今日も期間限定彼氏に脱がされています

ぴよももし

最終話 つまりこれからは無期限

その夜を堺に私たちはほぼ毎日交わり、毎晩の様に私は古賀に毎日様々な下着を脱がされて深く愛し合った。好きが止まらない私たちは、今まで何年も通じ合っていなかった想いを、その年数分を取り戻すかのように時に激しく、時に甘く求め合い続けた。

「沖村」

古賀が私の名前を呼ぶ。思いを通じ合わせるまでは当たり前のように呼ばれ、無機質に感じていたが、今では呼ばれる度に愛おしい。
こうして古賀と愛を育む日々は足早に過ぎていく。私は古賀と体を重ねる度に恋人たちとランジェリーの関係について、より理解が深まっていくように感じた。愛する者同士のセックスの前には、下着を脱ぐという行為が必ずある。その下着に対して『明日あの人と結ばれるかも』『この後あの人と結ばれるかも』『彼は私の下着をどう思うかな』『どの下着を身につけていこう』――『彼女はどんな下着を身につけているのだろう』『上手く彼女の下着を脱がすことができるだろうか』『自分だけが知る下着姿の彼女はどんな表情をするんだろう』と、恋人たちは様々な想いを寄せる、それが大人用の下着なのだ。ジュニアのデザインしか出来なかった私はまだこの意味に気づいていなかったが、今の私なら自分がデザインしているものは、愛し合う男女たちの愛の架け橋その物なのだと、胸を張って言える。

その後のセックス古賀との関係性のお陰か試作品も良い方向にどんどん改善され、社内での評判も上々で共に取り組んでいる新プロジェクトは順調に進んでいった。
新プロジェクトは目まぐるしい速度で発売に向けて各所が展開していき、遂に『恋人たちの夜』がコンセプトの新商品、シースルランジェリーの発売日となった。発売日、テレビCMでは、優しく甘い雰囲気の淑やかなCMが流れ、大手デパート内の売り場には特設コーナーが設けられてポスターが大々的に貼られていた。私は会社を抜けて午後視察にでかけ、ひとりで緊張気味に売り場をそっと除いていると、ポンっと後ろから肩を叩かれた。振り向くと古賀が微笑んでいる。

「こ、古賀!?」
「下着売り場の物陰に隠れてなにやってんだよ、怪しいぞお前」
「え……あぁ、なんだか緊張しちゃって」
「ま、わからんでもないけど、あ……」

 古賀は何かに気づいたように、ハッとした表情をした。視線の先には女性客が二人いた。二人はにこやかに話している。

「これCMで見た下着だ~」
「ほんとだ新作」
「うっわ、スケスケ!」
「でもかわいくない?これ」
「うん、リボンとかレースとかすっごいガーリー!好きかも~」
「ちょいエロでカワイイところ、彼氏喜びそ」
「ね!買ってこ~」
「私もー!」

 女性客たちは楽しそうに新作を手にしてレジへ向かっていった。

「売れた……!」

 私は嬉しさがこみ上げて思わず声を上げて古賀に両手で小さくいガッツポーズを見せた。古賀も笑顔を見せる。

「また来客だ」
「ほんとだ、わぁ、あの人たちも買ってくれるみたい!すごいよ古賀」
「あぁ。ま、俺の目に狂いはなかったな」
「ん?」
「お前はやっぱり優れたデザイナーだ。今回のプロジェクトで成果を出してくれるって信じてるって言っただろ、前に」
「あ、うん。でも、そんなまだまだだよ」
「今後も修行あるのみだな。よし、このプロジェクトの立ち上げも一旦ここで終わりか」

古賀は深くため息をついた。

「これで期間限定の彼氏も終わりか。見事にお前をその気にさせることに成功して、良いデザインスキルを引き出せたしな」
「え?」

ちょっと待って。期間限定ってまだ続いてたの……!?古賀を見ると、意地悪そうにニヤリと古賀が笑っている。もしかしてここまでずっと利用されてた!?うそでしょ?ちょっと!?

「こ、古賀……!?何言ってるの?」

私は急に背中に冷水を浴びせられたような気持ちになった。

「何って言った通りだろ」
「うそ……私たちここまでなんだ……」

目の前が真っ暗に鳴る気がした。このプロジェクトの成功と引き換えに、愛しいと感じていた大好きな古賀が一瞬にして消えてしまうんだ。私は俯いてひどく落胆した。その途端私は、クイっと顎を上向きにされる。目の前には古賀の顔。古賀は再びニヤリと笑って私に言った。

「期間限定の彼氏が終わりってこと。つまりこれからは無期限ってことだよ」

私はまたもや古賀の言葉足らずな表現で勘違いさせられたことにムッと来て、思わず古賀の胸を涙目になりながら思わず叩いた。

「もーーーー!またそうやって言葉が足りないんだからっ」
「おっと何だよ、そんなに怒るなよ、俺何か変なこと言ったか!?」

古賀は驚いた顔で困惑して私を見つめる。古賀の焦っている様子を見ていたら、こういうの古賀らしいなと思い、私は泣きながらくすっと笑ってしまった。

「もうこれからは伝え方気をつけてよねっ、ふふっ」
「あ、あぁ、わかった」

言葉をつまらせながらも安堵した様子の古賀は何かを考えて、少し頷いてから口を開いた。

「えっと、そうだな……伝え方、か。沖村、これからもよろしくな」
古賀は優しく私に微笑んだ。

「うん、こちらこそ!」

古賀の笑顔を見て私も、ふふっと穏やかな気持ちで微笑み返した。

「また何か一緒に作れたら良いな、次は子供とか……」

そう言って、古賀は私の手を優しく握った。

「えぇっ!?こ、子作りぃ???」

嘘でしょ、もうそんな展開!?私は顔面が一気に真っ赤になった。一方の古賀は、怪訝な顔をして私を見つめる。

「は?そうじゃなくてだな、ジュニアの方をだな……」
「あぁ……そういうことね、あはは……」

私は恥ずかしくなって古賀の手をぎゅっと握り返した。
これからもこうして古賀の伝え方に翻弄されながらも、私はずっと隣で微笑んでいるのだろう。そんな想いを胸にトクンと響かせながら――。

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