カレカノごっこ。

咲倉なこ

36



その瞬間。

扉のとってをガチャガチャと回す音が聞こえて、私と伊吹は顔を見合わせた。

外から「あれー?」って声が聞こえる。

声の主は鍵がかかっていると分かったみていで、引き返していった。

人が入ってくるんじゃないかとドキドキしていた私に、鍵をじゃらんと見せる伊吹くん。


「いつの間に鍵かけてたの?」

「入ってすぐ?」


伊吹くんはイタズラが成功した少年のような顔で笑った。

鍵がかかっているおかげで、誰も入ってこなかったけど。

でも。

もし誰も来なかったら、今頃どうしてたんだろう…。

あのまま空気に流されて私…。

考えただけで顔から火が出そうなくらい熱い。


「いいところだったのに、邪魔されちゃったね」


伊吹くんは意地悪な顔で笑う。


「全然いいところじゃなかったし!」


一気に現実世界に戻された私は、腰を上げた。


「渉、待たせてるから…」

「そうだね」


さすがに伊吹くんも悪いと思ったのか、引き留めてはこなかった。


放送室を出て、伊吹くんと一緒に廊下を歩く。

それだけでドキドキする。

私の手が隣に歩く伊吹の手と少しだけ当たって。

一瞬ドキッとして。

そのままギュッと手を握られる。


本当にこの男は、なんでこんなことが自然に出来ちゃうんだろう。



「ちょっと離して」

「えー?なんで?」

「誰かに見られたら困るでしょ?」

「全然?」


そこまで繋いでいたいのか。

そんなに手を繋いでいたいのか。


学校の玄関にいくと、渉がスマホを片手に待っていた。

渉が目に入った瞬間、伊吹くんは私の手をそっと離した。

あんなにも繋ぎたがっていたのに、離す時は一瞬だった。


渉は私たちを見つけて、一瞬笑顔になったあと、すぐに真顔になった。


「新奈、遅かったね」

「鍵、探すの手伝ってもらってたんだ」


伊吹くんはそう言って、放送室の鍵をポケットから出した。


「そうだったんだ」

「待たせて、ごめんね」

「うんん、大丈夫」


渉を待たせてまで、何やってるんだろう私は。


「じゃあ俺、職員室に鍵返してくるから」

「あ、うん。ばいばい」

「ばいばい」


伊吹くんはそのまま手をひらひらさせて、職員室の方に歩いて行った。

さっきはあんなにしつこかったのに。

帰る時はやっぱり一瞬だ。


「行こっか」

「うん…」



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