幽霊嬢も夢を見る

3+1

【2章】9.5話.夕陽に紛れた想い

〈不敵な紅光〉
〈敵にまわすな、味方になるな〉
〈黙っているうちは華〉
 …第三王子の「愛称」は色々あるが、要するに、探求心があって面白い事を見逃せないのがこの私だ。

 本日はとびきり興味をそそられるものに出会って気分がいい。
 門前で詰め寄られている令嬢がいて、まあ目に入ったからには助けてやろうかと近づいたら、なんと懐かしいマキナ姫のお気に入りの指輪をはめていた。

 縁を感じずにはいられなかった。
 私にとって姫は血の遠い叔母で——

 一番の親友だからな。

 そういう訳で令嬢を王宮に入れてみたが、観察するにつれて彼女自身にもますます興味が湧いた。
 何かある、と勘が働いたのだ。

 どうやらそれは当たっていたらしい。
 しかし思いもよらない角度で。

 興奮してしまってつい、帰る道順だけを教えて薔薇園に彼女を置いてきてしまった。
 紳士としてはあるまじき行為なのだが、早歩きで去っていくあいつを見失うわけにはいかない。

「レント」

 夕陽が差し込む長い廊下で、その名を呼ぶ。
 他に人気のないおかげで、少し離れていてもあいつの耳に届かせるには十分だった。

 レントは歩みを止める。私に追われていることには最初から気づいていただろう。
 それでも無理やり撒こうとはしなかった。
 …おそらく、逃げていると思われたくないから。

 そんな弟に、私はあえて意地悪を仕掛ける。
「どうして振り向かない? ああそうか——兄と目を合わせるのが恥ずかしくて、顔を赤らめて・・・・・・いるんだな?」
「あんたの笑顔を見ると、腹が立って殴ってしまいそうだからだ」

 返事はすぐにやってくる。
 いつも通り、淡々と、冷静だ。

 けれども私の目はごまかせない。

 お前の耳が染まっているのは——夕陽の色のせいでは、ないだろう?

「あの娘、私たちのことが知りたいそうだが、どう思う?」
「王子と懇意にしたい令嬢は山ほどいる。その中の一人というだけだ」
「しかしマキナ姫の名を持ち出したのは彼女一人だ。どうしてだか気にならないか? 私は気になる。ちなみにお前と彼女の関係も大いに興味があるぞ。冷気の美君に近づける女は希少だからな」
「あんたに話すことは何もない。…あの娘にどんな魂胆があってもマキナ姫とは違う。面識すらない年齢だろう、似てもいない」

 やや熱のこもった早口でレントは言った。
 珍しい様子に、口角が上がるのを自覚する。

「そうだな、似てないな——一致しているのは、指輪の位置くらいだ」

 仕掛けるのはこれくらいにして、私は来た道を戻ることにする。
 あまり攻めすぎてあいつを怒らせてしまったら興ざめだ。
 気持ちを引き出させる程度に刺激して…、葛藤させるのが丁度良い。

 直接口にしたことはないが、ずっと昔から気づいていた。

 お互いにとってマキナ姫が大切な人であること——

 だけど私とレントでは、その意味が違うこと。

「…いつまで囚われているんだ? お前は」

 会話ができないであろう所まで離れて、背後を伺ってみる。

 冷気の美君は、額に手をあて考え込むように立っていた。

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