白雪姫の継母に転生してしまいましたが、これって悪役令嬢ものですか?
第24話 ふたつの林檎
「ねえ先生、絵本を読んで」
小さな女の子が私のひざにすり寄った。
「いいよ。みんなで読もっか。なんのお話がいい?」
「白雪姫! 白雪姫がいい人ー!」
ハーイといくつもの手が挙がった。
小さくてかわいい、元気な手たち。
「じゃあ読むね。先生も白雪姫が大好き」
期待のまなざしを受け、私は正方形に近い形のツヤツヤした本を手にする。
ところどころ表紙のコーティングがはげている。
それでもこれは、みんなと私の大切な絵本だ――。
*
不思議な夢を見ていた。まるで本当にあったことみたいな……。
もしかしたらあれは過去の記憶なのかもしれない。
ここではない、違う世界の記憶……。
胸がそわそわして落ち着かない。
眠れずにベッドを離れた私は、ひとり深夜のバルコニーに出た。
すると中庭に立つ、背の高い影が目に留まる。
すらりとしていて、肩幅もあるあのシルエットはフリオ王だ。
私の気配に気づいたのか、彼がこっちを振り向いた。
「……ソシエか」
「陛下……」
彼はまぶしそうに目を細めた。
「眠れないのか?」
「たまたま目が覚めてしまって……」
「それだったら、君のベッドへ忍んでいけばよかったな」
「え……」
どう答えていいのかわからなくて、私は曖昧に微笑んでみせた。
来てくださればよかったのに、くらい言うべきなのか。夫婦なんだし。
でもプラトニックな関係が長くて、どう踏み込んでいいのかわからなかった。
きっと彼も同じ気持ちなんだろう。
なんとなく、そんなふうに感じる……。
「あの、陛下……」
「私のことはフリオと呼んでくれないか?」
月を見上げながら彼は言った。
「はい、フリオ……。でもどうして突然……?」
「君ともう少し近づきたい。スノーホワイトに、君を取られてしまいそうで怖いんだ」
またこっちを向いた彼は笑っていた。
その顔を見るに、おそらく今言ったことは本気じゃなかった。
息子に妻を取られるなんて……。そんなことをさせない自信が彼にはある。
  そこもフリオ王の魅力だった。
悔しいけれど、私は彼に恋している。
今の関係がもどかしかった。
今すぐ彼の胸に飛び込んでしまいたい、そんな衝動に駆られる。
  でも私の前にはバルコニーの手すりがあり、見下ろす庭までは遠かった。
そして私と幸せとの間にある障害物は、バルコニーの手すりと距離だけじゃない。
私自身が魔女だということと、記憶がないこと。このふたつが大きかった。
私はこの世界にいていいのか。ここは私の居場所なのか。
未だに自信が持てない。
あの記憶の謎が解けない限り、私はここで、心から安らぐことはできない気がした。
*
その夜、ミラーは宮殿に戻らなかった。
そしてもうひとつ、不穏なできごとが起きていた。
翌日の昼過ぎになって、王妃の間の周辺が、何やら騒がしいことに私は気づく。
「ねえ、どうかしたの?」
王妃の間から廊下へ顔を出してみると、こちらのメイドと王太子付きの従者が話していた。王太子付きの従者がここまでくるなんて、普段にないことだった。
「妃殿下、お騒がせして申し訳ございません」
胸に手を当てかしこまってみせながらも、従者は青い顔をしている。
何かあったんだ。きっと、あまりよくないことが……。
「もしかして、スノーホワイトに何かあったの?」
そんなふうに切り込むと、彼は重い口を開いた。
「実は殿下が、夜中にいなくなってしまわれたのです」
スノーホワイトが周囲の者たちの目を盗んで出かけるのはよくあることで、はじめは皆、いつものことだと高をくくっていたらしい。
しかし朝食の時間になっても昼が近づいてもスノーホワイトは現れず……。
今お付きの者たちが、王宮内を探し回っているということだった。
「まさか、宮殿の外へ出られたのでは……」
王妃の間を担当するメイドが、不安げにつぶやく。
「しかし、衛兵たちは殿下を見ていないと言っています」
従者は反論した。
普段から目立つ格好をしたスノーホワイトだ。そんな彼が外へ出ていくのを、衛兵たちが見逃すとは思えない。
あるとすれば彼が自らの意思で変装して出ていったか、さもなければ連れ去られたかだ。
でもスノーホワイトが勝手に出ていくなんて、私には考えられなかった。
だってスノーホワイトは、私を守るためにこの宮殿へ戻ると言っていた。
あれから何日もたっていない。
それなのに私に何も告げずに出ていくなんて……。いくら気まぐれなスノーホワイトでも、さすがにおかしいと思った。
「誰かに連れ去られたっていう可能性も見て動いた方がいいのでは……」
私が悩みながらそう話すと、王子の従者はさらに顔を青ざめた。
「申し訳ございません、我々の責任です……」
「責任の話はあとでもいいと思います。それより手分けして探しましょう」
すぐ王に判断を仰ぐことになり、その結果、各所で情報収集が始まった。
ところが夜になってもスノーホワイトは見つからず、不思議なことに彼を見たという話さえ出てこなかった。
まるで彼が忽然と消えてしまったかのように――。
*
(どうして……? スノーホワイト……)
スノーホワイトのいない宮殿で、私は彼と出会ったバラの花壇のある庭へ足を向けていた。
ひっそりと静まりかえった夜の庭園を見渡す。
こんなところはとっくに誰かが探したはずだ。でもなぜか気になって来てしまった。
虫の知らせというものかもしれない。
暗い中、私は背の高い庭木の間を行き来した。
けれどバラの花壇の陰にもトピアリーの向こうにも、スノーホワイトの姿は見つからなかった。
ため息をつき、きびすを返そうとする。
そんな時、庭木の向こうに人影を見た気がして、私は反射的に振り返った。
「スノーホワイト……!?」
とっさに名前を呼んでから、それが彼でないことに気がつく。
「ミラー、あなたなの?」
「ええ。スノーホワイトでなくて残念でしたね」
金色の髪が夜風に揺れてきらめいた。
彼はゆっくりと私に近づいてくる。
ミラーと会ったのは、あのこびとの家での一件以来だった。
「ミラー、今までどこへ行ってたの? 今、スノーホワイトが行方不明なの」
「そのようですね。これだけ宮殿内が騒がしければ、僕の耳にも入ってきます」
「心当たりはない?」
「心当たりですか……」
彼は私の目の前まで来ると、意味深に唇を歪ませる。
「それを僕に聞くということは、お嬢さまも察しがついているんでしょう?」
ぞくっとした。
「もしかして……。ミラーがスノーホワイトをさらったの?」
私はまさかという思いで問いかける。
彼は意味深な微笑みを浮かべたまま、何も答えなかった。
沈黙は肯定だ。
「そんな……。でもどうやって?」
こびとの家であんなことがあったんだ。さすがにミラーが近づけば、スノーホワイトだって警戒するはず。
それを考えると、騒がれずに連れ去るのは難しい気がした。
ミラーが教える。
「僕は入れ知恵しただけ。実際に連れ去ったのはこびとたちです」
「こびとさんたちが……?」
にわかには信じられなかった。
けれど小さなこびとなら、例えば荷物に紛れて宮殿内に侵入できるはずだし、スノーホワイトをおびき寄せ、同じ方法で連れ去ることだってできるはずだ。
そして彼らのスノーホワイトへの熱狂ぶりを思い出すと、あの様子ならやりかねないという気もした。
「でも……。ミラーはなんのためにこびとさんたちをそそのかしたの?」
返答次第では私は、ミラーの敵に回らなきゃいけない。そんな現実を前にのどが強ばる。
ミラーは笑って肩をすくめた。
「スノーホワイトは森でこびとたちと幸せに暮らす、それでいいでしょう」
「え……?」
絵本の物語との一致に驚き、私は一瞬混乱した。
でもそれでメデタシメデタシとはいかない。
騙して連れ去ったならそれはスノーホワイトの意思じゃないわけで、知ってしまった私も悪事を見逃せない。
「ミラー、スノーホワイトを返して」
「返してどうするんです?」
その問いには答えずに、私はミラーに詰め寄った。
「ミラーは居場所を知っているんでしょう?」
「ええ。もちろん知っていますとも」
彼の宝石のような瞳に私が映り込む。まるで魅入られてしまったような錯覚に襲われた。
「では教えてあげましょう。僕の大切な、ソシエお嬢さまからの頼みですからね」
耳元に彼の吐息がぶつかった。
「ただし条件付きです」
「条件?」
ミラーがローブの袖口から、林檎をふたつ取り出した。
夜の闇の中、林檎は黒々と輝く。
「右は普通の林檎です。左には毒が仕込んであります」
「毒……!?」
彼はふたつの林檎を私の両手に握らせた。
「ソシエお嬢さまは林檎売りのフリをして、この前こびとの家に行ったそうですね」
それで林檎なのか。
林檎には魔法をかけた痕なのか、ぼんやりと不思議な文様が刻まれている。
「今回のスノーホワイトの居場所はあの家ではありませんが……。行ったらどちらかひとつを、彼に食べさせてください。それを条件に居場所を教えます」
「どうしてそんなこと……」
ミラーの意図がわからなかった。
「普通の林檎を食べさせてもいいの?」
「ええ。それでも彼は死ぬかもしれませんね。僕があなたに嘘を教えているかもしれない」
その言葉でようやくわかった。ミラーは是が非でも私にスノーホワイトを殺させるつもりなんだ。
「ふたつとも毒入りなんじゃ……」
私はふたつの林檎を見比べる。
林檎の向こうでミラーが首を横に振った。
「それはありません。なんなら残った方は僕が食べますよ」
「残った方が毒入りでも?」
「ええ。あなたが賭けに出るなら、僕もそのくらいのリスクは負います」
これは私とミラーとの勝負らしかった。
私はスノーホワイトを取り返し、ミラーを死に追いやるのか。
それともスノーホワイトを殺してしまい、これからの人生をミラーの共犯者として生きるのか。
この賭けに乗るなら、ふたつにひとつだ――。
小さな女の子が私のひざにすり寄った。
「いいよ。みんなで読もっか。なんのお話がいい?」
「白雪姫! 白雪姫がいい人ー!」
ハーイといくつもの手が挙がった。
小さくてかわいい、元気な手たち。
「じゃあ読むね。先生も白雪姫が大好き」
期待のまなざしを受け、私は正方形に近い形のツヤツヤした本を手にする。
ところどころ表紙のコーティングがはげている。
それでもこれは、みんなと私の大切な絵本だ――。
*
不思議な夢を見ていた。まるで本当にあったことみたいな……。
もしかしたらあれは過去の記憶なのかもしれない。
ここではない、違う世界の記憶……。
胸がそわそわして落ち着かない。
眠れずにベッドを離れた私は、ひとり深夜のバルコニーに出た。
すると中庭に立つ、背の高い影が目に留まる。
すらりとしていて、肩幅もあるあのシルエットはフリオ王だ。
私の気配に気づいたのか、彼がこっちを振り向いた。
「……ソシエか」
「陛下……」
彼はまぶしそうに目を細めた。
「眠れないのか?」
「たまたま目が覚めてしまって……」
「それだったら、君のベッドへ忍んでいけばよかったな」
「え……」
どう答えていいのかわからなくて、私は曖昧に微笑んでみせた。
来てくださればよかったのに、くらい言うべきなのか。夫婦なんだし。
でもプラトニックな関係が長くて、どう踏み込んでいいのかわからなかった。
きっと彼も同じ気持ちなんだろう。
なんとなく、そんなふうに感じる……。
「あの、陛下……」
「私のことはフリオと呼んでくれないか?」
月を見上げながら彼は言った。
「はい、フリオ……。でもどうして突然……?」
「君ともう少し近づきたい。スノーホワイトに、君を取られてしまいそうで怖いんだ」
またこっちを向いた彼は笑っていた。
その顔を見るに、おそらく今言ったことは本気じゃなかった。
息子に妻を取られるなんて……。そんなことをさせない自信が彼にはある。
  そこもフリオ王の魅力だった。
悔しいけれど、私は彼に恋している。
今の関係がもどかしかった。
今すぐ彼の胸に飛び込んでしまいたい、そんな衝動に駆られる。
  でも私の前にはバルコニーの手すりがあり、見下ろす庭までは遠かった。
そして私と幸せとの間にある障害物は、バルコニーの手すりと距離だけじゃない。
私自身が魔女だということと、記憶がないこと。このふたつが大きかった。
私はこの世界にいていいのか。ここは私の居場所なのか。
未だに自信が持てない。
あの記憶の謎が解けない限り、私はここで、心から安らぐことはできない気がした。
*
その夜、ミラーは宮殿に戻らなかった。
そしてもうひとつ、不穏なできごとが起きていた。
翌日の昼過ぎになって、王妃の間の周辺が、何やら騒がしいことに私は気づく。
「ねえ、どうかしたの?」
王妃の間から廊下へ顔を出してみると、こちらのメイドと王太子付きの従者が話していた。王太子付きの従者がここまでくるなんて、普段にないことだった。
「妃殿下、お騒がせして申し訳ございません」
胸に手を当てかしこまってみせながらも、従者は青い顔をしている。
何かあったんだ。きっと、あまりよくないことが……。
「もしかして、スノーホワイトに何かあったの?」
そんなふうに切り込むと、彼は重い口を開いた。
「実は殿下が、夜中にいなくなってしまわれたのです」
スノーホワイトが周囲の者たちの目を盗んで出かけるのはよくあることで、はじめは皆、いつものことだと高をくくっていたらしい。
しかし朝食の時間になっても昼が近づいてもスノーホワイトは現れず……。
今お付きの者たちが、王宮内を探し回っているということだった。
「まさか、宮殿の外へ出られたのでは……」
王妃の間を担当するメイドが、不安げにつぶやく。
「しかし、衛兵たちは殿下を見ていないと言っています」
従者は反論した。
普段から目立つ格好をしたスノーホワイトだ。そんな彼が外へ出ていくのを、衛兵たちが見逃すとは思えない。
あるとすれば彼が自らの意思で変装して出ていったか、さもなければ連れ去られたかだ。
でもスノーホワイトが勝手に出ていくなんて、私には考えられなかった。
だってスノーホワイトは、私を守るためにこの宮殿へ戻ると言っていた。
あれから何日もたっていない。
それなのに私に何も告げずに出ていくなんて……。いくら気まぐれなスノーホワイトでも、さすがにおかしいと思った。
「誰かに連れ去られたっていう可能性も見て動いた方がいいのでは……」
私が悩みながらそう話すと、王子の従者はさらに顔を青ざめた。
「申し訳ございません、我々の責任です……」
「責任の話はあとでもいいと思います。それより手分けして探しましょう」
すぐ王に判断を仰ぐことになり、その結果、各所で情報収集が始まった。
ところが夜になってもスノーホワイトは見つからず、不思議なことに彼を見たという話さえ出てこなかった。
まるで彼が忽然と消えてしまったかのように――。
*
(どうして……? スノーホワイト……)
スノーホワイトのいない宮殿で、私は彼と出会ったバラの花壇のある庭へ足を向けていた。
ひっそりと静まりかえった夜の庭園を見渡す。
こんなところはとっくに誰かが探したはずだ。でもなぜか気になって来てしまった。
虫の知らせというものかもしれない。
暗い中、私は背の高い庭木の間を行き来した。
けれどバラの花壇の陰にもトピアリーの向こうにも、スノーホワイトの姿は見つからなかった。
ため息をつき、きびすを返そうとする。
そんな時、庭木の向こうに人影を見た気がして、私は反射的に振り返った。
「スノーホワイト……!?」
とっさに名前を呼んでから、それが彼でないことに気がつく。
「ミラー、あなたなの?」
「ええ。スノーホワイトでなくて残念でしたね」
金色の髪が夜風に揺れてきらめいた。
彼はゆっくりと私に近づいてくる。
ミラーと会ったのは、あのこびとの家での一件以来だった。
「ミラー、今までどこへ行ってたの? 今、スノーホワイトが行方不明なの」
「そのようですね。これだけ宮殿内が騒がしければ、僕の耳にも入ってきます」
「心当たりはない?」
「心当たりですか……」
彼は私の目の前まで来ると、意味深に唇を歪ませる。
「それを僕に聞くということは、お嬢さまも察しがついているんでしょう?」
ぞくっとした。
「もしかして……。ミラーがスノーホワイトをさらったの?」
私はまさかという思いで問いかける。
彼は意味深な微笑みを浮かべたまま、何も答えなかった。
沈黙は肯定だ。
「そんな……。でもどうやって?」
こびとの家であんなことがあったんだ。さすがにミラーが近づけば、スノーホワイトだって警戒するはず。
それを考えると、騒がれずに連れ去るのは難しい気がした。
ミラーが教える。
「僕は入れ知恵しただけ。実際に連れ去ったのはこびとたちです」
「こびとさんたちが……?」
にわかには信じられなかった。
けれど小さなこびとなら、例えば荷物に紛れて宮殿内に侵入できるはずだし、スノーホワイトをおびき寄せ、同じ方法で連れ去ることだってできるはずだ。
そして彼らのスノーホワイトへの熱狂ぶりを思い出すと、あの様子ならやりかねないという気もした。
「でも……。ミラーはなんのためにこびとさんたちをそそのかしたの?」
返答次第では私は、ミラーの敵に回らなきゃいけない。そんな現実を前にのどが強ばる。
ミラーは笑って肩をすくめた。
「スノーホワイトは森でこびとたちと幸せに暮らす、それでいいでしょう」
「え……?」
絵本の物語との一致に驚き、私は一瞬混乱した。
でもそれでメデタシメデタシとはいかない。
騙して連れ去ったならそれはスノーホワイトの意思じゃないわけで、知ってしまった私も悪事を見逃せない。
「ミラー、スノーホワイトを返して」
「返してどうするんです?」
その問いには答えずに、私はミラーに詰め寄った。
「ミラーは居場所を知っているんでしょう?」
「ええ。もちろん知っていますとも」
彼の宝石のような瞳に私が映り込む。まるで魅入られてしまったような錯覚に襲われた。
「では教えてあげましょう。僕の大切な、ソシエお嬢さまからの頼みですからね」
耳元に彼の吐息がぶつかった。
「ただし条件付きです」
「条件?」
ミラーがローブの袖口から、林檎をふたつ取り出した。
夜の闇の中、林檎は黒々と輝く。
「右は普通の林檎です。左には毒が仕込んであります」
「毒……!?」
彼はふたつの林檎を私の両手に握らせた。
「ソシエお嬢さまは林檎売りのフリをして、この前こびとの家に行ったそうですね」
それで林檎なのか。
林檎には魔法をかけた痕なのか、ぼんやりと不思議な文様が刻まれている。
「今回のスノーホワイトの居場所はあの家ではありませんが……。行ったらどちらかひとつを、彼に食べさせてください。それを条件に居場所を教えます」
「どうしてそんなこと……」
ミラーの意図がわからなかった。
「普通の林檎を食べさせてもいいの?」
「ええ。それでも彼は死ぬかもしれませんね。僕があなたに嘘を教えているかもしれない」
その言葉でようやくわかった。ミラーは是が非でも私にスノーホワイトを殺させるつもりなんだ。
「ふたつとも毒入りなんじゃ……」
私はふたつの林檎を見比べる。
林檎の向こうでミラーが首を横に振った。
「それはありません。なんなら残った方は僕が食べますよ」
「残った方が毒入りでも?」
「ええ。あなたが賭けに出るなら、僕もそのくらいのリスクは負います」
これは私とミラーとの勝負らしかった。
私はスノーホワイトを取り返し、ミラーを死に追いやるのか。
それともスノーホワイトを殺してしまい、これからの人生をミラーの共犯者として生きるのか。
この賭けに乗るなら、ふたつにひとつだ――。
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