ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
29話「初めての討伐依頼と肉の味」
翌日、少し遅めに起床すると朝支度と朝食を済ませ、冒険者ギルドへと向かう。
朝の依頼争奪戦に参加することなく、マイペースに常設系の依頼を受けるだけなので楽といえば楽だ。
ギルドに到着しすぐに受付カウンターに歩いていくと、ミリアンが男性冒険者に言い寄られていた。
だが、嫌がっているそぶりがなかったので、そのまま成り行きを見てみることにする。
「なあ、いいだろ? 俺と食事に行こうぜ」
「駄目ですよー。ギルドの規則で、そういうのはやっちゃいけないんですからー」
「そう、かてぇこと言うなって。俺のこと嫌いじゃないんだろ?」
「でもー、駄目なものはダメなんですー。ごめんなさい」
「くぅー」
結局ミリアンがその冒険者の誘いを受けることはなく、冒険者も断られることがわかっていたのか、握り拳をプルプルさせながら悔しがるだけだった。
それを見ていた他の冒険者も「ミリアンがあんなちんけな野郎の誘いなんざ受けるわけがねぇ」と口々に感想を述べ、ギルド内が笑いに包まれる。
この状況でミリアンに担当してもらう勇気はないため、少し離れた受付カウンターにまで行って他の受付嬢にお願いしようとしたのだが……。
「いらっしゃいませー。ようこそ冒険者ギルドへー」
「……」
なぜか俺の姿を見つけたミリアンが、わざわざこちらの受付カウンターまでやってきて、そこを担当していた受付嬢と交代してしまったのだった。……解せぬ。
とにかく、今さら他の受付に行くわけにもいかないので、ミリアンに常設系の依頼がないか聞くことにする。
「そうですねー。今だと、薬草採集よりもモンスターの討伐系の方がいいかもしれないですねー」
「できれば薬草採集がいいんだが」
「それでもいいのですが、ギルドとしてはモンスター討伐系の依頼も受けてほしいのですよー。それほど手ごわいモンスターでもありませんし、いかがですかー?」
そう言いながら、わざとらしく胸の谷間を見せつけてくるあたりあざとい行為だなと頭では理解しつつも、悲しいかな男としての本能は彼女の大いなる谷間に逆らうことはできないらしい。
まだ成人していない体とはいえ、そういった興味は人並みにあるようなのです。とほほ……。
とりあえず、今回は討伐系の依頼を受けることとし、ミリアンから詳しい内容を聞く。
なんでも、このあたりによく出没するモンスターのダッシュボアという猪型のモンスターの討伐依頼らしい。
「そのダッシュボアの特徴をできるだけ詳しく教えてほしい」
「特にこれといった特徴はないのですが、猪型のモンスターは例外なく突進攻撃を仕掛けてきますー。その突進にさえ気を付ければ、駆け出しの冒険者でも問題なく討伐はできると思いますー」
「そのモンスターの使用用途はなんだ? 食料か?」
「それもありますけどー、骨や牙は武器や防具の補強に使われたりしますねー。あとは魔石が取れるんですが、それは錬金術や薬の材料なんかに使われたりします―。ダッシュボアの素材の中でも特に肉は、癖がなくてとても美味しいのでいくら狩ってきても問題ないですよー」
「わかった」
ミリアンからモンスター討伐の詳しい話を聞いた俺は、その依頼を受けることにした。
毎回薬草ばかり集めていてはもしかしたら依頼がなくなってしまうこともあるかもしれないし、なによりこういった実践的な依頼もこなしておかねば体が鈍ってしまうからな。
それになんといっても、採取系の依頼よりも怪我をする可能性のある討伐系の方が成功報酬がよかったりするのだ。
具体的には薬草採集の報酬は大銅貨一枚なのに対し、モンスター討伐の依頼は大銅貨五枚なのだ。五百円だぜ。五百円。
しかも討伐系は特定のモンスターを一定数狩ることで報酬がもらえるので、三匹で報酬がもらえるという内容で実際狩ってきたのが六匹だった場合、討伐依頼を二回達成したことになるというのだ。
今の手持ちが少ない以上、ここいらである程度まとまったお金が欲しいところだったので、さっそく依頼をこなすべく街の外へと出かけた。
「ミリアンの話では確かこの辺りが、ダッシュボアの生息域らしいのだが」
レンダークから徒歩一時間の場所にある草原。その草原にダッシュボアの生息する場所があるとミリアンから教わったのだが、この場所で合っているのだろうか?
当然身体強化の魔法を使ってやってきたため、実際この場所に到着した時間は十分も掛かっていない。だから、もしかしたら場所が間違っている可能性もあるのだ。
しばらく草原を散策しながらダッシュボアを探していると、三十メートル先に動物らしきものが動いているのを捉えた。
どうやらお目当てのダッシュボアだったようで、近づいて観察してみると地面に鼻を擦り付けながらブモブモと鳴いている。
体長は大体四十から五十センチと小柄で、地球にいた猪の子供であるウリ坊くらいの大きさだ。
「おし、じゃあいっちょ狩っていきますかー」
「ブモ? ブモォー!」
俺のつぶやきが耳に入ったらしく、こちらに向き直ったダッシュボアが咆哮を上げながら突進してくるのが見えた。
ダッシュボアの動きに注目しながら、懐に入られる前にタイミングを見計らって突進を躱す。
ダッシュボアは突進を避けられたことにご立腹なのか、鼻をブモブモと鳴らして威嚇のような行動を取っている。……豚のくせに生意気だな。
その後も何度か突進攻撃を繰り返してきたが、動き自体が直線的なため余程のことがない限りは直撃を食らったりはしない。
「なるほどな、これなら駆け出し冒険者でもなんとか仕留められそうだな」
何度も突進を回避されるうちに体力が底をついたのか、荒い息を吐き出しながらダッシュボアの動きが止まった。
いろいろと動きを検証しているうちに疲れてしまったみたいだ。
俺は相手をいたぶるような特殊な性癖は持ち合わせていないため、ここいらで止めを刺そうと魔法を発動させる。
「じゃあいつものパターンで……。【アクアボール】」
「ゴボォ、ゴボボボボ……」
それからアクアボールを使い、いつぞやのレッサーグリズリーのようにダッシュボアを溺死させた。こうすることで、ダッシュボアを傷つけることなく素材をそのまま手に入れることができるのだ。
討伐したダッシュボアを魔法鞄に入れ、次のダッシュボアを探しに歩き出す。
最初のダッシュボアとの戦いからさらに二匹のダッシュボアが出現したが、特に苦戦することなくダッシュボアの討伐に成功し、無傷で素材を手に入れることができたのだが、それ以降ダッシュボアの姿が見られなくなる。
よくよく観察してみると、俺以外にも複数の冒険者たちが狩りを行っており、先回りされる形でダッシュボアを横取りされていたらしい。
横取りと言っても、意図的にではなく結果的なものであり、こちらに嫌がらせをする目的ではない。
とりあえず、依頼達成に必要なダッシュボア三匹は確保できているので、ここから解体作業をやってみることにする。
ちなみに解体の経験についてだが、前世の記憶に親戚の家に遊びに行った時、地元の猟師が鹿や猪を狩ってきてくれたことがあった。
その時親戚のおじさんに混ざって解体作業を手伝わされたことがあったのだ。なんとなくご都合主義的な匂いがしなくもないが、解体の経験があったのは俺にとって幸運だった。
まず初めに土魔法で一定間隔に空けた柱を二つ作り、そこに同じ要領で作った土の棒を設置する。ちょうど物干し台に物干し竿を置くイメージと言えばわかりやすいだろう。
魔法鞄からダッシュボアを取り出し、両足を周囲に生えていた蔦を使って設置した棒に括り付ける。
その状態にしたダッシュボアの地面に土魔法で深さ三、四十センチほどの穴を開け、首筋にナイフを入れ血抜き作業を行う。一通り血が抜けきったら、さらにナイフを入れて本格的な解体作業を行う。
取り出す部位は毛皮、骨、肉、牙などで内臓などはすぐに腐ってしまうため、血抜きした穴の中に一緒に入れ埋めておく。
この作業だけで大体一時間ちょっと掛かり、三匹解体し終わるまでにすっかり昼になっていた。
ちょうど肉が手に入ったので、昼飯のついでにダッシュボアの肉を食べてみることにした。
火が燃え移らないよう土魔法で壁を作り、そのへんに落ちていた木の棒をかき集め焚火を作る。
同じく木の棒で作った串に解体した肉をぶっ刺して、焚火のそばに刺して焼けるのを待つ。
じゅうじゅうという効果音と共に肉が焼けていく匂いが広がり、思わず腹の虫が鳴き出してしまった。
焚火であぶり続けること数十分、ようやく肉に火が通ったので魔法鞄から塩を取り出し、出来上がった肉に二つまみほどかけて完成である。
「それでは、実食!」
などと言いつつ、もう我慢できないとばかりに肉に齧り付く。
獲れたばかりの新鮮な肉を使っているということもあって、旨味たっぷりの肉汁が口の中で弾け飛び、肉の柔らかな食感が咀嚼する歯を心地良く押し返してくる。
「美味い! 実に美味である!!」
そう満足気に一言口にすると、そこからはひたすら肉を胃に収める作業をするかのように食事に没頭した。
気が付くと、ダッシュボア一匹分の三分の一、重さにして約三キログラムの肉が俺の胃に収納された。
「はあー、美味かった」
しばらく満腹感に浸りながら休憩する。
仰向けに寝転がりながら何も考えずにぼーっと空を見上げる。
雲がゆっくりと流れる様子をただただ何も考えずに見続ける。だたそれだけのことなのに、不思議と楽しい気分になってくる。
それから少しの休憩後、ダッシュボア討伐を再開する。
そのまま夕方近くまで狩りを続けた結果、さらに追加で五匹のダッシュボアの討伐に成功した。
時間的に解体している暇がなかったため、そのまま魔法鞄にダッシュボアを入れると、夜になる前に街へと帰還した。
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