぜ!」
「問題ない。今のお前たちなら手傷を負ったオークキング如き大怪我を負えばなんとか勝てるだろう」
「いや、大怪我するのを前提で勝てるとか言われても……」
「そうよそうよ。師匠も戦ってよ!!」
「先生……」
まったく、何が不満だというのだろうか? オークキングを討伐すれば、莫大な報奨金が領主から支払われると同時に街の人々からは英雄として扱われるだろう。上手くすれば、国王の耳に話が入りその功績が認められ、貴族として取り立てられることだってない話ではないのだ。
尤も、元貴族の跡取りとしてはそんなものお金を貰ってもなりたくはないのだが、普通であれば誰もが羨む名誉なことなのだ。それを受け取らないとは、こいつらの考えていることが理解できない。
「じゃあこうしよう。俺も当日はお前らと一緒に戦う。ただし、俺が戦うのはオークや取り巻きのオークジェネラルだけで、最終的にオークキングはお前らで何とかしてもらう」
「まあ、それだったら……」
「僕もそれで問題ないです」
「仕方ないわね」
「先生も一緒にいてくれるなら……」
どうやら、当日弟子の子守をしなきゃならなくなってしまったようだ。面倒だが、せっかく鍛えてやったのにこんなところで簡単に死んでもらっても困るので、最後まで付き合ってやることにする。
「じゃあ、残りの日数は指示された訓練内容を一通り繰り返しておけ。それと前日は、体を休ませるために何もせずに過ごすんだ。わかったな?」
俺の言葉にしっかりと頷く四人に満足した俺は、もう一つの用事を済ませるため、そこで彼らと別れてとある場所へと向かった。
~~~~~~~~~~
とある部屋のドアの前にやってきた俺は、そのドアを三回ノックする。しばらくして部屋の中から「入れ」という言葉が返ってきたため、ドアを開けて入室する。
「おお、坊主か。今日はどうした?」
そこにいたのは、執務机に齧り付き書類の処理に明け暮れているギルドマスターだった。そう、俺は今ギルドマスターの部屋に来ているのだ。
ギルムザックたちと別れた後、その足でギルドマスターの部屋へとやってきたのだが、当然何の用もなしに彼を訪ねたりはしない。ちゃんとした目的があるのだ。
「実はオークジェネラルを持ち帰る時に借りた魔法鞄なんだが、返却するのを忘れてしまっていたのを思い出してな。返そうと思って来たんだ」
「ああ、そう言えばそんなこともあったな。そのあとオークキングのことで頭が一杯だったから忘れていた」
ここ数日間、オークキングの情報がもたらされてからというもの、レンダークの街は慌ただしくなっていた。非戦闘員の避難だったり、オークを迎え撃つための戦力の確保だったりと、かなり目まぐるしい日々を送っていた。
その陣頭指揮を執っていたのが他でもないギルドマスターであり、ここ数日まともに睡眠すら取れていない様子だ。
数日前まであれほど元気だった姿は見る影もなく、目の下にくまを作っている。それほどまでにこの数日間、いろいろなことが一気に起こり過ぎていたのである。
「……」
「どうした?」
「ギルドマスター。俺がオークの群れを半壊させてきたって言ったら信じるか?」
「……何の冗談だ?」
俺の言葉に胡乱気な表情を浮かべている様子だったが、俺が真剣な雰囲気であることを察すると、彼もまた真剣な表情で問い掛けてくる。
「本当に半壊させたのか?」
「ああ、残っている戦力はオークキングにオークジェネラルが二匹、あとは通常のオークが千匹程度ってところだ」
「マジかよ……」
俺の言葉にギルドマスターは頭を抱え込んでしまう。普通であればそんな言葉を信じるなど正気の沙汰ではないと切って捨てるところだろうが、それが今まで常軌を逸した行動を取ってきた俺の言葉であるということで、一笑に付すことができないでいるようだ。
「ちなみに、この中に倒したオークジェネラルとオークの一部が入ってるからあとで確認してくれ」
「おいおい、勘弁してくれよ……」
証拠となるギルドから借りた魔法鞄を突き出すと、さらに困惑した表情を浮かべながら突き出された魔法鞄をギルドマスターは見つめる。
さらなる厄介事を持ち込んできた張本人に恨めしそうな視線を向けるが、それと同時に負担を減らしてくれたことに感謝しているといった雰囲気だ。
「厄介事を持ち込んできたことに怒るべきなのか、感謝すべきなのか。この場合どっちなんだ?」
「両方だと思うな」
「本人の口からその言葉を聞かされるとは思わなかったぜ……」
「とりあえず、これは返した。中に入ってる素材の買取金は、オークの一件が終わってからでいい。じゃあそういうことで」
返すものは返し、伝えるべきことは伝えたので、そのままギルドマスターの部屋を後にする。残されたのは眉間に皺を寄せたギルドマスターと執務室に残された高性能な魔法鞄だけであった。
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