カレカノごっこ。

咲倉なこ

58



井上新奈。

1年1組。

食べることが好き。


そんな彼女の後ろの席に、たまたま座った時。

彼女の友達が落ち込んでいるみたいで、彼女はそれをなぐさめていた。

いつも遠くで眺めることしかしていなかったから、近くにいる彼女にちょっとレア感。


「急にだよ?なんでって感じじゃん」

「ちゃんと理由言ってほしいよね」

「本当だよー。そのままぱったり音沙汰なし。まじでどん底。お先真っ暗」


どうやら友達の方は彼氏にフラれたばかりのようだった。


「桃々さ、”暗闇の中でこそ、星が輝いて見える”ってよく言うじゃん?」

「なにそれ、初めて聞いたんだけど」

「誰かの名言?本当に大切なものは辛い時こそよく見えるもんなんだよ。ほら今私、輝いてない?」

「うわ、自分で言う人いる?」

「ここにいまーす」

「身に沁みます。って全然慰めになってないんだけど」

「ごもっともです」


彼女たちの会話が耳に入ってきて、思わず笑ってしまう。


「…ははっ」

「伊吹、何笑ってんの?」

「いや、なんでもない」


”暗闇の中でこそ、星が見える”か。

確かに都会だと星はあんまり見えないけど、田舎だとよく見えるって聞くもんな。


俺は自分が暗闇にいた時のことを思い出した。

自分の親がどれだけ心配してくれたか。

サッカー部のみんなもクラスメイトも先生も、どれだけサポートしてくれたか。

自分のことでいっぱいいっぱいだったから、周りの優しさに気がついていなかった。

俺は病気になったからこそ、周りの温かさに気がついていたはずなのに。

十分恵まれた環境にいたのに。

自分は不幸のどん底にいるみたいな顔して、みんなの優しさに甘えて。

何も気づけていなかった。


「今は辛いかもしれない。でも、桃々はめちゃくちゃいい子だもん。
絶対もっといい彼氏ができるって!私が保証する!」

「新奈ってたまに男前よね。私の彼氏になる?」

「え…それはちょっと…」

「ねー、急に気まずくするのやめてくれる?」


新奈って子は、いいことを言っている気がするのに、ちょっとずれていて、それがツボだった。


「ちょっともう限界…」

「伊吹、さっきらかどうしたんだよ」


今思うと、それは新奈なりの優しさだったのかもしれない。

落ち込んでいる友達を少しでも笑顔にさせたいっていう、優しさの表現だったのかもしれない。


それからは、その新奈って子にもっと興味が湧いた。



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