カレカノごっこ。

咲倉なこ

37



私と渉は、靴を履き替えて学校を出た。

渉は一言もしゃべらないまま黙々と駅に向かって歩く。
 

「ごめんね、だいぶ待ったよね…」

「うんん。別に待つのは苦じゃない」

「やっぱり待ったんだ」

「いや、それはどうでもよくて」


え?


「またあいつと一緒だったんだって思って」


伊吹くんのこと?

あー、そうか。

渉は、私が伊吹くんと付き合ってもないのにデートしてるって聞いて、心配してくれてるんだ。


「言ったよ。デートはもうしないって」

「そうなの?」

「うん。これからはちゃんとした恋愛する。だから心配しないで」

「うん…」


そう。

本当にこれでおしまい。

もう何を言われたって、どんなに強引にされたって、伊吹くんとはこれでおしまい。

今度からちゃんと普通に恋愛できる人を探さなきゃ。

 
駅のホームに着いて、電車が来るのを渉と2人で待つ。

そして私は見つけてしまう。

駅の向い側にいる伊吹くんを。


伊吹くんの姿を確認した時、また自分の心臓が大きく波をうった。
 
そういえば同じ駅だったんだ。
 

伊吹くんと目が合って。
 
さっきバイバイしたはずなのに、また名残惜しさが蘇ってくる。
 

私は伊吹くんを捉えることに夢中で。
 
渉が私たちのことを見ていたなんて全然気が付かなかった。
 
 
「新奈、目の下に何かついてるよ?」
 

渉はそう言って私の視界に飛び込んできた。
 

「え、うそ?」
 
「ちょっとじっとしてて」
 

まつ毛でもついているのかなーなんて。
 
のんきに目をつぶって構えていた。
 

渉の左手が私の首筋をなぞって、ちょっとびっくりして。
 
渉と目が合った瞬間、唇に何かが触れた。
 
 
 
───え?
 

 
何が起こったのか私には分からなくて。
 
渉は「ごめん」って言って私から離れた。
 
渉が視界から外れて、さっきまで伊吹くんがいたところが視界に映った。
 
伊吹くんの姿はそこにはなかった。
 

丁度こちら側の電車が来て。
 
渉と2人で電車に乗り込む。
 
やっぱり向こう側の駅のホームをどれだけ探しても伊吹くんの姿が見当たらなくて、
 
───ホッとした。
 
 
「誰か探してる?」
 

きょろきょろしている私は不自然だったんだろう。
 

「うんん、なんでもない」
 

渉は普通にしてる。
 
さっきあった出来事は幻だったかのように。
 
 
電車を降りて、家までの道を渉と一緒に歩く。
  
さっきのこと、渉は何も言わないし、私も何も聞かなかった。
 
だって、一瞬のこと過ぎたから。

もしかしたら私の勘違いかもしれない。
 
まつ毛が私の唇に落ちて、それを取ってくれただけなのかもしれないって。

 
だって、渉は幼なじみだから。
 
ずっと幼なじみでやってきたから。


だから、私にキスなんてしないよね?

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