バンクエットオブレジェンズ~極めていた鬼畜ゲーがサービス終了し生きがいを失ったオレはフルダイブ型Eスポーツチームに拉致ッ……スカウトされ国内最大リーグの頂点を目指すことに!!~
第三話 バンクエットオブレジェンズ⑥
バサァァッ…バサァァッ…バサァァッ…………………
初め、ジークはその突如頭の上を横切った影に対し特別な反応は示さなかった。また新たな生物の皮を被った経験値が向こうからやってきた、その程度の関心しか寄せる事は無かったのである。
恐らくその原因は一般人と彼の間にあるギャップ。普通の人間がゲームに対し求めるのが爽快感や癒しであるのに対し、ジークが求めているのは居場所という酷く朧げな概念だったから。
だがそんな彼の目が、その羽音の主の偉容が降り立った瞬間見開かれる。
具体的に何がとは言えない。だが明らかこれまで戦ってきた有象無象と奴との間には乖離があったのだ。
存在力の様な物が他と比較して桁違い。複数の意味で、途轍もなく巨大にジークの瞳へは映ったのである。
確信するのに1秒も必要としなかった、コイツがこの世界の王なのだと。
ッオ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”!!
目前へ降りて来たのは、黒曜石を思わせる外皮にマグマを思わせる紅蓮の亀裂が走る巨大なドラゴン。
まるで自然それ自体が意志を得た様な唯有るだけで陽炎立ち昇るエネルギー。至上の宝石を思わす琥珀色へ虹を散らした瞳。
それら二つの顕現した美に呼吸を奪われていた人間の鼓膜を突如大音量が劈く。
それは脳が生物の声と認識する事さえ拒む音。噴火の爆発音と地響きの重低音を重ねたかの如き、危機回避本能を鷲掴みにする咆哮であった。
コォォォォォ………
それで漸く今相対しているのが生物の外見をした経験値ではなく、自分ですら打倒され得る強敵だと認識したジーク。
だがその余に獰猛な美しさに見惚れた一瞬が、命取りと成った。
大きな音では無い、しかしまるで大河に呑まれたかの如く周囲の空気が一方向へ向け流れていくのを肌で感じる。そしてその向う先にあるのはガバリッと開かれ剣の如き無数の猛牙並ぶ竜の大口。
そして繊細に作り込まれた皮下の肋骨が浮き出て酸素の行く末を示し、それが熱へ変換されていくのをジークは目視した。深黒色だった外皮が熱により赤色に変貌し、紅の亀裂が広がっていく。エネルギーが奴の肺の中で幾何級数的に膨張していく。
直ぐに分かった。この美しき巨竜は、ドラゴンの代名詞とも呼べるあの攻撃を自分に放とうとしているのだと。
「…ッ!!」
ボウンッ、ゴオ″オ″オ″オ″オ″オ″オ″オ″オ″オ″!!!!
今動かなければ死ぬ。そう本能で理解したジークは衝動に突き動かされるがまま側方へ飛んだ。
しかし、その程度の抵抗では狙い定めた王を前に悪足掻き程の意味すら成せはしない。
ドラゴンの口が開くと同時に溢れ出たその業火は、ジークが持っていた炎とういう物に対するイメージから完全に逸脱していた。
それはさながら堤防決壊直後の濁流が如く扇状に急拡散し、進路に存在する全てを呑み焼き焦し炭へと変えていく。更に竜は首を振り回すことによりその炎で渦を巻き、周囲360度満遍なくへ何一つ原型を保つ事許さぬ超高温を届かせてくる。
ドラゴンを中心とした半径50メートル全てが、たった一瞬きの内に黒一色の焼け野原へと変貌したのであった。
「…………ッ何で、オレまだ生きてるんだ?」
死を覚悟しもう二度と開く事はないと閉じた瞳を開き、九死に一生どころの話ではない己が掴んだ奇跡にジークは息を呑んだ。
偶々飛んだ先の地面が落ち窪んでおり、その中に屈み込んだ彼は奇跡的に背中を軽く炙られるのみで生き延びたのである。
そしてジークはこの手に余る幸運から一刻も早く立ち直る為の手段として自らに語り掛けた。
お前は運が良かっただけだと。お前は事実上あの竜に敗北したのだと。お前が舐めていたこの世界に、お前は成す術もなくやられたのだと。
しかし、そう自分で自分を叱咤する彼の口元には堪えきれず溢れた笑みが滲む。
『良かったッ、ジーク君無事だったんだね! まさか穴に飛び込んで炎を回避する何て方法をあの一瞬で思い付くとは。君は天才なのかい?』
鼓膜まで焦がされてしまいそうな炎が過ぎ去った後、最初に聞こえて来たのはモチモチとした相棒の声。
モッチーナは今回も例の如く生き残ったジークの行動を力の限り賞賛してくれている。だが唯運が良かっただけだと理解している彼にとって、その言葉はむず痒さ以外の何も産みはしなかった。
「偶々飛んだ先がへこんでただけだよッ。そんな事よりモッチーナ、あのドラゴンは何だ? 明らかに他のモンスターとスペックが違う気がするんだが」
『あのモンスターは紅蓮竜ヴォルガーン、此処の山脈を縄張りにする最強の怪物。ヴォルガーンがこの周辺を完全に支配しているから竜の巣はどちらの陣営にも属さない中立地帯に成っているんだ! これまで戦って来たモンスター達とは攻撃力も体力も桁違いだから注意してッ』
「竜の巣だから当然ドラゴンが居るだろうって事か。っていうかそういう話は此処に足を踏み入れた時点でッ……」
モッチーナのもう手遅れどころの話しではない助言に、ジークは等々これまで胸に留めてきた言葉を吐き出しそうになる。
しかし、その喉元まで来ていた言葉は突如周囲が影に沈んだ事で光と共に遮られた。背筋に感じた寒気で理解する、それが次なる攻撃の予兆であると。
ッダア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ン!!
目障りな猿を殺し損ねたと気付いたヴォルガーンは王としてのプライドに掛け宙へと舞い上がり、猿が逃げ込んだと思しき地面の窪みへ急降下。落下と共に右前足より覗く炎色の鉤爪を振り下ろし大地に地割れが如き爪痕を刻み込む。
更にその鉤爪に纏わせた超高温がそこより伝播、融解蒸発し密度が急上昇した地面がさながら破裂する様にして大爆発を起こした。
「……………えげつ、ないな。あの大技の直後にこれはないだろッ」
紅蓮竜の攻撃が窪みを直撃するほんの寸前に穴から這い出し、半分爆風に背中押される様にして転がったジークは再び死の脇をすり抜ける。歯車の狂いが偶々噛み合い命を繋いでいる様な現状に全身が総毛立つのを感じた。
だがその議論の余地無き危機的状況にも関わらず、ジークの口端は更に吊り上がっていく。
「……モッチーナ、あいつの攻撃が通る部位は何処だ?」
『翼と真っ黒な外皮が覆っていない首の下から腹の下までの部分、それに口の中は何時でも刃が通るよ。あと普段は斬れない部分でもブレスを溜めてる時や放った直後は高温化して柔らかく成るから、そのタイミングなら何処でもダメージが入る筈!!』
「ハハッ、了解!」
爆煙未だ立ち込める中その奥より浮かぶ巨大な影、それを瞬き一つせず真っ向より睨みながらジークはモッチーナへと尋ねる。
そして返ってきたその回答に、彼はもう不足は無しと言わんばかりの潔さ纏う言葉を発した。
ジークは今只ならぬ興奮を体験していたのだ。
もう二度と触れる事は叶わないと思っていた物、たった今煙壁を大翼の羽ばたきにて一掃したその竜に嘗てヘルズクライシスで触れたのと全く同じ物を感じていた。
倒されるべき舞台装置としてではない。あくまでプレイヤーを挫きその道を阻むために作られた強敵との戦闘に全身が打ち震えるのである。
その二度も自らの大技を躱した侵入者を睨む琥珀色の瞳には、確かに王者としての誇りと意志が燃えていた。
「良いぜ、勝負だ紅蓮竜ヴォルガーンッ!!」
初めてこの世界のモンスターの名を呼び、敬意と共に剣を引き抜く。
そしてこの世界が容易く壊れてしまう子供騙しの玩具でない事を願いながら、ジークはその強敵へと最短距離をなぞったのである。
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【あとがき】フォローを頂けたので今日は一日2話更新です。フォローして下さった方、有難う御座います。
初め、ジークはその突如頭の上を横切った影に対し特別な反応は示さなかった。また新たな生物の皮を被った経験値が向こうからやってきた、その程度の関心しか寄せる事は無かったのである。
恐らくその原因は一般人と彼の間にあるギャップ。普通の人間がゲームに対し求めるのが爽快感や癒しであるのに対し、ジークが求めているのは居場所という酷く朧げな概念だったから。
だがそんな彼の目が、その羽音の主の偉容が降り立った瞬間見開かれる。
具体的に何がとは言えない。だが明らかこれまで戦ってきた有象無象と奴との間には乖離があったのだ。
存在力の様な物が他と比較して桁違い。複数の意味で、途轍もなく巨大にジークの瞳へは映ったのである。
確信するのに1秒も必要としなかった、コイツがこの世界の王なのだと。
ッオ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”オ”!!
目前へ降りて来たのは、黒曜石を思わせる外皮にマグマを思わせる紅蓮の亀裂が走る巨大なドラゴン。
まるで自然それ自体が意志を得た様な唯有るだけで陽炎立ち昇るエネルギー。至上の宝石を思わす琥珀色へ虹を散らした瞳。
それら二つの顕現した美に呼吸を奪われていた人間の鼓膜を突如大音量が劈く。
それは脳が生物の声と認識する事さえ拒む音。噴火の爆発音と地響きの重低音を重ねたかの如き、危機回避本能を鷲掴みにする咆哮であった。
コォォォォォ………
それで漸く今相対しているのが生物の外見をした経験値ではなく、自分ですら打倒され得る強敵だと認識したジーク。
だがその余に獰猛な美しさに見惚れた一瞬が、命取りと成った。
大きな音では無い、しかしまるで大河に呑まれたかの如く周囲の空気が一方向へ向け流れていくのを肌で感じる。そしてその向う先にあるのはガバリッと開かれ剣の如き無数の猛牙並ぶ竜の大口。
そして繊細に作り込まれた皮下の肋骨が浮き出て酸素の行く末を示し、それが熱へ変換されていくのをジークは目視した。深黒色だった外皮が熱により赤色に変貌し、紅の亀裂が広がっていく。エネルギーが奴の肺の中で幾何級数的に膨張していく。
直ぐに分かった。この美しき巨竜は、ドラゴンの代名詞とも呼べるあの攻撃を自分に放とうとしているのだと。
「…ッ!!」
ボウンッ、ゴオ″オ″オ″オ″オ″オ″オ″オ″オ″オ″!!!!
今動かなければ死ぬ。そう本能で理解したジークは衝動に突き動かされるがまま側方へ飛んだ。
しかし、その程度の抵抗では狙い定めた王を前に悪足掻き程の意味すら成せはしない。
ドラゴンの口が開くと同時に溢れ出たその業火は、ジークが持っていた炎とういう物に対するイメージから完全に逸脱していた。
それはさながら堤防決壊直後の濁流が如く扇状に急拡散し、進路に存在する全てを呑み焼き焦し炭へと変えていく。更に竜は首を振り回すことによりその炎で渦を巻き、周囲360度満遍なくへ何一つ原型を保つ事許さぬ超高温を届かせてくる。
ドラゴンを中心とした半径50メートル全てが、たった一瞬きの内に黒一色の焼け野原へと変貌したのであった。
「…………ッ何で、オレまだ生きてるんだ?」
死を覚悟しもう二度と開く事はないと閉じた瞳を開き、九死に一生どころの話ではない己が掴んだ奇跡にジークは息を呑んだ。
偶々飛んだ先の地面が落ち窪んでおり、その中に屈み込んだ彼は奇跡的に背中を軽く炙られるのみで生き延びたのである。
そしてジークはこの手に余る幸運から一刻も早く立ち直る為の手段として自らに語り掛けた。
お前は運が良かっただけだと。お前は事実上あの竜に敗北したのだと。お前が舐めていたこの世界に、お前は成す術もなくやられたのだと。
しかし、そう自分で自分を叱咤する彼の口元には堪えきれず溢れた笑みが滲む。
『良かったッ、ジーク君無事だったんだね! まさか穴に飛び込んで炎を回避する何て方法をあの一瞬で思い付くとは。君は天才なのかい?』
鼓膜まで焦がされてしまいそうな炎が過ぎ去った後、最初に聞こえて来たのはモチモチとした相棒の声。
モッチーナは今回も例の如く生き残ったジークの行動を力の限り賞賛してくれている。だが唯運が良かっただけだと理解している彼にとって、その言葉はむず痒さ以外の何も産みはしなかった。
「偶々飛んだ先がへこんでただけだよッ。そんな事よりモッチーナ、あのドラゴンは何だ? 明らかに他のモンスターとスペックが違う気がするんだが」
『あのモンスターは紅蓮竜ヴォルガーン、此処の山脈を縄張りにする最強の怪物。ヴォルガーンがこの周辺を完全に支配しているから竜の巣はどちらの陣営にも属さない中立地帯に成っているんだ! これまで戦って来たモンスター達とは攻撃力も体力も桁違いだから注意してッ』
「竜の巣だから当然ドラゴンが居るだろうって事か。っていうかそういう話は此処に足を踏み入れた時点でッ……」
モッチーナのもう手遅れどころの話しではない助言に、ジークは等々これまで胸に留めてきた言葉を吐き出しそうになる。
しかし、その喉元まで来ていた言葉は突如周囲が影に沈んだ事で光と共に遮られた。背筋に感じた寒気で理解する、それが次なる攻撃の予兆であると。
ッダア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ン!!
目障りな猿を殺し損ねたと気付いたヴォルガーンは王としてのプライドに掛け宙へと舞い上がり、猿が逃げ込んだと思しき地面の窪みへ急降下。落下と共に右前足より覗く炎色の鉤爪を振り下ろし大地に地割れが如き爪痕を刻み込む。
更にその鉤爪に纏わせた超高温がそこより伝播、融解蒸発し密度が急上昇した地面がさながら破裂する様にして大爆発を起こした。
「……………えげつ、ないな。あの大技の直後にこれはないだろッ」
紅蓮竜の攻撃が窪みを直撃するほんの寸前に穴から這い出し、半分爆風に背中押される様にして転がったジークは再び死の脇をすり抜ける。歯車の狂いが偶々噛み合い命を繋いでいる様な現状に全身が総毛立つのを感じた。
だがその議論の余地無き危機的状況にも関わらず、ジークの口端は更に吊り上がっていく。
「……モッチーナ、あいつの攻撃が通る部位は何処だ?」
『翼と真っ黒な外皮が覆っていない首の下から腹の下までの部分、それに口の中は何時でも刃が通るよ。あと普段は斬れない部分でもブレスを溜めてる時や放った直後は高温化して柔らかく成るから、そのタイミングなら何処でもダメージが入る筈!!』
「ハハッ、了解!」
爆煙未だ立ち込める中その奥より浮かぶ巨大な影、それを瞬き一つせず真っ向より睨みながらジークはモッチーナへと尋ねる。
そして返ってきたその回答に、彼はもう不足は無しと言わんばかりの潔さ纏う言葉を発した。
ジークは今只ならぬ興奮を体験していたのだ。
もう二度と触れる事は叶わないと思っていた物、たった今煙壁を大翼の羽ばたきにて一掃したその竜に嘗てヘルズクライシスで触れたのと全く同じ物を感じていた。
倒されるべき舞台装置としてではない。あくまでプレイヤーを挫きその道を阻むために作られた強敵との戦闘に全身が打ち震えるのである。
その二度も自らの大技を躱した侵入者を睨む琥珀色の瞳には、確かに王者としての誇りと意志が燃えていた。
「良いぜ、勝負だ紅蓮竜ヴォルガーンッ!!」
初めてこの世界のモンスターの名を呼び、敬意と共に剣を引き抜く。
そしてこの世界が容易く壊れてしまう子供騙しの玩具でない事を願いながら、ジークはその強敵へと最短距離をなぞったのである。
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【あとがき】フォローを頂けたので今日は一日2話更新です。フォローして下さった方、有難う御座います。
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