カレカノごっこ。

咲倉なこ

7



頼んでいたパンケーキが机に運ばれて、甘い香りでいっぱいになる。


「おいしそう!」

「だな!いただきまーす」


皆藤くんはベリーのパンケーキを口に運ぶ。

パンケーキを食べる仕草ですらかっこいいとは何事か。

本当にこの人は、私とこんなところでパンケーキを食べていていいんだろうか。

もっと私の代わりに、ここにいた方がいい人がいるんじゃないだろうか。


「どうしたの?食べないの?」


皆藤くんの言葉で我に返った。

ずっと皆藤くんを眺めていることに気が付いて、焦ってフォークとナイフを握った。


「食べる食べる!いただきまーす」


パンケーキを口に入れると、口いっぱいに広がる甘い香りと柔らかい触感。

はちみつの甘さが脳にまで広がる。


「おいひー」


幸せ。

甘い物って何でこんなに人を幸せにするんだろうか。


「ほんと、おいしそうに食べるね」

「そうかな?」


皆藤くんにそう言われると、なんだかちょっぴり恥ずかしい。


「こっちも食べる?」

「うん!」


私もシェアにちょっと憧れてたから、嬉しいな。

2つの味を堂々と楽しめるなんて、本当に贅沢。

お皿を交換しようと思って持ち上げて前を見ると、皆藤くんはパンケーキを刺したフォークを私に近づけてきた。


「はい」

「はいって、え?」

「ほら、あーん」


皆藤くんの運んでくるパンケーキはもうすぐそこまで来ている。

その甘い香りの誘惑に負け、思わず口を開いてパクっと食べてしまった。


あ。


あれこれ考える前に私の脳を制するのは、

「おいしー」

この一言。


「幸せそう」

「だっておいしいんだもん」


甘い物食べてる時って本当に幸せ。

ベリーの酸味がより一層甘さを際立たせる。


「俺もはちみつ食べたいな」


なんて、皆藤くんは少し上目遣いをした。

その顔はズルいよ、皆藤くん。


「私ばっかりごめんね!食べて食べて!」


一度降ろしたお皿を持って皆藤くんの前に差し出すも、一向にもらってくれない。

あれ、食べたいんじゃないの?


「新奈は食べさせてくれないの?」

「へ?」


あ、え?私もあーんってした方がいいのかな…?

結局貰ってくれないお皿を、元あった場所に戻して、パンケーキをゆっくり一口サイズに切る。

フォークで刺して、皆藤くんの口にまで運んでみると、皆藤くんは満足そうに笑って、パンケーキを食べた。



「やば、うまい」

「でしょ!?」

「もう一口ちょうだい?」


…。

皆藤くんって極上に甘え上手だ。

きっと詐欺師になれる。

このテンションで「お金貸して?」って言われたら絶対貸しちゃう。

それほどまでに、皆藤くんの言葉には強制力があった。

勝手に動く手。

もう一回パンケーキを口に運ぶと、嬉しそうに頬張る皆藤くん。

かわいい。

なんだこれ。

カップルがしてるデートってこんな感じなのか。

相手がクラスメイトでもこんなに楽しいんだから、好きな人とだったらきっともっと楽しいんだろうな。


「なんか、本当にデートみたい」


思わず心の声が漏れてしまう。

それに反応するかのように階藤くんは言った。


「本当のデートだよ」


…って、違うじゃん。

でも皆藤くんの言動は勘違いをしそうな程にとても甘いデートだった。



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