カレカノごっこ。
34
「あー、はずしちゃった」
そう言った伊吹くんは眉を下げて笑った。
「あんなの、冗談だと思ってた」
「俺、冗談とか言わないから」
「それはウソ」
伊吹くんは私のこと苗字で呼ぶくせに。
自分勝手すぎる。
私は自分の感情を抑えるのにこんなに必死なのに。
軽々と超えてきちゃう伊吹くんが心底憎たらしい。
「伊吹くんを好きになったらいけないんだよね?」
「…そうだよ」
「なのに、なんでこんなことするの?」
「したいから。だめ?」
なんなのそれ。
キスがしたいなんて。
「だめに決まってるでしょー!?」
「そんな怒んないでよ」
「怒るよ!」
伊吹くんは好きでもない相手にキスするの?
そんなキスになんの意味があるの?
「名前呼ばなかった新奈が悪いんだよ?」
「…そんなの伊吹くんが勝手に言ったことでしょ?もう私を振り回すのやめてよ…」
これ以上伊吹くんに関わったてたら、本当に取り返しつかなくなるから。
だからもう、私にかまわないで。
「振り回してんのは新奈の方じゃん…」
「…は?」
私が、伊吹くんを振り回してる…?
「新奈、幼なじみくんに何か言われたでしょ」
なんで今そんなこと聞くの。
「別に何も言われてないけど」
確かに”デートやめなよ”って言われた。
でも決めたのは私だから。
だから渉は関係ない。
「俺たちのこと話した?」
「…まあ、聞かれたから」
「なんで話しちゃうかなー」
伊吹くんは窓の外の遠くを見た。
「別に内緒にしてとは言われてないし」
好きにならないでって言われただけで。
「今は俺と一緒にいてよ」
だからなんでそんな事、言うんだろう。
心臓がうるさい。
おちつけ。
「でも渉が…」
「俺は今、新奈と一緒にいたい」
強引。
一度言ったことは、私がうんと言うまで引き下がらない。
いつも強引すぎるよ。
「デートはもうしないって」
「だからこれはデートじゃないってば」
これ以上伊吹くんと一緒にいると、伊吹くんに私の気持ちがバレてしまうかもしれない。
だから今日ずっと、何もないフリしてきたんじゃん。
なのに何で…勘違いしそうなことばっかり言うの。
今考えれば最初からか。
その気もないのに、その気があるふりして私に近づいてきて。
伊吹くんの目的は何なの?
「そこまで言うなら、一緒にいてあげる」
こんな可愛げない言い方しかできない自分がイヤだ。
伊吹くんは私の言葉に複雑そうな顔で笑った。
放課後。
誰もいない放送室で。
私と伊吹くんはただ手を繋いで一緒にいた。
伊吹くんは何も喋らない。
私も何も喋らない。
喋れない。
私の心臓の音が聞こえてしまわないか不安になるくらい静かだった。
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