今日も期間限定彼氏に脱がされています
第16話 戸惑いはときめきに
「沖村さん、おつかれ」
企画のプロジェクトリーダーである狩野さんは、すれ違いざまに私ににこやかな笑顔を向けた。
「今日14時からの打ち合わせ、楽しみね」
「はい!でもどんな出来になってるか……ちょっと緊張してます」
今日は私がデザインしたシースルーランジェリーの試作品が出来上がってくる日。14時からの定例会議で実物を見て検討することになっている。いつもの定例メンバーではなく、マーケティング部の社員も加わって少し大きめな会議となりそうだった。
「ふふっ、今から緊張してるの?大丈夫よ、きっと良いものが出来上がってきてるわ、そんな気がする」
そう言って、狩野さんは不安げな様子の私の肩を優しく叩き元気づけてくれた。一生懸命作ったシースルーランジェリーのデザイン……色んな意味で私の血と汗と涙の結晶かな、なんていうことを考えていると、古賀とのやり取りが思い出された。初めは私のことなど全く考えていない様子で、仕事のために自分本位に私を振り回している様に感じた、強引な印象の古賀。しかしこの前、閉じ込められた部屋での古賀との会話で、私のことを仕事の目的のために乱雑に扱っていたわけではないということがわかって、今日の定例では古賀に会えることすら楽しみなくらいに、私の戸惑いはときめきに変わり始めていた。
定例会議の時間になり、古賀と顔を合わせることになった。古賀は私と目が合うとぶっきらぼうに挨拶をしてきた。
「おつかれ」
「お、おつかれさま……」
私はなんとなくドキドキしてしまい、照れたように挨拶を返してしまったが、古賀はいつもと変わらずな表情で、ダンボールを抱えてその中を私に見せるようにして小さな声で耳打ちした。
「これ、いい感じだぞ」
古賀は私の驚いた顔をチラっと見ると、会議室の机の上にそっとダンボールを置いて、会議に参加している人たちに呼びかけた。
「おつかれさまです。試作品が出来上がりましたので皆さん、お手にとってご確認ください」
古賀はそう言って、出来上がった数種類のシースルランジェリーの試作品を机の上に並べた。デザインをし始めた頃は『恋人たちの夜』をテーマ性に思考が追いついていかず、私には到底手に負えないと感じていたが、机の上に並んだ試作品のランジェリーたちは自分がデザインした物とは思えないほどに、美しく繊細で、可憐にお行儀よく輝いていた。
「かわいい~!」
今村さんが試作品を手にとり、私に向かって目を輝かせた。
「沖村さん、さすが~!このレースのところとか、刺繍もいい感じにアクセントになってますよ」
「ね、だから言ったでしょ?良いものが出来上がってきてるって」
狩野さんもとても満足そうに試作品をまじまじと眺めている。
「ありがとう……ございます」
私は会議に参加している人たちから絶賛されて嬉しくて心が踊っていた。あぁ、この仕事を引き受けて良かった――と安堵したその時、耳を疑うような言葉が飛び込んできた。
「まぁ、実用的ですよねこれ。すぐ脱がせやすいっていうか、めっちゃ研究しつくされてますよ。沖村さん、もしかして体で実践しながらデザイン追求したんですかね?」
マーケティング部の男性社員がニヤけた顔で私に話しかけてきた。
「にしても、よく似合いそうですねぇ、沖村さんに」
更にその男性社員はねっとりとした視線を私に浴びせかけてきて、舐め回すように私の全身を下から上に眺めた。私は意図せず脳裏に古賀と体を重ねている情景が蘇ってしまい、赤面して返す言葉が浮かばなくなる。
「ちょっと……言い過ぎ――」
狩野さんがマーケティング部の男性社員を静止しようとした時、古賀が動いた。
「そういう低俗な思考でこのプロジェクトに参加しないでもらっていいですか」
古賀は私の前に立ちはだかって、男性社員を鋭い目つきで射るように睨みつける。
「低俗ってお前、こんなヒラヒラでスケスケな下着なんて、男性の性欲掻き立ててナンボだろ」
睨みつけられた男性社員は古賀に言い返すが、古賀は低い声で男性に対して語気を強める。
「申し訳ないですが、あなたのスケベな脳で考えてる下着と、この下着の目的は全く違うんで。事前に資料確認されてますか?コンセプト言えます?」
「コ、コンセプトぉ?よく覚えてないよ、まだ……」
古賀に責められて男性社員はたじろぎ、弱々しく言葉を濁す。そして気まずそうに横目で私を見ると申し訳無さそうに頭を下げてきた。
「ご、ごめんな沖村さん。悪気はなかったんだ……」
場の雰囲気を変えようと、今村さんが明るく切り返す。
「も~、いやだ~。さっきみたいなのセ・ク・ハ・ラっていうんですよ~!気をつけてくださいねっ」
今村さんが場を盛り上げてくれたお陰で静まり返った会議室は笑いに包まれ、その後の会議は順調に進行した。私は、いつもは冷静な古賀があんなに語気を強めて男性社員に言い返したことが意外で、古賀のこのプロジェクトにかける熱い想いがそうさせているのだろうと胸を熱くしたのだった。
企画のプロジェクトリーダーである狩野さんは、すれ違いざまに私ににこやかな笑顔を向けた。
「今日14時からの打ち合わせ、楽しみね」
「はい!でもどんな出来になってるか……ちょっと緊張してます」
今日は私がデザインしたシースルーランジェリーの試作品が出来上がってくる日。14時からの定例会議で実物を見て検討することになっている。いつもの定例メンバーではなく、マーケティング部の社員も加わって少し大きめな会議となりそうだった。
「ふふっ、今から緊張してるの?大丈夫よ、きっと良いものが出来上がってきてるわ、そんな気がする」
そう言って、狩野さんは不安げな様子の私の肩を優しく叩き元気づけてくれた。一生懸命作ったシースルーランジェリーのデザイン……色んな意味で私の血と汗と涙の結晶かな、なんていうことを考えていると、古賀とのやり取りが思い出された。初めは私のことなど全く考えていない様子で、仕事のために自分本位に私を振り回している様に感じた、強引な印象の古賀。しかしこの前、閉じ込められた部屋での古賀との会話で、私のことを仕事の目的のために乱雑に扱っていたわけではないということがわかって、今日の定例では古賀に会えることすら楽しみなくらいに、私の戸惑いはときめきに変わり始めていた。
定例会議の時間になり、古賀と顔を合わせることになった。古賀は私と目が合うとぶっきらぼうに挨拶をしてきた。
「おつかれ」
「お、おつかれさま……」
私はなんとなくドキドキしてしまい、照れたように挨拶を返してしまったが、古賀はいつもと変わらずな表情で、ダンボールを抱えてその中を私に見せるようにして小さな声で耳打ちした。
「これ、いい感じだぞ」
古賀は私の驚いた顔をチラっと見ると、会議室の机の上にそっとダンボールを置いて、会議に参加している人たちに呼びかけた。
「おつかれさまです。試作品が出来上がりましたので皆さん、お手にとってご確認ください」
古賀はそう言って、出来上がった数種類のシースルランジェリーの試作品を机の上に並べた。デザインをし始めた頃は『恋人たちの夜』をテーマ性に思考が追いついていかず、私には到底手に負えないと感じていたが、机の上に並んだ試作品のランジェリーたちは自分がデザインした物とは思えないほどに、美しく繊細で、可憐にお行儀よく輝いていた。
「かわいい~!」
今村さんが試作品を手にとり、私に向かって目を輝かせた。
「沖村さん、さすが~!このレースのところとか、刺繍もいい感じにアクセントになってますよ」
「ね、だから言ったでしょ?良いものが出来上がってきてるって」
狩野さんもとても満足そうに試作品をまじまじと眺めている。
「ありがとう……ございます」
私は会議に参加している人たちから絶賛されて嬉しくて心が踊っていた。あぁ、この仕事を引き受けて良かった――と安堵したその時、耳を疑うような言葉が飛び込んできた。
「まぁ、実用的ですよねこれ。すぐ脱がせやすいっていうか、めっちゃ研究しつくされてますよ。沖村さん、もしかして体で実践しながらデザイン追求したんですかね?」
マーケティング部の男性社員がニヤけた顔で私に話しかけてきた。
「にしても、よく似合いそうですねぇ、沖村さんに」
更にその男性社員はねっとりとした視線を私に浴びせかけてきて、舐め回すように私の全身を下から上に眺めた。私は意図せず脳裏に古賀と体を重ねている情景が蘇ってしまい、赤面して返す言葉が浮かばなくなる。
「ちょっと……言い過ぎ――」
狩野さんがマーケティング部の男性社員を静止しようとした時、古賀が動いた。
「そういう低俗な思考でこのプロジェクトに参加しないでもらっていいですか」
古賀は私の前に立ちはだかって、男性社員を鋭い目つきで射るように睨みつける。
「低俗ってお前、こんなヒラヒラでスケスケな下着なんて、男性の性欲掻き立ててナンボだろ」
睨みつけられた男性社員は古賀に言い返すが、古賀は低い声で男性に対して語気を強める。
「申し訳ないですが、あなたのスケベな脳で考えてる下着と、この下着の目的は全く違うんで。事前に資料確認されてますか?コンセプト言えます?」
「コ、コンセプトぉ?よく覚えてないよ、まだ……」
古賀に責められて男性社員はたじろぎ、弱々しく言葉を濁す。そして気まずそうに横目で私を見ると申し訳無さそうに頭を下げてきた。
「ご、ごめんな沖村さん。悪気はなかったんだ……」
場の雰囲気を変えようと、今村さんが明るく切り返す。
「も~、いやだ~。さっきみたいなのセ・ク・ハ・ラっていうんですよ~!気をつけてくださいねっ」
今村さんが場を盛り上げてくれたお陰で静まり返った会議室は笑いに包まれ、その後の会議は順調に進行した。私は、いつもは冷静な古賀があんなに語気を強めて男性社員に言い返したことが意外で、古賀のこのプロジェクトにかける熱い想いがそうさせているのだろうと胸を熱くしたのだった。
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