ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
33話「狩場開拓」
「よし、ここから初見の場所だな」
いつもの狩場へとやってくると、早々にある場所へと向かう。
その道中、襲ってきた五匹のダッシュボアを狩り、鮮度を保つために血抜きの処理を施して魔法鞄にぶち込んである。
今回の目的は新しい狩り場を開拓することにある。
というのも、現在ダッシュボアの素材をギルドに納品することで稼いでいるのだが、いずれこの流れはなくなってしまうのではないかと考えている。
俺の納品する素材という付加価値は付いているものの、ある程度の需要が満たされれば供給量の方が多くなり値段自体が相場相当にまで落ち着いてくるはずだ。
その時になって慌てて他の食い扶持を探していては面倒なので、稼げている今から次の稼ぐ手段を見つけておこうと思ったのだ。
であるからして、新しい稼ぐ手段を見つけるために今回俺が選んだのは、あのワイルドダッシュボアが出現した森を探索してみようということになった。
前回ワイルドダッシュボアと戦った場所を見てみると、どうやら俺の作った落とし穴から脱出に成功したようなので、まだどこかで生きているはずだ。
「あのデカ豚は、俺が仕留める……」
だた、あれを仕留めるにしても今所持している二つの魔法鞄を合わせた限界積載量は百五十キロなので、おそらく持って帰ることができないだろう。
かつて戦ったレッサーグリズリーですら二百キロはあろうかという巨体だった。今回のワイルドダッシュボアはさらに大きいため、持ち帰るためには二百キロの魔法鞄も手に入れなければならない。
「まあ、それはそれとしてだ。これより森の探索を開始する!」
誰にともなくそう宣言し、森の中へと侵入する。
今回の森はラレスタの雑木林に近い森ではなく、鬱蒼と木々が多い茂った森だ。
しかしながら、ジメジメした感じはなく太陽光も適度に届いているため、比較的居心地は悪くない。
周囲の様子を警戒しながら進んでいると、さっそく森の恵みを発見する。
「この茸は食べられる茸だし、あっちに生えてる草は確か薬の材料になったはずだ」
入ってすぐにこれほど豊富な素材があるとは……。これは幸先がいい。実にいい!
そんな感想を抱きながら森探索という名の茸採集を行っていると、気配察知に反応があった。
採集を一時中断し、こちらに向かってくる気配に集中した時、それは現れた。
「狼か……まあ、森にいるモンスターとしてはありふれたもんだな」
「グルルルル……」
そこに現れたのは、体長一メートル半の狼型のモンスターが三匹だった。
鑑定を使って調べてみると、その名も【フォレストウルフ】という名前だった。……うん、そのまんまだね。
強さ自体はそれほど強くなく、平均ステータスも最高でE+が精々といった具合だ。
ちなみにランクはEランクで、おそらく群れることでその真価を発揮するタイプのモンスターだと推察される。
少し緑がかった毛色を持ち、その眼光は鋭くこちらを睨みつけており、今も威嚇するかのように唸り声を上げている。
確実にこちらを獲物として定めてきており、その殺気は本物だ。並の駆け出し冒険者であれば思わずすくみ上がってしまうことだろう。
「お前らの肉は、美味いのか?」
「グルル……」
「まあいい、食べてみればわかることだ。てことで、初めまして。そして、さようなら。【アクアボール】!」
獣相手に効果のあるアクアボール戦法を使い、三匹のウルフたちが瞬く間に動かぬ骸へと変貌する。
抵抗らしい抵抗もされず、無傷で素材を入手することができるこの方法は、とても便利だ。
他にモンスターが寄ってきていないか周囲の様子を調べてみたが、それらしい気配はなかったので、そのまま血抜き作業を行うことにした。
ただし、今回風通しがあまりよくない森の中ということもあり、風魔法を併用して血の匂いが広がらないよう分散させている。
血抜きはすぐに終わり、三匹のうち二匹を魔法鞄に仕舞い込んで残りの一匹を解体する。
狼型のモンスターから取れる素材は、毛皮・骨・牙・肉とダッシュボアと代り映えしないが、心なしかウルフの方が取れる魔石の質が高い気がする。
おそらくダッシュボアよりもフォレストウルフの方がランクが高いからだろう。ちなみにダッシュボアは最低ランクのFである。
肉も取れたところで、さっそく調理に取り掛かりたかったのだが、ここで一つ問題が発生した。それは今俺がいる場所が森の中だということだ。
このまま火を使ってウルフの肉を調理すれば、火が森に広がってしまう可能性がある。環境破壊は良くないことだ。
「よし、ならばこのあたり一帯を少し整地しよう」
森への延焼を未然に防ぐため、適当な場所を土魔法を使って整地する。
草が生えている場所を土で固め、焚火をしても問題ないようにした。規模は大体二メートル四方と規模もそれほど広くはない。
これで調理の環境が整ったので、さっそく調理を開始する。
そこら中に落ちている木の棒を薪として拾い集め、火魔法を使って着火する。
肉食の獣の肉なので固くて食べられないことも考慮し、解体したナイフの腹を使って肉を叩き仕込みをする。
それから焼いた時に肉が固くなるのを防止するため、少し肉に切り込みを入れる。
木の棒で作った串に仕込んだ肉を刺して、そのまま焚火の近くに刺して肉が焼けるのをしばし待つ。
待つこと十分、ほどよく火が通ったところで二つまみほどの塩を上からパラパラとかける。
この最後の仕上げの塩をかける瞬間が、料理の工程の中で一番好きだったりする。理由は特にないが、なんとなくフィーリングが趣味に合うのだろう。
「さて、これで完成だ。さっそく実食といこう。……いただきます。はむっ」
口の中に入れた肉は、下処理のお陰かはたまた元々のそうなのかはわからないが、柔らかく噛み切ることができた。咀嚼する度に肉の旨味が口の中に広がり、それが美味であると舌が脳が体すべてが歓喜する。
肉食の獣であるにも関わらず、独特の獣臭さもなく前世で食べていた馬肉や鹿肉の味に近い。
塩だけのシンプルな味付けだが、狩ってすぐに解体したため肉の鮮度が良く、実に美味い。
「おかわりだ」
試しに焼いた分の肉がすぐになくなってしまったので、追加で焼き食べ続ける。
前世では大食漢ではなかったが、食べ盛りの年頃なのか今生では沢山食べることができている。
都合約三キロほどの肉が腹の中に消え、満腹感と幸福感が俺の中を駆け巡る。
「ふう、食った食った。余は満足じゃ……」
この世界に転生してよかったことは、食べ物が案外美味しいというところだ。
食材自体に化学薬品などの体に悪影響を及ぼすものが使用されておらず、自然由来のものがほとんどなため素材そのものの味を楽しめるからだろう。
ただし、地球のように食文化が発展していないため、適切な調理法が広まっていなかったり、調味料自体も塩と胡椒、それにいくつかの香辛料が流通しているだけで、味にバリエーションを持たせることもできないのが難点だ。
「生活基盤が安定してきたら、作らなければならないな。醤油と味噌、あとはマヨネーズとケッチャプだな」
異世界転生や異世界転移物の小説では定番なことだが、元の世界の料理の味をこちらで表現しようとするのは自然な流れだ。
ただ、それを周囲に伝えることはあまりしない方がいいということも理解している。
文明の発展が進んでいないこの世界では、料理のレシピ一つとっても財産であり、そのレシピに高額な値段が付けられることも珍しくない。
特に職人気質の高い料理人は、自分で作り出したレシピを公開することはほとんどなく、師匠から弟子へと伝わっていく秘伝扱いとなってしまっているのも、レシピが広がらない要因となっている。
とにかく、未知のレシピを知っていることが広まれば、それを手に入れようとする権力者が必ず出てくるので、こういった技術を広めたい場合は権力者に対抗できる手段を手に入れてからにするべきなのである。
尤も、俺はそういうのには興味がないので、自分で食べる分だけ作って楽しむつもりだ。
「さあ、落ち着いたところでウルフ狩りと行くか……」
いつの間にか新しい狩り場を開拓する目的からフォレストウルフを狩るという目的に移行している気がするが、それはそれとしてさらに森の奥へと進んでいくのであった。
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