ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
42話「新たな問題発生」
「よし、これで今日の分の狩りは終了だな」
冒険者ギルドからいつもの草原、そして森へとやってきた俺は、ダッシュボアとフォレストウルフを狩って解体する。
狩猟から解体までのすべての工程を魔法で済ませてしまうことが可能となった今、モンスターの狩猟が単純な流れ作業と化していた。
工程数としては主に三工程から成り、まずモンスターの首筋に風魔法の【ブロウカッター】を当て首と胴体に分ける。【ピットホール】を使い地面に穴を開け【ブロウカッター】で解体し内臓を開けた穴に埋める。解体が完了した素材を魔法鞄にしまい込んで終了といった具合だ。
以前のように水魔法のアクアボールでの窒息死を狙わないのは、モンスターが死ぬまでに時間が掛かるということと、モンスターの息の根を止める作業と血抜きの作業を一つの工程で完了させられるという利点があるからだ。
その代わりといってはなんだが、少々見た目的にスプラッターな要素が含まれている気がする。……まあ、数十匹も狩っていればその光景にも慣れてしまうので気にしないことにしよう。
「ん? この気配は……ゴブリンと……なんだこの反応は」
依頼のモンスターの素材をすべて揃えた頃、気配察知に反応があった。
ワイルドダッシュボアを倒してからさらに能力に磨きが掛かっており、今では気配の正体が何となくわかるまでになっている。
ゴブリン自体は問題ないのだが、気になるのはこちらのデータにはない未知の反応だ。
反応の強さから言って、それほど強力なモンスターではないが、未知のモンスターというのはそれだけで脅威に成り得る。
そんな状況の中、突然のゴブリンと謎のモンスターの出現にどことなく違和感を覚える。というのもモンスターにはテリトリーと呼ばれる習性があるからだ。
この世界のモンスターは種類毎に自分たちの生息する縄張りを持っており、その場所を中心として行動することが多い。
ダンジョンなど特殊な場合を除いて、モンスターというものは自分たちが生息するテリトリーからは余程の理由がなければ動かないのである。では、その理由とは?
「まさかとは思うが、スタンピードフラグじゃないだろうな?」
スタンピードとは、モンスターが異常なまでに繁殖し過ぎてしまったが故に制御が効かず、暴走してしまうことを差す言葉だ。
よくファンタジー小説ではお決まりと言ってもいいほどスタンピードが起きており、異世界でよく主人公が巻き込まれる案件の一つだったりする。
「これは、調べてみる必要がありそうだ」
もし本当にスタンピードが起こっているとしたら、それは由々しき事態だ。逃げるにしろ戦うにしろ、情報を手に入れておく必要があると判断した。
気配察知を発動させると同時に、相手に気取られないよう気配遮断のスキルも発動させておく。
しばらく森の中を歩き続け、気配察知に引っ掛かっている反応まであと十メートルほどにまで差し掛かった時、モンスターの声が聞こえてきた。
「ギギィ!?」
「ギーギー」
「フゴォオオオオオ」
ゴブリンたちが何者かに襲撃されているらしく、悲鳴を上げながら慌てふためいている。一方襲っている相手を見た瞬間、それが何かすぐに理解する。
「なるほど、オークだったのか」
オークはゴブリン同様群れを形成するモンスターで、豚の頭部をした人型のモンスターだ。よく他種族の雌、特に人間の女性を攫ってきては同胞を増やすための苗床にする話が描かれているが、この世界のオークも御多分に漏れず他種族の雌を攫う。
そのオークが今まさにゴブリンを襲撃していた。だが、違和感の正体はゴブリンがオークを襲っていることではなく、オークが単独で行動しているというところにあった。
オークは先ほど言ったように群れるモンスターだ。決して単独行動をすることはなく、増してや一匹でいるなどほとんど稀と言っていい。
そんなオークが現在進行形でゴブリンを襲っている。しかもたった一匹で。
(やはり、この森で何か起きているな……くそう、ワイルドダッシュボアの件が片付いたと思ったらまた面倒事かよ!)
目の前で起きていることなど気にも留めず、内心でこれから起こるかもしれないことに悪態を吐く。
そうこうしているうちにゴブリンたちはオーク一匹に蹂躙され、その骸が地面に横たわっていた。勝利の雄たけびを上げつつ、満足したオークが森の奥へと入っていくのを確認すると、気付かれないよう尾行を開始する。
オークが単独で行動している可能性を考えた時、上位種の存在が示唆される。その一例として挙げられるのがオークジェネラルだ。
通常種のオークと比べて体格も大きく、その大きさはワイルドダッシュボアの突進でもビクともしないほどだ。
モンスターでありながら一定以上の知能を持ち、オークたちを手足のように操る様はまさに将軍の名を冠するに相応しい。
さらに上位種のオークキングともなれば、百以上のオークたちを従え場合によっては千を超える群れを束ねることもあり得る。
人の言葉を理解しまた言葉でのコミュニケーションも取ることができるが、性格は残忍で冷酷であるため、話し合いは無意味であるとされている。
(やはり、群れができていたか。しかもあれは……ジェネラルか?)
オークのあとを追っていると、しばらくしてオークの群れと遭遇した。数は三十くらいと中規模くらいだが、それでも人型のモンスターがそれだけいれば脅威的なことに変わりはない。
俺が追っていたオークが、通常のオークよりも一回りほど大きい体格のオークにブヒブヒと何か報告している。
「ブヒ、ブヒブヒブヒッ」
(さすがに何言ってんのかわかんねぇな。それにしても、オークジェネラルか。今の俺で勝てるのか?)
眼前にいるオークや上位種のオークジェネラルが、どの程度の強さなのか気になったので、鑑定を使って調べてみたのだが、その結果に驚愕することになってしまった。まずは通常のオークの結果はこんな感じだ。
【名前】:オーク
【年齢】:三歳
【性別】:
【種族】:オーク種
【職業】:なし(Cランク)
体力:1700
魔力:200
筋力:B
耐久力:B-
素早さ:C
器用さ:D
精神力:C
抵抗力:D+
幸運:E+
【スキル】:突進Lv4、咆哮Lv3、身体強化Lv2、絶倫Lv5、棍棒術Lv3
全体的にかなり強い、今の俺とほとんど変わらない能力を持っている。しかもそれが三十匹もいるのだ。……うん、勝てんな。
しかも、オークらしくスキル欄に絶倫があるのが何とも言えない。ちなみに絶倫の効果は……字面から推して知るべしである。
さらにオークジェネラルの方に至っては、もはや絶望的だと言える結果だった。
【名前】:オークジェネラル
【年齢】:七歳
【性別】:
【種族】:オーク種
【職業】:なし(Bランク)
体力:2700
魔力:400
筋力:A-
耐久力:B+
素早さ:B-
器用さ:C
精神力:B-
抵抗力:C+
幸運:D
【スキル】:突進Lv6、咆哮Lv5、身体強化Lv4、絶倫Lv8、棍棒術Lv5、統率Lv5
オークの上位種だけあって、その力は圧倒的と言わざるを得ない。しかも絶倫もレベル8である。大事なことなのでもう一度言うが、レベル8である。
当然だが、今の俺では到底太刀打ちできるような相手ではなく、戦えば確実に殺されること請け合いなのは間違いない。
幸いというべきかなんというべきか、現在俺のいる場所はレンダークの街から並の冒険者の足で半日以上移動した先にある森の中だということだ。
モンスターは余程のことがない限り自分たちのテリトリーをでることはないので、いきなりこのオークの群れがレンダークの街を襲うことはないだろうが、それでもこれほど街から近い距離にオークが群れを作っているのは十二分に脅威と言えるだろう。
(なんとかこの場を離れなければ……)
そう内心で思いつつ、気配遮断をフル稼働させ後ずさるように一歩一歩後退していく。
しかし、不幸なことにたまたま俺の体を撫でた追い風がオークたちの元へと届いてしまい、目に見えてオークたちが騒がしくなる。
オークは豚型のモンスターなので、鼻がかなり効く。偶然吹き荒れた風に俺の臭いが乗ってしまい、それにオークどもが気付いたのだ。
ただ、気配を断っているので正確な位置までは掴めていないが、このままでは見つかるのは時間の問題であった。
(仕方がない、ここはバレてもいいから逃げることを優先させよう)
ここに人間の俺がいることを知られるリスクよりも、逃げられる可能性を少しでも上げておくため、とある魔法を唱えた。
「【アクアミスト】」
名前の通り霧を発生させるこの魔法は、あの国民的RPGに登場するマ〇ーサという呪文と同じ効果を持ち、相手を霧で包み込み視界を奪う魔法だ。
突如として現れた霧に動揺したオークの群れが混乱している。これでは俺を探すどころではないだろう。
(よし、今のうちに――っ!?)
オークたちを足止めしているうちにこの場から離脱しようとした刹那、嫌な予感がしたと感じた瞬間顔のすぐ横を何かが通り過ぎていった。
よく見ると、ワイルドダッシュボアと同じ大きさもある大岩が転がっており、俺のすぐ横を通り過ぎて行った物の正体でもあった。
(やべぇ、あと数センチずれていたら直撃を食らってたな)
九死に一生を得た俺は、今も混乱するオークを尻目に命からがらその場から逃げ出すことに成功するのだった。
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