カレカノごっこ。

咲倉なこ

56



俺は中学3年の春、部活中に倒れた。

大きな大会の前日だった。

レギュラーが決まって、より一層頑張っていた。

俺は、サッカーが好きだった。

休み時間もずっとサッカーばっかりで。

どれだけやっても飽きなかった。

部活が終わった後も1人で練習して。

絶対、爪痕残してやるって思ってた。

それなのに、俺は気がつくと病院のベッドで寝ていた。


「ここって…」

「良かった、目が覚めて」


俺の手を握る母親。

全然状況がつかめなかった。

そしてハッとした。


「今何時!?」

「14時半だよ」

「え?」


俺は放課後、サッカーの練習をしていたはずじゃ…。


「ここどこ?俺どれくらい寝てたの?」

「落ち着いて聞いてね。ここは病院。伊吹は3日間ずっと寝てたの」


唖然だった。


「え?じゃあ試合は?」

「…もう終わったよ」

「え?」


終わったって、何?

俺が寝ている間に終わったって?

え?

全然意味が分からない。


「俺はサッカーの練習してて」

「うん」

「明日、大会で…」

「うん…」

「俺、行かなくちゃ…」

「ダメ…!安静にしてて。お願いだから」


俺の胸で涙を流す母親を見て、やっと冷静さを取り戻してきた。


「俺、どこか悪いの?」


俺の問いに、母親は泣くだけだった。


それから医師から説明を受けた。

先天性の腎臓の病気だそうだ。

そう言われても、全然ピンとこなかった。


「最近、息苦しいとか、体がだるいとかありませんでしたか?」

「…」

「手足が痺れたり、胸が苦しかったりしませんでしたか?」

「…」


先生から言われた質問はどれも当てはまった。

でもそれは、いつも以上にサッカーの練習を頑張っていたからだと思っていた。

病気だなんて思いもしなかった。


それから医者に、もう激しい運動はできないと言われた。

俺は大会に出れなかった。

大好きなサッカーを一瞬にして取り上げられた。

別にプロになりたいとか、そんなことを思っていいたわけじゃない。


ただ好きだったから。

好きだから、この先もずっとサッカーをしていると思っていた。


「なにも部活まで辞めることないんじゃない?」

「もう決めたことだから」


医者は、軽い運動なら積極的にやってほしいと言っていた。

でも本気で頑張っている部員たちの中で、軽い運動程度のサッカーなんて、俺にはできない。

見てると本気でサッカーをしたくなるから。

だから俺はサッカー部をやめた。

ずっとサッカーしかなかった俺は、それからはただぼーっと過ごしていた。

透析のために週3回病院に通わなきゃいけなかったし。

食事制限もあるし。

今まで気にも止めなかったことを、注意しながら生きていかないといけない。

みんなが普通にできていることが、俺にはできない。

俺から全ての自由が奪われた気さえしていた。


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