ゴミ屋敷令嬢ですが、追放王子を拾ったら溺愛されています!
第五十六話
目を見開き、唾を飛ばすガイウス。名前を呼ばれた息子は不快そうに眉をしかめた。
ルシファーはゆっくりと下降し、国境門から続く城壁の上に降り立つ。地獄の業火を挟んで父と息子はおよそ十年ぶりに対峙した。
「どういうことだ、ルシファー! 謀反を起こす気か!? 大変なことをしでかしおって、ただでは済まされぬぞ!」
「国を見捨てたくせに、よくもそのようなことが言えますね」
軽蔑するような目でルシファーは淡々と答える。怒りに身を任せるガイウスとは実に対照的であった。
「す、捨てたのではない! やむなく避難しただけだ! 民を待たせたことは済まないと思ってい」
「まあ、もうどちらでもよいのです」
ぴしゃりとルシファーが言葉を被せる。
「ガイウス王。あなたに二つの選択肢を提示します」
「な、なんだと!?」
自分の言うことには従順だったルシファーが、何か強い決意を持って反抗してきている。ガイウスはうすら恐ろしい気持ちになった。
「一つ。私に王座を譲り、二度とこの国と関わらないことをお約束いただきたい。この場合、命だけは助けましょう」
「ふ、ふざけるな! そんな要求、聞き入れる訳がないだろう!!」
「二つ」
ガイウスの叫びをまるで無視してルシファーは静かに続ける。
「入国してもよいですが、一歩足を踏み入れた瞬間からあなたは命を狙われます。この城壁の中に、あなたの味方は一人もいないとお考えください」
「馬鹿な! この儂を暗殺しようというのか!!」
「……大魔法使いを相手にいつまで生き延びられるか見物ですね」
見物、と言いながらも紫色の瞳は全く笑っていない。
彼の中で、親子の情というものはとっくの昔に切れていた。よくしてくれた母親を幼い頃に亡くして以来、王城に彼の味方は一人もいなかった。実の父親である王はルシファーを不当に虐げていて、むしろ最大の敵だったのだから。
「お前は……なったのか。大魔法使いに」
絞り出すような声。豪傑と謳われたガイウスは、五十余年の人生で初めてこのような声を出した。
他の息子と違ってルシファーは軟弱だったが、代わりに稀有な魔法の才能があった。剣を振るえぬなら魔法で役立たせようと修練をさせていたのだが、まさか大魔法使いになるほどの力量だったとは。
己の目算が誤っていたことに歯ぎしりするが、冷遇したことを後悔してももう遅い。
「ええ。師匠にしごかれまして、予定よりだいぶ早く称号をいただきました。……王座など心底どうでもよいのですが、あなた方に治められる国民が可哀想になりましてね。こうしてやって来た次第です」
ガイウスは俯き、歯が折れるほど顎に力を入れた。
――悔しい! こんなはずではなかったのにッッ!!
彼は愚王で政の才はないが、戦の経験は豊富である。大魔法使いというものがどれだけ圧倒的な強さを持っているかは、身をもって知っていた。
息子だろうが何だろうが関係ない。大魔法使いになったという時点で絶対に敵に回してはいけないのである。それは鉄の掟だ。
敵わぬ相手に斬りかかることなど、全くもって無駄な行動である。
国を失うことは断腸の思いであるが、戦に人生を捧げてきたガイウスにとって、無駄死にすることもまた許せないことであった。
長い沈黙のあと、彼は乾ききった口を開く。
「…………一つ目を選択する」
「英断です」
初めてルシファーは口角を上げた。
ただし、浮かんだ笑みは侮蔑の笑みであったが。
「では、わたしはこれで。今後会うことはないでしょう」
そう言うとルシファーはひらりとローブを翻し、城壁から国境内へと飛び降りた。
中からは歓声が上がり、ルシファーを称える民の声が聞こえた。
「くっ、く…………くそおおおおおおおおおお!!!!」
業火の中には、かつて王だった者の雄叫びが響き渡る。
その者はしばらく呆然として座り込んでいたが、やがて騎士に促され、とぼとぼと焼野原を後にしていったという。
ルシファーはゆっくりと下降し、国境門から続く城壁の上に降り立つ。地獄の業火を挟んで父と息子はおよそ十年ぶりに対峙した。
「どういうことだ、ルシファー! 謀反を起こす気か!? 大変なことをしでかしおって、ただでは済まされぬぞ!」
「国を見捨てたくせに、よくもそのようなことが言えますね」
軽蔑するような目でルシファーは淡々と答える。怒りに身を任せるガイウスとは実に対照的であった。
「す、捨てたのではない! やむなく避難しただけだ! 民を待たせたことは済まないと思ってい」
「まあ、もうどちらでもよいのです」
ぴしゃりとルシファーが言葉を被せる。
「ガイウス王。あなたに二つの選択肢を提示します」
「な、なんだと!?」
自分の言うことには従順だったルシファーが、何か強い決意を持って反抗してきている。ガイウスはうすら恐ろしい気持ちになった。
「一つ。私に王座を譲り、二度とこの国と関わらないことをお約束いただきたい。この場合、命だけは助けましょう」
「ふ、ふざけるな! そんな要求、聞き入れる訳がないだろう!!」
「二つ」
ガイウスの叫びをまるで無視してルシファーは静かに続ける。
「入国してもよいですが、一歩足を踏み入れた瞬間からあなたは命を狙われます。この城壁の中に、あなたの味方は一人もいないとお考えください」
「馬鹿な! この儂を暗殺しようというのか!!」
「……大魔法使いを相手にいつまで生き延びられるか見物ですね」
見物、と言いながらも紫色の瞳は全く笑っていない。
彼の中で、親子の情というものはとっくの昔に切れていた。よくしてくれた母親を幼い頃に亡くして以来、王城に彼の味方は一人もいなかった。実の父親である王はルシファーを不当に虐げていて、むしろ最大の敵だったのだから。
「お前は……なったのか。大魔法使いに」
絞り出すような声。豪傑と謳われたガイウスは、五十余年の人生で初めてこのような声を出した。
他の息子と違ってルシファーは軟弱だったが、代わりに稀有な魔法の才能があった。剣を振るえぬなら魔法で役立たせようと修練をさせていたのだが、まさか大魔法使いになるほどの力量だったとは。
己の目算が誤っていたことに歯ぎしりするが、冷遇したことを後悔してももう遅い。
「ええ。師匠にしごかれまして、予定よりだいぶ早く称号をいただきました。……王座など心底どうでもよいのですが、あなた方に治められる国民が可哀想になりましてね。こうしてやって来た次第です」
ガイウスは俯き、歯が折れるほど顎に力を入れた。
――悔しい! こんなはずではなかったのにッッ!!
彼は愚王で政の才はないが、戦の経験は豊富である。大魔法使いというものがどれだけ圧倒的な強さを持っているかは、身をもって知っていた。
息子だろうが何だろうが関係ない。大魔法使いになったという時点で絶対に敵に回してはいけないのである。それは鉄の掟だ。
敵わぬ相手に斬りかかることなど、全くもって無駄な行動である。
国を失うことは断腸の思いであるが、戦に人生を捧げてきたガイウスにとって、無駄死にすることもまた許せないことであった。
長い沈黙のあと、彼は乾ききった口を開く。
「…………一つ目を選択する」
「英断です」
初めてルシファーは口角を上げた。
ただし、浮かんだ笑みは侮蔑の笑みであったが。
「では、わたしはこれで。今後会うことはないでしょう」
そう言うとルシファーはひらりとローブを翻し、城壁から国境内へと飛び降りた。
中からは歓声が上がり、ルシファーを称える民の声が聞こえた。
「くっ、く…………くそおおおおおおおおおお!!!!」
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