勇者デリバリー~毒舌少女と純情王子の冒険譚~

花宵

6、嫌みか!

「な、き、貴様、女だったのか!」


 耳まで真っ赤にして驚く目の前の男前。
 下を見ると、露になったあたいの貧相な胸。


「イヤァァアアアア!」


 無我夢中だった。
 両手の縄をスキルを使ってほどき、急いで前を隠す。

 いくらゲームの中とはいえ、男に胸を晒す趣味はない。
 逃げようと走るが足に重みがかかって進めない。


──ガクガクブルブル


 部屋の隅で小動物のように震えるあたい。
 手首に残るジンジンする痛み。
 足を拘束する金具の感覚。
 やけにリアル過ぎる感覚に気づいてしまった。

 ここはゲームの中やない。


──コツ、コツ、コツ


 男がこちらに近づいてくる。


──パサ


 肩にかけられる肌触りの良い布の感触。


「手荒な真似をして申し訳ありません」


 あたいは恐る恐る振り返った。
 男前は剣を収め、頭を下げ、膝をついて謝っていた。


「ようこそお越しくださいました、勇者様」


 何がどうなってそうなってんの?
 いきなりキャラ変わってんけど。


「すぐにお召し物を用意させます。不自由でしょうが、今しばらくお待ちください」


 さっきまでとは打って変わって優しく声をかけてくる男前。
 何かの糸が途切れたかのように、あたいは意識を失った。


『1つ大事な事を伝え忘れていた、この世界はゲームではない』


 はいはい、知ってますよー。
 身をもって体験しましたよー。
 てか、言うの遅いわっ!


『この世界の時間とお前の現実世界の時間は連動している』


  なんか今、さらっと凄い事言ったよ?


『つまり、この世界での死は本当の死を意味している』


 それさー最初に言うてくれへん?
 そしたら迷わず、究極の戦闘スキル選んでたよ?
 そして、速攻世界救って元の世界帰ってたよ?


『活躍を期待しているぞ、ユニーク勇者よ』


 嫌みか!

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