ゴミ屋敷令嬢ですが、追放王子を拾ったら溺愛されています!

優月アカネ@note創作大賞受賞

第五十五話

 怒号と共に数多の重たい剣が国境門に振り下ろされる。鈍く銀に光る剣身が、夏の日差しを受けてぎらぎらと光った。
 門は頑丈に造られているものの、何千何百もの屈強な男たちの力に耐えるには限界があった。

「もうすぐ穴が開くぞ! 手を緩めるな!」

 木片や金具が飛び散り、突破は目前かと思われた。
 と、陣営の後方にいる一人の騎士があることに気が付いた。上空にいくつもの赤い斑点が見えるのである。

「む? 何だあれは。赤い鳥などこの辺りには生息していないはずだが……」

 目を凝らしていると、赤い斑点は徐々に大きくなっていることが分かった。
 時間にして数秒後の出来事である。
 その正体に気が付いた騎士は血相を変えて叫んだ。

「上空九十度の角度より炎流星メテオフレイム襲来! 繰り返す! 九十度の角度より炎流星襲来!!」

 悲痛な叫びを聞いた騎士たちにどよめきが広がる。国境門に剣を振り下ろす手を止めて空を仰ぎ見る。

「炎流星だと!? まさかそんな」
「うわあっ、ほんとうじゃねえか!」
「いったいどういう訳だ!?」
「知らん! とにかく逃げろ、死ぬぞ!!」

 国境門に群がっていた騎士たちは陣列を崩して散り散りになっていく。
 しかし、その上に無慈悲にも炎流星が降り注ぐ。

 紅い尾を引いた灼熱の炎は轟音を上げ、人間などいとも簡単に吹き飛ばしていく。筋骨隆々とした騎士であっても為す術もなく宙に身体が舞う。
 着弾地点は陥没し、周囲に炎が広がった。逃げ惑う騎士たちの悲鳴は土埃と爆音にかき消され、辺り一帯はあっという間に火の海と化した。

 王ガイウスは最後方にいたため直撃を免れたが、眼前に広がる光景に言葉を失っていた。
 一分も経たないうちに騎士団の大半が壊滅して、国境門の前は地獄のような光景になっている。

「な、なにが起こっているのだ……?」

 戦の経験は豊富だが、こんな展開は経験したことがなかった。そもそも炎流星自体が上級魔法でとても珍しいものであるし、その上この量を出現させられる者は大魔法使いくらいしか居ないだろう――――。
 ガイウスははっとする。

「大魔法使い……?」

 その瞬間、灼熱で脂汗をかいていた背中に、氷を押し付けられたかのような寒気が走る。
 ごくり、と喉が鳴った。
 ゆっくりと炎流星が降ってきた方角を見上げると、そこには――――

「お久しぶりです、父上」

 底冷えするような声に聞き覚えはあったが、友好的な色は一切感じられない。
 群青色のローブをはためかせて箒に腰かける、その人物は。

「る、ルシファー!!」

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