カレカノごっこ。

咲倉なこ

64



「私、渉とは付き合わないって言った」

「え?」

「それ、言いに来た」


私は伊吹くんのベッドに座ったまま、本題を切り出した。


「なんで?」

「なんでって、言ったじゃん。もう私自分に嘘つきたくないって」

「…新奈は渉くんとお似合いだよ。だからちゃんと渉くんのこと見ててよ…」


伊吹くんにそう言われると、何か込み上げるものがあった。


「そうさせてくれないのは伊吹くんじゃん…」

「…」

「私だって見ようとしたよ。でもできないんだよ?もう、どうしろって言うの?」

「…」


伊吹くんは私の問いに何も答えず、ただ悲しそうな表情をしている。


「渉とは幼なじみ。恋愛じゃなかった」

「…それは一緒にいる時間が長すぎて本当の愛が分かってないんだよ」

「それが愛か愛じゃないかは私が決めることだよ」

「それじゃ俺が困るんだよ…」

「何が困るの?」


ずっと回りくどい言い方をする伊吹くん。

なんで?

なんで私と渉をくっつけようとするの?


「だって、俺は…」


「病気だから?」

「っ…」

「病気だから何?病気だったら恋愛しちゃいけないの?」


そんなのおかしいよ。

だって私が好きなのは、今目の前にいる君なんだから。


「だから、最初っから付き合う気ないみたいな感じで、私のこと誘ったの?」

「…」

「だから、俺のこと好きにらないでって言ったの?」

「…」

「なんで病気のこと言ってくれなかったの…」


伊吹くんが何も答えてくれないから…。

次から次へと伊吹くんに聞きたいことが溢れ出る。


「だって…」

「…病気のこと聞いたからって、私は何も変わらないよ」


そりゃびっくりするかもしれない。

悲しいと思うかもしれない。

だけど、何も言われない方がよっぽど悲しかったよ。


「俺がイヤだったんだよ…」

「…え?」


それから伊吹くんはゆっくり話し始めた。


「…確かに周りには病人扱いされるのがイヤだった。ただ、普通に高校生活を送りたくて、誰にも言わなかった。けど、新奈には…。新奈に知られたら、かっこ悪いと思って…」


私は病気とかなったことないから、伊吹くんの気持ちなんて想像することはできても、本心なんて全然分かんなくて。

だからちゃんと聞かなきゃ分からないと思ってた。

でも伊吹くんから本音を聞いたら、もっと分からなくなった。


「かっこ悪いって…そんな理由?」

「笑いたかったら笑えよ…」


そう言って伊吹くんは布団をかぶって隠れてしまった。



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