【短編】傾国の悪女は、王太子殿下を誑かして、本気で国盗りをするそうです。

笛路

4話



 領地内での私の噂は、特に王都からやってくる商人たちが口を揃えて言っているそうです。
 それは『領主に毒を盛ったらしい』『男を囲っているのがバレて婚約破棄された』『王都にいられなくなって領地運営の真似事をしている』の三種類だそうです。

 明らかに作為的なものを感じますね。
 しかも情報源がバレバレです。

「あんのクソガキィ」
「トニー、そういう場合は、『いくつになっても、童心を持ち続けられる、精神的に未熟な青年』と言いましょう」

 ……エンダーってえげつないわね。怒らせないようにしましょう。

「ケイ、ありがとう」
「お嬢様」
「なぁに?」
「ちょーほー員、いないんですよね? ぼく、なりたいです」
「「……」」

 意味はわかっているのかと確認すると、勢いよく頭を縦に振られました。
 ケイは午後の自由時間を、領地内の子どもたちと情報交換する時間にしていたそうです。子どもたちの情報力というのは侮れないもので、大人が真剣に話している側で素知らぬ顔で遊んでいるふりをして、しっかりと見聞きしているのだそうです。

「…………庭師はいいの?」
「選択肢のひとつではありましたが、ぼくは、ちょーほー員の方がので」

 ――――向いてる?

 エンダーがガックリと肩を落としたので、何事かと思いましたら、ボソリと妻オリビアの名前を呟きました。

「聞いていたわ。全く仕方のない子ね」
「あ、かぁさん」

 どこから現れたのか。気付いたときには、オリビアが執務机の前に立っていました。
 そしてエンダーと共に頭を下げると、衝撃の告白をされました。

「王家所属の……」

 王家所属の、諜報部。二人とも。
 そしてケイは、この瞬間に諜報員になることが決定。
 今までの行動や能力を思い出すと、いろいろと納得が出来ました。

王太子の差金ね?」
「…………まぁ、そうなりますかね?」
「あんのクソ王太子殿下、まだ諦めてなかったんかーい! ってお嬢様ぁ  何を頬染めてやがんですか!」

 私がまだまだずーっと幼い頃、両親に連れられて王城のお茶会に参加したときに出逢った少年。
 青みがかった黒い髪と、キラキラと輝く碧色の瞳。私より少し背が高くて、柔らかく微笑みかけてくれた人。

 何度かお逢いする内に、お互いに淡い恋心を抱くようになりました。
 幾度となく王城や我が家のタウンハウスでデートを重ね、このまま――――と思っていましたが、我が侯爵家を継ぐ者がいないという問題に直面しました。
 そこで白羽の矢が立ったのが、元婚約者のあれ。

 私は殿下への恋心に蓋をし、鍵を掛け、我が家を守ると決めたのですが――――。



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