ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
6話「ポジティブキャンペーン(弟マーク) 前半」
屋敷に戻った俺は、すぐにマークに村での顛末を説明する。そして、俺はマークに領主の息子としてのイメージアップを図る作戦を授けた。
~Side マーク ~
兄さまから村での出来事を聞いた僕は、次の日父さまのもとを訪ねた。兄さまから勉強を教えてもらって一年が経過した今では、平仮名はもちろんのことカタカナと簡単な漢字を覚えることができた。
他にも歴史や日常で使用される知識など幅広い分野を満遍なく教えてもらったけど、未だに兄さまに追いつける気がしない。人に何かを教えるということは、それだけ多くの知識を勉強してそれを理解しなきゃいけない。それはとても大変なことだと僕は思う。
さらに知識だけでなく、魔法や剣術に関しても兄さまはその才能を遺憾なく発揮していて、その指導のお陰なのか簡単な身体強化の魔法と剣術の基本的な型くらいはできるようになった。
そんなとんでもないことを、さも当たり前のように兄さまは涼しい顔をしてやってのけている。それだけで僕とは才能が違うんだって考えてしまうと、本当に僕が領主なんてできるのだろうかと不安になってくるけど、その度に兄さまは「大丈夫だ。お前は俺よりも天才だ」と言ってくれる。
そんな中、一通りの勉強が終了し自分でもできるようになった頃、そろそろ他の人たちに勉強の成果を発表しようというタイミングで兄さまが近くの村の視察にいくことになった。
村から帰ってきた兄さまはとても機嫌が良く、話を聞いてみるとなんでも村で問題を起こして父さまに叱られた挙句、そのまま強制的に帰らされたらしい。
それをまるでいい出来事があったかのように兄さまは機嫌良く話してくれけど、一体どこに機嫌が良くなる要素があったのか僕にはわからない。
僕がそんなことを考えていると、兄さまは僕に「お前も父上に頼んで村に連れていってもらってこい」と言われ、よくわからないまま僕は父さまのいる書斎にやってきた。
「父さま、少しいいでしょうか」
「マークか、どうした」
僕が部屋に入ると、机に向かって険しい顔をしていた父さまの顔が綻ぶ。そんな父さまに僕は兄さまの指示通りにお願いをする。
「僕も村に連れて行ってください」
「……ならぬ」
僕が兄さまが村に行ったことを聞きつけてやってきたというのを装い、父さまに村に連れて行って欲しいとお願いしたけど、予想通り断られる。
しかし、これは想定済みの反応だったため、兄さまが言っていた内容をそのまま口にする。
「父さま、兄さまがとんでもないことを仕出かしたことは聞きました。領主としてもう一度村に行って兄さまの失態で失った信頼を取り戻す必要があるのではないですか?」
「……」
兄さまが考えた村に行く口実が一理あると思ったのか、父さまは押し黙ったまま考える仕草をする。
「わかった。急ぎの仕事があるからそれを片付けたあとで人を呼びに行かせる。それまで待っていなさい」
「わかりました。父さま、ありがとうございます」
父さまの許可を得ることができた僕は、兄さまの作戦を遂行できることに内心で安堵し、父さまの部屋をあとにした。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
父さまの許可を得た僕は、父さまと共に屋敷から最も近い村であるローグ村へとやってきた。
村に入ると、すぐに村長らしき白髪白髭のおじいさんが出迎えてくれた。
「これは領主様、本日は一体どのようなご用件で?」
「ああ、実は昨日の件についてだが、本当にすまないことをした。改めて謝罪する」
昨日の件についてと父さまは濁していたが、おそらく兄さまが仕出かしたことだろうと当たりを付け余計な口出しはしなかった。大人しく、父さまが村長に紹介してくれるのを待っていると、それよりも先に村長と目が合い彼が父さまに問い掛けてきた。
「そのことについては、昨日も謝罪頂いておりますので問題ありません。ところで領主様、そちらの利発そうな子供は……」
「あ、ああ。末の息子のマークだ。マーク、挨拶を」
父さまに促され、僕は兄さまに習った礼儀作法に則り自己紹介をする。自己紹介をする際のやり方として兄さまに言われたのは、相手の目を見て聞き取りやすいはっきりとした口調だが、高圧的にならないようゆっくりと優しく話せというアドバイスだった。
「初めまして、僕の名前はマークです。今年で五歳になります。先日は我が兄がこの村にご迷惑を掛けたこと、重ねて謝罪させていただきたい。本当に申し訳ありませんでした」
「……」
「……」
ゆったりと頭を下げ頃合いを見計らって顔を上げると、そこには呆けた表情の二人の顔があった。僕の言葉が予想外のものだったらしくしばらく沈黙が支配したが、なんとか平静を取り戻した村長が困惑した様子で当り障りのない返答をしていた。
「それでは父さま、村を見て回ってもよろしいでしょうか?」
「……あ、ああ。迷惑は掛けるなよ」
「はい。それでは村長さん。村を見学させてもらいますね」
「……え、ええ。どうぞご随意に……」
僕は二人に姿勢を正して一礼したあと、村の中心部に向かって歩き出した。歩いている最中、父さまと村長の会話が途切れ途切れに聞こえてきたが、父さまの言葉だけははっきりと聞こえた。「ロランではなく、マークが先に生まれて来てくれれば」と……。
護衛の人を引き連れて村の中心部にやってきた僕は、村唯一の雑貨屋にやってきた。兄さまの話では、ここで兄さまがお金を払わず店の商品を持ち出したらしいのだ。
「いらっしゃい……ませ」
貴族の服を着ている僕を見た店主の威勢のいい声が徐々に小さくなっていく。どうやら、昨日の兄さまとの出来事が尾を引いているようで、警戒しているみたいだ。
店には雑貨屋というだけあって、様々な日用品が取り揃えられ値段も品薄なものは高価だったが、この村の水準としてはとても手ごろな価格だ。
一通り店を見て回った僕は、思い切って店主に話し掛けることにした。
「いい店ですね」
「あ、ありがとうございます」
「これだけ品数が多い店は街でもなかなかないと思いますよ。特にこの……」
そのあと、少しだけ店主と何でもない雑談を交わす。最初は警戒していた店主も話しているうちに警戒心も薄れ、今では自然体で僕に接してくれている。
緊張も解れてきた頃合いを見計らい、僕はとある瓶を手に取る。
「これって、水あめですよね。珍しい」
「あ、そ、それはですね……」
どうやら昨日の兄さまとのやり取りを思い出しているようで、今まで自然体だった店主が急に口ごもる。このままだとマズいと思い僕はすぐに切り返す。
「これください」
「は、はい! ど、どうぞお持ちください」
「……あの、いくらですか?」
「え?」
僕の言葉を「タダでくれないか」と受け取ったようで、緊張した様子で店主は頭を下げる。一体兄さまに何をされたのだろうと、屋敷に戻ったあと兄さまに問い詰めたい気持ちを抑えつつ、僕は優しく問い掛けた。
「この水あめの値段ですよ。いくらなんです?」
「は、はあ。それでしたらこれくらいになりますが……」
店主が提示した金額は、さすがに貴重な甘味とあって平民が気軽に買える額ではなかったが、貴族であればなんら問題ない金額だったため、僕は皮袋からお金を取り出し店主に支払う。
「え? あ、あのー、金額が多いのですが」
「ああ、それは迷惑料です」
「迷惑料とは?」
「先日僕の兄がこの店に迷惑を掛けたと聞いています。なんでも店の商品の代金を支払わなかったとか、ここにあるものは貴方が村の人たちのために苦労して集めたものです。その苦労を無下にすることは、決して許されることではありません。ですので、兄に成り代わりそちらのお金は兄が持っていった商品の代金を加えた迷惑料としてお受け取りください」
僕の思いが伝わったのか、最初は渋っていた店主も僕の熱意に負けて最終的には受け取って貰えた。それから、またこの村に来るときは寄らせてもらう旨を伝えたあと、そういえばまだ名乗っていなかったのを思い出し、僕は店主に自己紹介する。
「申し遅れましたが、僕はマルベルト男爵家の次男でマークを言います。以後お見知りおきください」
「は、はい! 私はこの雑貨屋の店主をしてますロッツォです」
「それでは、ロッツォさん。また来ます」
いろいろあったが、結果として兄の失態を拭うことに成功した僕は、最後に村の畑に向かった。
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