カレカノごっこ。

咲倉なこ

44

どんどんオレンジ色に染まっていく夕日を眺めながら、伊吹くんは喋り始めた。


「渉くんってかっこいいよね」

「何急に…」

「いや、なんかクールな感じでさ。いつも新奈の隣にいて、少し羨ましかったんだよね」


え…。

伊吹くんは渉のこと、そんなふうに思ってたんだ。


「渉、クールじゃないよ」

「俺にはそう見えてたの」


なんで今渉の話をするんだろう。

そっか、私が渉とちゃんと向き合いたいって言ったからか…。


「いいと思う、渉くん。渉くんなら新奈のこと幸せにしてくれそう」


渉と向き合うって決めたのは私で。

伊吹くんはそれを受け入れてくれただけなのに。

なのに。

伊吹くんからそう言われると、すごく複雑な気持ちになった。

本当に自分勝手な自分がイヤになる。


「なんで…伊吹くんがそんなこと言うの?」

「だって、新奈には幸せになってほしいから」


私は、伊吹くんと一緒にいる時も幸せだったよ。

伊吹くんは私の知らない感情をいっぱいくれた。

そんな人、伊吹くんが初めてだったよ。


私は口に出しそうになった言葉をグッと止めた。

言ってしまったら、次から次へと自分の感情を喋ってしまいそうだったから。

そうしたら、もう本当に後に引けなくなるから。


「新奈と一緒にいれて、すごく楽しかった」

「うん…」

「こんな意味不明なごっこ遊びに付き合ってくれてありがとう」


伊吹くんは別れの挨拶みたいな言葉を並べる。

さっきから、それがすごく悲しい。


「意味不明だって自覚はあったんだ…」

「そりゃあるよね。何言っちゃてるんだろーって。でも引くに引けなくなってさ」


そっか。

そうなんだ。

あの時の伊吹くんは、それが普通ですけど何か?ぐらいのノリで喋ってきたから、私が圧倒されてたけど、伊吹くんもそんなこと思ってたんだ。


「今日もムリ言ってごめんね」

「いつもムリ言ってる」

「確かに」


伊吹くんは静かに笑う。

その表情が寂しさを加速させる。


「でもちゃんと自分に踏ん切りつけたかったんだ」

「踏ん切りって…」

「夢見るのは今日でおしまいって」

「夢…?」


夢って大袈裟。

ただそれっぽいデートしてただけ。

私は伊吹くんに何もしてあげれてないのに。


「ちゃんと現実見なきゃって。いつも無理やり付き合わせちゃってごめんね」

「無理やりではなかったよ」

「え?」

「私も楽しかった」

「うん…」


伊吹くんは照れるかのように俯いた。

もうやだ。

これじゃ、本当に最後みたいじゃん。


最初から分かってるんだ。

また伊吹くんと一緒にいると、別れが名残惜しくなるって。

だからも離れるって決めてたのに。

なのにズルズルきちゃって。

悪いのは全部私。


あーあ。

こんなに辛くなるのなら、デートなんてしなきゃよかった。

いつの間にか夕陽が沈んでいて、辺りは暗くなっていた。

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