カレカノごっこ。

咲倉なこ

4



なんか皆藤くんの圧がすごい…。


「じゃあ、俺の行きたいお店に付き合ってくれるだけでいいから!ね?」


お願いー!って言いながら、さらりと私の手を握ってブルンブルン振る皆藤くん。


「ちょっ、離して」

「OKしてくれたら離してあげる」


…。

どうも皆藤くんと話してると調子が狂うっていうか。

皆藤くんのペースにまんまと乗せられてるっていうか。

それが、皆藤くんの人気の秘密なんだろうなーとは思うけど。


「さっき、日誌のお礼になんでもするって言ったじゃん」


そう言われると何も言えない…。


「…分かった。分かったから手離して」

「まじで?やったー!」


ううっ…。

皆藤くんの笑顔が眩しい。

でも日誌書くの手伝ってくれたし。

デートって言ってたけど学校帰りに寄り道するだけっぽいし。

そこまでして皆藤くんを拒む理由も持ち合わせていない。

なぜかデートに合意したにも関わらず手を離してくれない皆藤くん。

そんな皆藤くんは私の表情を見ながら真剣な面持ちでこう言った。


「でも、一つだけ約束してくれる?」

「な、なに?」


含みをもたせて口を開く皆藤くんは、何を言い出すのか予想ができなくて、ちょっと怖い。



「俺のこと、絶対好きにならないでね」



さっきの高テンションの皆藤くんとは、うってかわって低めのトーン。


「な!ならないよ!」


笑顔とのギャップがすごくて、ゴクリと生唾を飲む。


「約束ね」


皆藤くんは冷静にそう言って、さっきからずっと握っていた私の手を離した。

私の頭は”はてな”でいっぱいだ。

好きになったらダメなのにデートするの?

あ、そっか。

さっき面倒くさいの嫌いって言ってたっけ。

好きになられると面倒なのか?

じゃあ、なんでデートするの?

困ったな。

モテる人の考えていることが全然理解できない。


「実は行ってみたいカフェがあって」


皆藤くんはそう言いながらスマホ画面を私に見せてくる。

このカフェは私も見覚えがあった。


「ここって駅前の新しくできたとこ?」

「そう!ずっと行きたかったんだけど、男子だけじゃ入りずらいじゃん?」


皆藤くんが提案してきたお店は私も気になっていた。

仲良しの桃々(もも)はいつも部活で、なかなか予定が合わないし。

もしかして、皆藤くんは私とデートがしたいんじゃなくって、あのカフェに行ってみたかっただけなのかも。

だとすると好きにならないでって言ったことも腑に落ちる。

それならそうと最初っからそう言ってくれればよかったのに。

なんでデートなんてまぎらわしい言い方したんだろう。


「そのお店、私も行きたいと思ってた」

「まじ?すごい奇遇だね?運命?」

「いや、運命って」


びっくりするぐらい軽いノリで言葉を並べる皆藤くん。

さすがにここまでくると清々しい。

そんな皆藤くんを見てると、色々気にしてたことがバカらしくなってきた。

行きたかったカフェにも行けることだし。

成り行きで変なことになっちゃったけど、自称デート?思いっきり楽しもうと思った。



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