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今日も期間限定彼氏に脱がされています

ぴよももし

第18話 私、恨んでますからね

「沖村さんっ!!どうしたんですか?古賀さんに今、何かされました!?」

 鬼の形相の荒牧さんが仁王立ちで私たちを睨む。

「何かされたとか、人聞きの悪いこと言うなよ」

 古賀は呆れた表情でため息をつき荒牧さんを見た。

「古賀さん、人との接し方に問題があるんですよ!」
「は?」

 古賀はキョトンとして荒牧さんの剣幕を見つめている。

「私に新人の時にしたこと、覚えてます?」
「俺、何かしたっけ……」

 荒牧さんは古賀の返事を聞いた途端、顔が更に険しい表情になる。

「何って、自分本位だからそうやって他の人のこと全く気付かないんですよ!」

 古賀は荒牧さんにズバっと指を刺されて言葉が出ない様子。

「……」
「私が仕事に不慣れでよくわからない時、何聞いても古賀さんに無愛想にされてどれだけ心が折れそうになったことか……」

 そう言って、悲しそうに荒牧さんは大きなため息を付いた。

「もう仕事辛いな嫌だなっていう気分になった、そんなボロボロの時……」

 荒牧さんは突然目を輝かせて私を見つめだした。

「沖村さんが私に話しかけてくれたんです!」
「え?」

 荒牧さんにはとても申し訳ないことに私は全く覚えていなかった。荒牧さんはポカンとしている私には気付かずにうっとりと当時を思い出している様子で話を続けた。

「あの時の沖村さん、とってもやさしくて……私には女神様に感じましたよ~~~。もともと憧れのデザインを作る先輩だったので、励まして頂いて本当に嬉しかったです!あの時は本当にありがとうございました!」

 荒牧さんは深々と私にお辞儀をしてくれた。しかし私はやっぱり思い出せず申し訳ない気持ちでいっぱいではあったが当たり障りのない返事を返すことにした。

「う、うん」

 荒牧さんは笑顔で私に話しかけてくれたのでホッとしたのもつかの間、荒牧さんは急に古賀の方を向くと、また険悪な表情になって古賀を責め立て始めた。

「そんな私の女神的存在である、尊敬する沖村さんをですね、古賀さんはズバっと強引に別部署に引き抜いていったんですよ、私、恨んでますからね古賀さん!」
「う、恨んでる……か」

 さすがの古賀も、荒牧さんの様子に狼狽えているようだ。私は荒牧さんに今の自分の状況を伝えて一部誤解を解いておいたほうが良いと考えて、荒牧さんの会話に割って入ることにした。

「あのね、荒牧さん。実は今は部署を異動して良かったなって思ってるの」
「え、何でですか!?」

 荒牧さんは驚いて目を見開いて私を見つめた。

「今日、試作品が上がってきたの。古賀良かったら少し荒牧さんにも見せてあげたいんだけどいい?」
「ああ、いいけど」

 私は古賀から試作品が入っているダンボールを受け取ると、そっと試作品を手に取って荒牧さんに見せた。

「荒牧さん、感想聞かせてもらえると嬉しいな」

 荒牧さんは目をまんまるにして試作品を食い入るように眺めてつぶやいた。

「きれい……」
「ふふ、ありがと」
「なんて繊細なレース使い……この肩紐のデザインも素敵すぎる……」

 そう言って攻撃的だった荒牧さんの表情は一転して柔らかくなった。試作品を嬉しそうに見続ける荒牧さんは更に言葉を続けた。

「沖村さん、やっぱりすごいです!ジュニアだけじゃなくて、こういうデザインも行けるなん!上品で可愛らしくてそこはかとなくエロい……すごい!」

 荒牧さんは今まで見た中で一番可愛らしい表情を私に向け、笑った。

「それね、私の力だけじゃ生まれてこなかったデザインなの」
「どいうことです?」
「私、部署異動してこのプロジェクトに係わることになった当時、ジュニア以外のデザインに対して苦手意識が強くて、自分に出来っこないって思ってたのね。でも――」

 私はまっすぐ古賀を見つめて言葉を続けた。

「古賀がね、私が自分でも気付かなかったデザインの可能性を引き出してくれたの」
「う、うそ、そんな……」

 荒牧さんは信じられないという雰囲気で口を抑え、言葉を飲んだ。私は荒牧さんに私の異動は実はとても良い結果だったのだということわかって欲しくて古賀に微笑んだ。

「古賀、私をこのプロジェクトに呼んでくれてありがとう」
「お、おう……」

 古賀は私が荒牧さんに返した言葉が以外だったのか、少し驚いている様子で返事をした。私は驚いて言葉が出ない様子の荒牧さんを覗き込んで優しく微笑んだ。

「だからね、荒牧さん。古賀のことそんなに責めないであげてほしいな」
「……」
「もしかしたらいつか古賀が、荒牧さんの新しいデザインの可能性を引き出してくれる時が来るかもよ?」
「え、それは……せっかくだけど遠慮しときます……」

 荒牧さんはバツが悪くなった様子でもじもじと俯きながら答えた。

「ったくお前、俺のことなんだと思ってんだよ」

 古賀はそう言って深くため息を付いて少し笑った。

「い、今、私のこと笑いましたっ!?」
「あ!?」
「まぁまぁ、ふふっ」

 荒牧さんは赤面しながらキっとなって古賀を睨み、古賀は急に睨まれて焦り、私は荒牧さんの攻撃的な態度が前とは違うものになっていることに気づいて、笑いながら仲裁した。すると遠くから荒牧さんを呼ぶ声がする。

「荒牧さーーーーん、メッセージで呼び出しかかってるよー」

 荒牧さんはハッと気づいたようにスマホを確認する。

「え……ほんとだもう行かなくちゃ。えっと沖村さん、素晴らしい試作品見せていただいてありがとうございました!」

 慌ててお辞儀して反対方向へ向かって走り出そうとしていたが、再び振ってニヤリといたずらに少しだけ笑っている様な顔になった。

「古賀さん、沖村さん大事に扱ってくださいよ!変なことしたら許しませんからね!じゃ!」

 そしてこんな鋭い一言残して去っていった。古賀と私はふぅっとため息をつく。

「あいつ、いつでも急な台風みたいなヤツだよな」
「でも、やる気に満ち溢れてるっていいことだよね」
「まぁな」

 そう言って私たちは向かい合って少し微笑みあった。

「そうだ、古賀あの……」
「ん?」
「今日の試作品、皆さんから改良する箇所の案、出てたじゃない?」
「ああ、少しあったな」
「開いてる時間あったら、一緒に考えてほしいんだけど……いいかな?」
「いいけど、この後17時以降でもいいか?」
「あ、うん。古賀が良ければ私はいつでも」
「じゃあ、17時半くらいに資料室で」
「うん、よろしくね」

  17時半、きっとこれが命運を分けることになる。私はこの時、あることを決心していのだった。

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