閉じる

ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく

こばやん2号

46話「依頼の報告と今回起こった出来事の説明」



 街へと戻ると、すぐに冒険者ギルドへと直行する。
 身体強化を使って急いで帰ってきたが、時刻はすでに夜になってしまっている。


 ギルドに到着すると、すでに以来の報告を終えた冒険者たちが併設されている酒場で食事や酒を楽しんでいた。
 それを尻目に受付カウンターに向かうと、ちょうど依頼報告のピークから解放されたニコルがいた。


「ローランドさん、今日は遅かったんですね」

「ああ、依頼の報告を頼む」

「了解です。ではギルドカードの提示と依頼の品をあちらのテーブルにお願いします」


 ひとまずは今日受けた依頼の処理を行うため、ニコルにギルドカードを提示し、ダッシュボアとフォレストウルフの素材を指定されたテーブルに陳列していく。


 しばらくして、ニコルとギルドの職員数名がテーブルに並んだ素材を一つ一つ確認していくと、確認が終了した素材から運び出されていく。


 いつもの作業なので確認作業は三十分と掛からずに完了し、しばらくしてニコルから声が掛かった。


「ローランドさん、お待たせしました。こちら依頼の報酬になります。確認してください」

「……確かに」


 朝に受けておいたダッシュボア三十匹分とフォレストウルフ四十匹分の素材の報酬大銀貨四枚を受け取る。
 ちなみにこの報酬金額は通常よりも多めに設定されており、これだけ高額に買い取って大丈夫なのかと以前ニコルやミリアンに問い掛けたことがあったが、問題ないという回答をもらっていた。


 なんでも、これだけの高額で買い取っても需要と供給の量が未だに追いついていないため、冒険者ギルドから商業ギルドに卸したときに発生する利益を含めても問題なく利益が出るとのことであった。


 依頼の報告と報酬の受け取りが終わり、本来ならばここで宿に帰るのがいつものルーティーンなのだが、今日はそうはいかないためニコルに要件を伝える。


「ニコル。すまないが解体場にギルドマスターを連れてきてくれないか?」

「ギルドマスターをですか? それは一体どういうことでしょうか?」

「詳しい話は解体場に来てから話す。とにかく重要な話だと伝えてくれ」

「わ、わかりました。すぐにギルドマスターに伝えてきます」


 俺の真剣な態度に何かを感じ取ったのだろう、すぐにギルドマスターに掛け合うべく動いてくれた。
 ニコルがギルドマスターの元へ向かったのを確認すると、そのまま解体場に向かおうとするのだが、ここで意外な人物がフェードインしてきた。


「おう【ワイルド狩り】の坊主じゃねぇか。なんか面白そうな話をしてたみたいだが、俺も聞きに行ってもいいか?」

「ギルムザックか、ちょうどいいあんたにも聞いておいてもらおう」

「あら、彼がいいならあたしも行ってもいいわよねー?」


 振り向くとそこにいたのは、ニコルの先輩のミリアンだった。
 胸の下で腕を組みながらにこにこと笑顔を張り付けてはいるものの、何か面白そうなことが起こりそうだからという軽はずみな態度であることは明白だ。


 しかしながら、これから話すことを考えれば彼女にも話を聞かせておくべきだと判断した俺は、二人の要求を受け入れ解体場へと向かった。


 解体場は冒険者たちが持ち込んだモンスターが並べられており、今も解体作業員が慌ただしく解体作業を行っている。
 そして、ここに来たということはあの例の人物も作業をしているわけだが、その人物がこちらを目聡く発見し白い歯をむき出しにしながら笑顔でこちらに寄ってきた。


「おう、なんか珍しい組み合わせだな。ミリアンに【ヘヴィーカイザー】のギルムザックと坊主か、三人揃って何の用だ?」

「詳しい話はギルドマスターが来てから話すから今はまだ話さない」

「そうか。ところで、解体の仕事をやってみないか?」

「ちょっと、ボールドさん? あたしの目の前で有能な冒険者を引き抜かないでくださいよー」

「そうだぜ、ボールドの旦那。ワイルド狩りの坊主は、解体なんかよりも冒険者に向いてると思うぞ」


 そこから、俺を解体作業員にすることを諦めないボールドと、それを阻止すべく立ちはだかったミリアンとギルムザックという構図でささやかな攻防が繰り広げられたが、すぐにニコルとギルドマスターが姿を見せたため勝負は引き分けという形で幕を閉じた。


「坊主、ニコルの伝言で来てやったぞ。一体どうした?」

「まずはこれを見てくれ」


 ギルドマスターの問い掛けに、俺は魔法鞄に入れておいた一匹のオークを取り出した。
 ちなみにこのオークは、俺がオークの群れを駆除するための方法を思いつくために犠牲……もとい、実験に付き合ってくれたありがたいオークさんだ。


 俺がオークを取り出すと、その場にいた全員が息を飲んだ。Aランク冒険者のギルムザックにとってはCランクのオークは大したことはないが、現在Dランクに所属する俺にとってはとても太刀打ちできる相手ではないというのがこの場にいる全員の共通認識だったからだ。


 だが、物言わぬオークがこの場にいるということは、どういった状況にせよDランクの俺がランク的に格上のオークを狩ったということだとすぐに理解したようで……。


「ロ、ローランドさん! なんて無茶なことをするんですか!?」

「ま、まさか。Cランクのオークを坊主一人で狩ったのか?」

「そ、そんな。信じられないわー」

「こりゃあ、久々に腕が鳴るってもんだ」

「ほう、さすがはワイルド狩りだな」


 オークを見てまずニコルがこちらを非難するような声を上げ、順にギルドマスター・ミリアン・ボールド・ギルムザックがそれぞれ感想を口にする。
 しばらくして彼らの驚きが落ち着いたところで、今日あった出来事を淡々と説明する。


「順を追って説明すると、まず初めに一匹のオークが数匹のゴブリンの群れを襲っているところを発見した」

「そのオークがこいつか?」

「違う。話は最後まで聞いてくれ。そして、ゴブリンを片付けたオークがどこかに向かっていくのを確認したので、あとを追いかけた。すると奴が向かった先にオークジェネラルを頭とする三十匹ばかりのオークの群れのアジトを見つけた」

「な、なんですって!?」

「それで、そのまま逃げて帰ってきたわけか?」


 ……まったく、ここにいる連中はどうして最後まで人の話を聞かないのだろうか? まあ、話の内容的に冷静でいられなくなるのは理解できるが、それにしたってもう少し人の話を聞いてほしいものだ。


「違う。だから話は最後まで聞いてくれ。それで最初は逃げてこのことを冒険者ギルドに伝えるつもりだったが、最終的に戦ってみることにした」

「「「「「……」」」」」


 俺の言葉が信じられないといった具合に全員口ごもってしまうが、そんなことはお構いなしに話を続けた。


「そして、わざと見つかって奴らをばらけさせ、はぐれた一匹のオークを捕まえ、奴らを一網打尽にする方法を探るべく実験を繰り返した。その時実験に使たのがこのオークだ」

「それで、どうなったんだ? 結局、戦ったのか?」


 他の者は黙って聞いている中、ギルドマスターが代表して俺に問い掛けてきた。俺はその問いに答えるように話の続きをする。


「一応勝つための算段がついたから、それを実行に移した。結果的には上手くいって、オークジェネラルを含めたすべてのオークを全滅させることに成功した」

「「「「「はぁー」」」」」


 俺がオークの群れを全滅させたと告げると、全員の口から安堵のため息が漏れだした。
 Dランクとはいえ、三十匹のオークを群れと戦うという無謀な行動に出て無事に帰ってこれたことに安心したのだろう。


 だが、それと同時に全員が驚愕することになった。オークの群れをたった一人の冒険者が全滅させたことにも驚きだが、オークジェネラルという化け物を単独で狩ってしまったことが彼らの中では一番の驚きだったからだ。


 通常オークジェネラルは、少なくともBランク冒険者四人のパーティーが二組束になってようやく互角の勝負ができる存在で、たった一人で勝てる相手ではない。


 しかもオークジェネラルの周囲には取り巻きのオークの群れがいる可能性が高く、それらを踏まえればBランク冒険者四人パーティーが三組は必要となる相手なのだ。


 どんな手段を使ったのか知らないが、それをたった一人で成し遂げたと豪語する俺の言葉を信じるというのは難しく、全員が胡乱な目を向けてくるのは仕方のないことであった。


「三十匹のオークの群れとオークジェネラルを倒したのはこの際どうでもいいとして、本題はここからだ」

「「「「「いやいやいやいやいや!!」」」」」


 それは見事なまでに揃った“いや”であった。そりゃあ、他の人間にすれば大それたことなのだろうが、俺にとっては“できてしまったのだからそれでいい”という程度の些末なものでしかない。重要なのはこれから起こる可能性があることについてだ。


「いいから聞け。オークの群れを全滅させたあと、俺はとある疑問が頭を過った。“なぜこいつらがここを拠点にしていたのか?”という疑問だ」

「たまたまとかじゃないんですか?」

「それか、何かから逃げてきたからとかしらー?」


 美少女ニコルと美人ミリアンの答えに俺は首を振って返答する。


「おそらくそれはない。もし、奴らがただ適当にあの場所を拠点にしていたのなら、オークジェネラルが従えていたオークの数が少なすぎる」

「それは、俺も思った。だが、それこそオークたちの脅威となるモンスターとの縄張り争いに負けたとかではないか?」


 この世界の冒険者の間では、オークジェネラルが従えるオークの数は少なくとも五十匹だというのが常識となっている。それ以下のオークしかいない場合、例外を除けば他のモンスターに襲われたか、何かの自然災害に巻き込まれたかというのが一般的な結論となる。


「だが、奴らの中に怪我をしたオークはいなかったし、拠点としていた場所も最近居ついたばかりだったようだ。そこで俺はある一つの可能性を導き出した」

「そ、それは一体なんだ?」


 俺の言葉にボールドが頭に汗を滲ませながら問い掛けてくる。汗で頭が光って若干うざかったが、それを無視してそのまま答えることにした。


「それは、オークジェネラルよりも上位の存在に命令されて領土拡大のための先遣部隊として送り込まれた可能性だ。つまり、俺は今回のオークジェネラルの裏に、オークキングの存在が示唆されているという結論に至った」 

「ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く