ビンボー領地を継ぎたくないので、全て弟に丸投げして好き勝手に生きていく
1話「蘇る、前世の記憶」
とある世界のとある国にある、とある領地を治める貴族がいた。
その名をランドール・フォン・マルベルトといい、マルベルト領の領主を務めている。貴族としての位は男爵で、彼が十五歳の時とある戦争で武功を立てたことがきっかけで国王陛下から叙爵され、マルベルト領と男爵の位を授かったのだ。
現在28歳のランドールには妻と三人の子供がおり、貧乏ながらも絵に描いたような幸せな日々を送っている。
妻のクラリスはランドールに嫁いだ元子爵家の令嬢であり、基本的に温和な性格をしているが、怒らせると手が付けられないくらいに恐ろしい一面を持っている。ちなみに、年齢は26歳である。
そんな二人の間には、二人の男の子と一人の女の子が生まれており、長男ロランに次男マーク、そして長女のローラである。
マークとローラは双子であり、現在10歳だ。弟のマークは容姿端麗・品行方正・成績優秀という三拍子が揃っており、まさに貴族家の子息といった具合だ。
妹のローラは、マークと同じく容姿は端麗だが少しお転婆な部分があり、兄である俺に並々ならぬ感情を抱いている。所謂ひとつのブラコンである。
ここまで俺の家族を紹介してきたが、俺の名前はロラン。このマルベルト男爵家の長男で現在年齢は12歳だ。
詳しい話をする前に、まずは俺のことを話さなければならないだろう。あれは俺が六歳の時にまで遡る。
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いつものようにベッドに横になり眠りに就いた時、俺はとある夢を見た。それは夢にしてはとても鮮明で、まるで違う世界に迷い込んだような感覚を覚えた。
途方もない高さの建造物が所狭しと建ち並び、舗装された黒と白で配色された何台もの馬車が行き来できるほどの大きな通路には、鉄でできた箱のような馬車が見たこともない速さで走行している。
道行く人々も貴族の礼服のような堅苦しい服を身に纏っており、何か一つの目的があるようにとある場所を目指してひたすら歩き続けている。
そして、俺もその内の一人であり、頭の中に“出勤”という文字が浮かんでいることから、今から仕事場へ向かうところらしい。
目的の場所に一歩、また一歩と近づくにつれ、忘れていた記憶が蘇ってくる。今俺が見ている光景、それは紛れもなく俺の前世の記憶だ。
俺はごく一般的な家庭で生まれ育ち、一般的な学校に通い、そして一般的な企業に就職した。波乱な人生ということは一切なく、退屈なそれでいて無難な生活を送っていたのだ。
そんなこんなで勤めてきた会社も定年を迎え、生涯独身を貫き通し、仲の良い友達や顔見知りはいたものの一人寂しく孤独にその生涯に幕を閉じた。……の、はずなのだが――。
「はあ、はあ、はあ……」
そんな光景を目の当たりにしたあと、すぐに目を覚まし上体を起こす。時刻はまだ深い時間帯らしく、外は暗闇に包まれている。
そして、そのような夢を見たあと、俺の体に一つの変化が起こっていた。それは、俺がこの世界で送ってきた六年間の人生の記憶に付随する形で、前世で経験した記憶が追加されていたのだ。平たく言うと、前世の記憶が蘇ったのである。
そのことを自覚した瞬間、俺は突如として焦燥感を覚えた。何に対してそう感じたのかといえば、俺の今の立場に対してである。
先に説明した通り、俺はマルベルト男爵家の長男であるからして、当然ながら男爵家の人間から見れば俺は跡取り息子ということになる。
前世での俺は、波乱の人生は送ってこなかったが真面目に会社を勤めてきた。その功績が認められ、出世コースの道を突き進み、最終的に会社の取締役にまで昇り詰めた。
ところが、その取締役を務めている時に他の取締役や社長たち重役から本来自分たちがしなければならない雑務などを押し付けられ、実質的に小間使いのような扱いを受けていた。
新参者の成り上がりであった俺のことを快く思っていなかったのだろう、直接的な嫌がらせはなかったが事あるごとにそういったことが常習的に蔓延していた時期があった。
だからこそ俺は知っている。上位の存在になればなるほど、派閥やしがらみといった面倒事に巻き込まれ易くなり、忙殺される日々を送ることになってしまうということを……。
そして、領主というものはそれの最たるものであり、言い換えれば領地というものに縛られた奴隷に過ぎないのだ。
「このままじゃ、待っているのは自由のない人生だ。俺はそんなの認めんぞ!」
かくして、生まれ変わって齢六年という若さで領主になることを回避すべく、ロラン少年の戦いの火蓋が切って落とされるのであった。ってのが、俺の物語の始まりだったわけだ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
さて、これで大体のプロローグは終わったと思うが、俺が領主にならないようにするには具体的にどうすればいいのかという話に移行しよう。
いろいろと考えたがどれもしっくりとした案が浮かばず、頭を悩ませていたところ急に頭に電球が灯り、一つの妙案が浮かんだ。
「そうだ! マークに押し付けてしまえばいい!!」
そう、自分がやりたくないことは他の誰かにやってもらえばいい。そういった考えから思いついた策だったが、これが案外うまくいきそうな感じがするのだ。
俺には双子の弟と妹がおり、一人が弟のマークでもう一人が妹のローラである。つまりは、将来的にこの弟にうちの領地を継いで領主になってもらおうということだ。だが、ただ弟に領主の座を明け渡すなどといった、簡単なプロセスを踏むだけというわけにはいかないのが貴族の世界というものである。
貴族の間では、爵位と領地を継ぐ資格があるのはその家の長男のみという決まりになっている。ただ、これは法律的な縛りではなく、風習的なものであるため長男より後に生まれた人間でも領主をすることは何ら問題はない。
しかし、この風習というしがらみが厄介で、正当な理由なく長男以外の人間に当主の座を与えることは外聞が悪く、貴族の世間体的にあまりおよろしくない行為らしいのだ。
だからこそ、弟に領主の仕事を押し付けるためには、貴族としての“正当な理由”が必要となってくるわけだが、その一例を挙げるなら長男が虚弱体質である場合だ。
長男の体が弱く、とても領主としての務めを果たすことができないと判断された場合、次男以下の人間に当主の座を譲るという前例が過去にもあるにはある。
しかしながら、俺の生まれ変わってからの六年間の記憶を手繰り寄せたところ、大きな病気に罹ったことはなく至極健康的な体だという結果がもたらされた。両親よ、丈夫な体に産んでくれてありがとう……。
では、他に正当な理由があるのかといえば、一番しっくりくるものは何らかの要因で長男が死んでしまった場合だが、いくら領主になりたくないからといって自殺するような愚行は端から選択肢に入っていない。
となってくると、俺が死ななくて済む選択肢であり、尚且つ誰の反対に遭うこともなくスムーズに弟に領主になってもらう方法は一つしかない。
「俺が馬鹿な兄を演じて、弟を優秀な人材に育て上げれば、自ずと領主になるのは決まってくるというものだ」
長男以外の人間が当主になる正当な理由として妥当な内容の一つが、長男よりも他の兄弟が優秀だった場合だ。ひとかどの貴族家当主であれば、自分の後継者はできるだけ優秀な人間に引き継がせたいというのが世間体を重んじる貴族の建前であり、同時に本音でもある。
そうと決まれば、すぐにでも行動に移るべきところではあるのだが、弟を優秀な人材に育てるためにはまず自分がこの世界の知識を得なければならない。今後の方針も決まりすぐに行動を開始するべくベッドから抜け出そうとしたのだが、今の時刻がまだ夜も明けぬ深夜だということに思い至り、動き出すのは夜が明けてからにすることにして俺は再び眠りに就いた。
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コメント
ノベルバユーザー601444
タイトルに惹かれて読み始めました!
面白いです!
また明日続きを読みたいと思います(^^)
ノベルバユーザー601400
面白いですね。続きが読みたくなります
ノベルバユーザー601720
面白かったです。人芸関係ものも、面白いです
スペチ
自分だけでなく、兄弟も人間関係が気になる作品です!
ノベルバユーザー601490
取締役の記憶があり〜からの弟教育の展開が面白過ぎます。さらに妹もブラコン。続きが楽しみです。