ゴミ屋敷令嬢ですが、追放王子を拾ったら溺愛されています!
第四十二話
空を切り裂き背後から飛んできた弓矢。その数は一本だけでなく、次々とベアトリクスの屋敷に降り注いだ。火をまとったそれはみるみるうちにゴミに燃え広がってゆく。
「!?」
反射的に物陰に身を隠す。矢の飛んでくる方を凝視すると、門の外に弓を構えた騎馬隊の姿が見えた。彼らが着用している制服はこの国の騎士団を表すものだ。
「騎士団が? いったいどうしてわたくしの屋敷を……」
その困惑は、一団の先頭で口角を上げる男をみとめて納得に変わる。
「ユリウス殿下だわ!」
ウエーブがかかった黒い髪に、影を帯びた灰色の瞳。蛇を思わせるつり上がった眼差しには怒りの色が浮かんでいた。
興奮する自身の黒馬をいなしながら、彼は勇ましく叫んだ。
「ゴミ屋敷令嬢は我が国の秩序を著しく乱す存在だ! 退去の勧告を幾度も無視したゆえ、強制執行させてもらう! 皆の者、焼き払え!!」
「「はっ!!!!」」
彼の後ろに並ぶ十数名の騎士達が雄叫びを上げ、次々と火矢を打ち放つ。燃料のような匂いのする液体をまく者もいた。
全く覚えのない話にベアトリクスは慌てて柱の影から転がり出る。
「お待ちください! 退去の勧告など聞いておりません!」
「聞いているかいないかといった問題ではないのだ! これはもう決定事項なのだから、お前が口を差し挟むことではない!」
(なんて横暴なの!?)
ベアトリクスは直感していた。これはユリウスの仕返しなのだろうと。退去の通知なんて絶対に来ていないし、ここはベアトリクス――ブルグント伯爵家の土地なのだから、いくら第三王子ユリウスといえど勝手に手を出すことはできないはずである。
「おやめくださいユリウス様! ゴミ屋敷といえど、ここはブルグント伯爵家の土地でございます。両親も困るかと――」
ユリウスの前に進み出たベアトリクスは唇を噛みながら懇願する。
しかし目の前の男は意地悪く口角を上げた。馬上から軽蔑の眼差しで彼女を見下ろし、驚くべきことを口にした。
「安心したまえ。伯爵夫妻には話を通してある」
「えっ……?」
硬直するベアトリクスを鼻で笑い、ユリウスは一際大きな声で号令をかけた。
「跡形もなく焼き尽くせ! ゴミも屋敷も裏手の畑も! 全てだ!!」
敷地内にどかどかと踏み入る騎士たちを前に、ベアトリクスは呆然と立ち尽くしていた。
(父様と母様も承知の上で……)
勘当同然の身ではあるが、実家から嫌がらせを受けたことは無い。放っておいてくれているのは両親なりの情なのではないかとありがたく思っていたのだが、実は自分は憎まれていたのかしらと彼女は少なからずショックを受けた。
先日の一件を受けてからのユリウスの行動は早かった。ルシファーとベアトリクスを逆恨みした彼はブルグント伯爵に圧力をかけて屋敷処分の許可を得、クロエとルシファーが接触するタイミングを狙った。まがりなりにもルシファーの兄であるユリウスは弟の性格を把握していて、きっと師匠を見送りに行くだろうと確信していたからだ。
屋敷を守る結界が切れ、更にベアトリクスがひとりになる、まさにその隙を狙ったのだった。
「やめて! ゴミに触らないで!!」
「うるさい! 汚い手で触るな!!」
「きゃっ」
騎士達に掴みかかるベアトリクスだったが、男性の力でいとも簡単に振り払われる。地面に身体を打ち付け痛みに顔を歪ませた。
涙でぼやける視界には、赤く燃えさかる屋敷が映っていた。
(わたくしの屋敷が……。工場を作るために集めたものや今までの売り上げもすべて……)
ベアトリクスの大切なものは全てこの屋敷に詰まっていた。夢を叶えるために集めた資材、売上金、そしてルシファーと共に過ごした幸せな空間も。
(もうだめだわ……)
自分ひとりに対して相手は騎士団長を含む十数名の騎士。すでに屋敷は火の海で、もはや抵抗が無意味であることは明らかだった。
突然の火事に驚いて様子を見に来た近所の住民たちも、地面に蹲るベアトリクスの姿を見て可哀そうにという視線を向けるだけで、誰一人手を差し伸べる者はいない。高笑いするユリウスの姿を見て逃げるように去っていく。
ベアトリクスはがくりと肩を落とし、絶望するよりほかなかった。
「!?」
反射的に物陰に身を隠す。矢の飛んでくる方を凝視すると、門の外に弓を構えた騎馬隊の姿が見えた。彼らが着用している制服はこの国の騎士団を表すものだ。
「騎士団が? いったいどうしてわたくしの屋敷を……」
その困惑は、一団の先頭で口角を上げる男をみとめて納得に変わる。
「ユリウス殿下だわ!」
ウエーブがかかった黒い髪に、影を帯びた灰色の瞳。蛇を思わせるつり上がった眼差しには怒りの色が浮かんでいた。
興奮する自身の黒馬をいなしながら、彼は勇ましく叫んだ。
「ゴミ屋敷令嬢は我が国の秩序を著しく乱す存在だ! 退去の勧告を幾度も無視したゆえ、強制執行させてもらう! 皆の者、焼き払え!!」
「「はっ!!!!」」
彼の後ろに並ぶ十数名の騎士達が雄叫びを上げ、次々と火矢を打ち放つ。燃料のような匂いのする液体をまく者もいた。
全く覚えのない話にベアトリクスは慌てて柱の影から転がり出る。
「お待ちください! 退去の勧告など聞いておりません!」
「聞いているかいないかといった問題ではないのだ! これはもう決定事項なのだから、お前が口を差し挟むことではない!」
(なんて横暴なの!?)
ベアトリクスは直感していた。これはユリウスの仕返しなのだろうと。退去の通知なんて絶対に来ていないし、ここはベアトリクス――ブルグント伯爵家の土地なのだから、いくら第三王子ユリウスといえど勝手に手を出すことはできないはずである。
「おやめくださいユリウス様! ゴミ屋敷といえど、ここはブルグント伯爵家の土地でございます。両親も困るかと――」
ユリウスの前に進み出たベアトリクスは唇を噛みながら懇願する。
しかし目の前の男は意地悪く口角を上げた。馬上から軽蔑の眼差しで彼女を見下ろし、驚くべきことを口にした。
「安心したまえ。伯爵夫妻には話を通してある」
「えっ……?」
硬直するベアトリクスを鼻で笑い、ユリウスは一際大きな声で号令をかけた。
「跡形もなく焼き尽くせ! ゴミも屋敷も裏手の畑も! 全てだ!!」
敷地内にどかどかと踏み入る騎士たちを前に、ベアトリクスは呆然と立ち尽くしていた。
(父様と母様も承知の上で……)
勘当同然の身ではあるが、実家から嫌がらせを受けたことは無い。放っておいてくれているのは両親なりの情なのではないかとありがたく思っていたのだが、実は自分は憎まれていたのかしらと彼女は少なからずショックを受けた。
先日の一件を受けてからのユリウスの行動は早かった。ルシファーとベアトリクスを逆恨みした彼はブルグント伯爵に圧力をかけて屋敷処分の許可を得、クロエとルシファーが接触するタイミングを狙った。まがりなりにもルシファーの兄であるユリウスは弟の性格を把握していて、きっと師匠を見送りに行くだろうと確信していたからだ。
屋敷を守る結界が切れ、更にベアトリクスがひとりになる、まさにその隙を狙ったのだった。
「やめて! ゴミに触らないで!!」
「うるさい! 汚い手で触るな!!」
「きゃっ」
騎士達に掴みかかるベアトリクスだったが、男性の力でいとも簡単に振り払われる。地面に身体を打ち付け痛みに顔を歪ませた。
涙でぼやける視界には、赤く燃えさかる屋敷が映っていた。
(わたくしの屋敷が……。工場を作るために集めたものや今までの売り上げもすべて……)
ベアトリクスの大切なものは全てこの屋敷に詰まっていた。夢を叶えるために集めた資材、売上金、そしてルシファーと共に過ごした幸せな空間も。
(もうだめだわ……)
自分ひとりに対して相手は騎士団長を含む十数名の騎士。すでに屋敷は火の海で、もはや抵抗が無意味であることは明らかだった。
突然の火事に驚いて様子を見に来た近所の住民たちも、地面に蹲るベアトリクスの姿を見て可哀そうにという視線を向けるだけで、誰一人手を差し伸べる者はいない。高笑いするユリウスの姿を見て逃げるように去っていく。
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