ゴミ屋敷令嬢ですが、追放王子を拾ったら溺愛されています!
第四十四話
「見送ったとき、師匠はソルシエール内の別宅に帰るようなことを言っていた」ということで、ふたりはリサイクルショップから必要物資を見繕い、『臨時休業』の札を下げたのち、魔女の国ソルシエールへと出発した。
旅路は数週間に及んだ。
基本的にはルシファーの箒に二人乗りして移動したが、それが使えるのは魔女の国・ソルシエールの国境門まで。魔法が張り巡らされたこの国内で他国の者が使える魔法は制限されているからだ。
無事に入国したあとは地道に陸路でクロエのもとへ向かう。
ソルシエールは小さな国だ。緑の木々に囲まれた盆地に一応の首都があるものの、魔女は群れることを好まない。首都は最低限の都市機能を備えるのみで、魔女たちは家族単位で森や谷、洞窟などに住むのだという。
「すごい……! 箒で飛び回っていますわよ」
魔女たちの交通手段は箒である。
流れ星のように青い空をゆく彼女たちをベアトリクスは羨望の眼差しで見上げた。
「グラディウスにも魔法はあるが、ここは本場だからな。ああ、魔女を見かけても話しかけてはいけないぞ。彼女達は誇りが高いから、他国の者に気安くされることを望んでいない」
「そうなのね。分かったわ」
旅を始めた当初こそ彼女の表情は暗かったが、初めてグラディウス王国を出て他国の珍しい風景や食事に触れ、次第に彼女の表情は明るいものに変化していった。
(もともと快活な性格だからな。気分転換になっているなら何よりだ)
楽し気なベアトリクスを見てルシファーの心も自然と明るくなる。
「足元に気を付けてくれ。疲れてはいないか?」
さく、と草を踏みしめながらルシファーが問いかける。
「ありがとう。大丈夫よ」
魔女たちは箒で移動するため陸路はあまり整備されていない。それでも最低限の街道と宿屋はあるため、ふたりはいくつかの集落を経由しつつ、ひたすら歩き続けた。
入国後して一か月後に、クロエの別宅があるという南の森へと到着した。
「ソルシエールの森にも魔物が棲んでいるのかしら?」
「安心しろ。魔物はいるが、すべて師匠の使い魔だから俺たちを襲うことはない。それより問題は師匠の家だな。南の森にいるとはいえ、気まぐれだから森のどこにいるのかは分からないんだ」
魔物は襲ってこないと聞いてほっと胸を撫で下ろすベアトリクス。しかし、クロエの所在が分からないという言葉に首をかしげる。
「クロエ様はお屋敷に住んでいるのではないの?」
「その家の位置がころころ変わる。大魔法使いってのは強大な魔力を持った奇人変人だからな。気まぐれなんだ。……いてててっ! まずい、聞かれてるのか!」
ルシファーの言葉の途中で、舞い降りてきた大きな烏が彼の頭を小突き回す。
『カアッ!! カアアアーーーッッ!!』
「ルシファー! 大丈夫!? 鳥さんだめよ、あっちへお行きなさい!」
ベアトリクスは必死に烏を引きはがそうとするが、烏はルシファーの肩にがっしりと足を食い込ませて威嚇を止めない。
抗議するように鳴き喚く烏は、一通り彼をつつきまわした後、大空へと去っていった。
「いてて……。ったく、ほんとうに暴力的な師匠だな。見ているなら案内してくれよ」
「今の烏はクロエ様と関係があるの?」
治癒魔法で顔や頭にできた小傷を治すルシファーに尋ねると、彼はしかめっ面をしながら答える。
「使い魔の烏だ。名をガロンという。油断していたが、この森には師匠の使い魔がうじゃうじゃいる。今後師匠の陰口を言う時は気を付けろよ?」
「まあ! わたくしはそんなことしませんわ。お邪魔させていただく身分ですし、置いていただけるだけでありがたいもの」
「ははっ。そうだな。ベアトリクスが誰かのことを悪く言うとは思っていない。さあ、先を急ごう。夜までには見つけたい」
「ええ」
ふたりは再び歩き始める。
そして夕暮れ時、陽が沈むのとほとんど同時に、クロエの屋敷を見つけたのであった。
旅路は数週間に及んだ。
基本的にはルシファーの箒に二人乗りして移動したが、それが使えるのは魔女の国・ソルシエールの国境門まで。魔法が張り巡らされたこの国内で他国の者が使える魔法は制限されているからだ。
無事に入国したあとは地道に陸路でクロエのもとへ向かう。
ソルシエールは小さな国だ。緑の木々に囲まれた盆地に一応の首都があるものの、魔女は群れることを好まない。首都は最低限の都市機能を備えるのみで、魔女たちは家族単位で森や谷、洞窟などに住むのだという。
「すごい……! 箒で飛び回っていますわよ」
魔女たちの交通手段は箒である。
流れ星のように青い空をゆく彼女たちをベアトリクスは羨望の眼差しで見上げた。
「グラディウスにも魔法はあるが、ここは本場だからな。ああ、魔女を見かけても話しかけてはいけないぞ。彼女達は誇りが高いから、他国の者に気安くされることを望んでいない」
「そうなのね。分かったわ」
旅を始めた当初こそ彼女の表情は暗かったが、初めてグラディウス王国を出て他国の珍しい風景や食事に触れ、次第に彼女の表情は明るいものに変化していった。
(もともと快活な性格だからな。気分転換になっているなら何よりだ)
楽し気なベアトリクスを見てルシファーの心も自然と明るくなる。
「足元に気を付けてくれ。疲れてはいないか?」
さく、と草を踏みしめながらルシファーが問いかける。
「ありがとう。大丈夫よ」
魔女たちは箒で移動するため陸路はあまり整備されていない。それでも最低限の街道と宿屋はあるため、ふたりはいくつかの集落を経由しつつ、ひたすら歩き続けた。
入国後して一か月後に、クロエの別宅があるという南の森へと到着した。
「ソルシエールの森にも魔物が棲んでいるのかしら?」
「安心しろ。魔物はいるが、すべて師匠の使い魔だから俺たちを襲うことはない。それより問題は師匠の家だな。南の森にいるとはいえ、気まぐれだから森のどこにいるのかは分からないんだ」
魔物は襲ってこないと聞いてほっと胸を撫で下ろすベアトリクス。しかし、クロエの所在が分からないという言葉に首をかしげる。
「クロエ様はお屋敷に住んでいるのではないの?」
「その家の位置がころころ変わる。大魔法使いってのは強大な魔力を持った奇人変人だからな。気まぐれなんだ。……いてててっ! まずい、聞かれてるのか!」
ルシファーの言葉の途中で、舞い降りてきた大きな烏が彼の頭を小突き回す。
『カアッ!! カアアアーーーッッ!!』
「ルシファー! 大丈夫!? 鳥さんだめよ、あっちへお行きなさい!」
ベアトリクスは必死に烏を引きはがそうとするが、烏はルシファーの肩にがっしりと足を食い込ませて威嚇を止めない。
抗議するように鳴き喚く烏は、一通り彼をつつきまわした後、大空へと去っていった。
「いてて……。ったく、ほんとうに暴力的な師匠だな。見ているなら案内してくれよ」
「今の烏はクロエ様と関係があるの?」
治癒魔法で顔や頭にできた小傷を治すルシファーに尋ねると、彼はしかめっ面をしながら答える。
「使い魔の烏だ。名をガロンという。油断していたが、この森には師匠の使い魔がうじゃうじゃいる。今後師匠の陰口を言う時は気を付けろよ?」
「まあ! わたくしはそんなことしませんわ。お邪魔させていただく身分ですし、置いていただけるだけでありがたいもの」
「ははっ。そうだな。ベアトリクスが誰かのことを悪く言うとは思っていない。さあ、先を急ごう。夜までには見つけたい」
「ええ」
ふたりは再び歩き始める。
そして夕暮れ時、陽が沈むのとほとんど同時に、クロエの屋敷を見つけたのであった。
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