ゴミ屋敷令嬢ですが、追放王子を拾ったら溺愛されています!
第三十九話
ユリウスとて鍛え上げられた騎士だ。ハイキックをもろに食らうことはなかったが、ものすごいスピードで死角から飛んできたものだから、のけ反って避ける際にピンヒールの先で頬を切った。
痛みを感じたところを押さえてみると、指に赤いものが付いた。
「……ほう」
不敵に笑うユリウス。一方で、カロリナとルシファーは表情を失い石のように固くなっている。
ベアトリクスは目を細めて優雅に微笑む。歪められた口元には壮絶な色気が漂っていた。
「ユリウス殿下、ごめんあそばせ。ゴミなどとおっしゃったものですから、反射的に体が動いてしまいましたわ。ああ、わたくしはベアトリクス・フォン・ブルグントと申します。しかしながら実家とはほぼ縁が切れておりますから、只今の責任はわたくし一人で負わせていただきたく」
「――ゴミ屋敷令嬢風情が。わたしに傷を付けるとは、どういうことか知らないようだな」
一気に殺気を膨らませるユリウス。ただでさえ窮屈そうな筋肉がぶわっと盛り上がり、騎士服のボタンが一つ二つ弾け飛び、ティーカップの中にぽちゃんと落下する。
通常の令嬢であれば気を失うような恐ろしい圧力にもベアトリクスは一歩も引かない。好戦的な表情を浮かべて言い返す。
「もちろん不敬は承知しておりますわ。しかしながら、いくつか訂正させてくださいませ。わたくしの命と引き換えに」
「面白い。命と引き換えの意見か、述べてみよ」
「お、おい。おまえたちは何を言ってるんだ」
ようやく我に返ったルシファーが慌てて彼女とユリウスの間に入る。
ユリウスは狡猾で残虐な男だ。自分に盾突く者であれば女子供であっても厳しい処分を下す奴である。ほんとうに殺されてしまうかもしれない。
しかしその肩を押し出してベアトリクスはずいと前に出た。
「まずですね。ルシファーはゴミではありません。あ、いえ、ゴミだと勘違いして拾いましたけれど、ゴミではありません」
「ややこしいな」
思わずツッコミを入れるルシファー。しかし彼女は聞こえていないかのように続ける。
「ルシファーは優しくて聡明なお方ですわ。ゴミ屋敷令嬢となったわたくしを差別することなく、善き同居人として日々接してくださいます。最初こそ少々ひねたところがありましたが、性根は優しくてお強くて、とても素敵な方なのですわ」
凛とした態度で言い切るベアトリクス。
しかしユリウスはにやりと面白そうに笑った。
「ルシファー。お前、ゴミ屋敷令嬢と住んでいるのか? ずいぶんと落ちぶれたものだ。そこまでして王都に未練があるのだと思うと、なんだか追放したことが可哀想に思えてくるな」
「おい。俺のことはいいが、ベアトリクス嬢を悪く言うことは許さない」
「それと、居場所がないという件ですけれど。それも間違っております」
まるっきりルシファーの言うことを無視してベアトリクスは続ける。
青い瞳が爛々と輝き、まるでユリウスを見下すかのように目を細めた。
「ルシファーは有能です。仮の住まいとしてわたくしの屋敷で過ごしておりますが、剣と魔法に長けており、どこに行っても活躍できますわ。そこに気づけない王族方のほうがお可哀想だと思いますわ」
「ちょっと、ベアトリクス様!」
最後の一言に、カロリナは口元に手を当てて顔色を悪くした。
第三王子に怪我をさせたうえ、他の王族を含む不敬な発言。直ちに斬り捨てられてもおかしくない状況である。
「カロリナ様、すみません。ご婚約者様のことを悪く言ってしまいました」
「そ、そんなこと……っ」
気にしないでと言いたいのに、声が小さくしぼんでいく。
カロリナとて馬鹿ではない。ユリウスの性格が悪いのは十分把握しているし、ルシファーが有能であることは知っている。しかし立場上ユリウス側に付かねばならないのだ。
友の立場を理解しているベアトリクスは再びユリウスと対峙する。
彼は額にぴくぴくと青筋を立てていた。そして腰に佩いた大剣に手をかけ、腹の底から唸った。
「言いたいことはそれだけか、ゴミ屋敷令嬢ッ!!」
ベアトリクスの返事を待つことなくユリウスは剣を振りかぶった。
「ちっ!!」
面倒ごとは御免だと思っていたルシファーだったが、こうなっては仕方がない。応戦しようと魔法を起動させたそのとき――。
銀色の髪と白い冒険者服が翻り、金属と金属がぶつかり合う音が鼓膜を震わせた。
痛みを感じたところを押さえてみると、指に赤いものが付いた。
「……ほう」
不敵に笑うユリウス。一方で、カロリナとルシファーは表情を失い石のように固くなっている。
ベアトリクスは目を細めて優雅に微笑む。歪められた口元には壮絶な色気が漂っていた。
「ユリウス殿下、ごめんあそばせ。ゴミなどとおっしゃったものですから、反射的に体が動いてしまいましたわ。ああ、わたくしはベアトリクス・フォン・ブルグントと申します。しかしながら実家とはほぼ縁が切れておりますから、只今の責任はわたくし一人で負わせていただきたく」
「――ゴミ屋敷令嬢風情が。わたしに傷を付けるとは、どういうことか知らないようだな」
一気に殺気を膨らませるユリウス。ただでさえ窮屈そうな筋肉がぶわっと盛り上がり、騎士服のボタンが一つ二つ弾け飛び、ティーカップの中にぽちゃんと落下する。
通常の令嬢であれば気を失うような恐ろしい圧力にもベアトリクスは一歩も引かない。好戦的な表情を浮かべて言い返す。
「もちろん不敬は承知しておりますわ。しかしながら、いくつか訂正させてくださいませ。わたくしの命と引き換えに」
「面白い。命と引き換えの意見か、述べてみよ」
「お、おい。おまえたちは何を言ってるんだ」
ようやく我に返ったルシファーが慌てて彼女とユリウスの間に入る。
ユリウスは狡猾で残虐な男だ。自分に盾突く者であれば女子供であっても厳しい処分を下す奴である。ほんとうに殺されてしまうかもしれない。
しかしその肩を押し出してベアトリクスはずいと前に出た。
「まずですね。ルシファーはゴミではありません。あ、いえ、ゴミだと勘違いして拾いましたけれど、ゴミではありません」
「ややこしいな」
思わずツッコミを入れるルシファー。しかし彼女は聞こえていないかのように続ける。
「ルシファーは優しくて聡明なお方ですわ。ゴミ屋敷令嬢となったわたくしを差別することなく、善き同居人として日々接してくださいます。最初こそ少々ひねたところがありましたが、性根は優しくてお強くて、とても素敵な方なのですわ」
凛とした態度で言い切るベアトリクス。
しかしユリウスはにやりと面白そうに笑った。
「ルシファー。お前、ゴミ屋敷令嬢と住んでいるのか? ずいぶんと落ちぶれたものだ。そこまでして王都に未練があるのだと思うと、なんだか追放したことが可哀想に思えてくるな」
「おい。俺のことはいいが、ベアトリクス嬢を悪く言うことは許さない」
「それと、居場所がないという件ですけれど。それも間違っております」
まるっきりルシファーの言うことを無視してベアトリクスは続ける。
青い瞳が爛々と輝き、まるでユリウスを見下すかのように目を細めた。
「ルシファーは有能です。仮の住まいとしてわたくしの屋敷で過ごしておりますが、剣と魔法に長けており、どこに行っても活躍できますわ。そこに気づけない王族方のほうがお可哀想だと思いますわ」
「ちょっと、ベアトリクス様!」
最後の一言に、カロリナは口元に手を当てて顔色を悪くした。
第三王子に怪我をさせたうえ、他の王族を含む不敬な発言。直ちに斬り捨てられてもおかしくない状況である。
「カロリナ様、すみません。ご婚約者様のことを悪く言ってしまいました」
「そ、そんなこと……っ」
気にしないでと言いたいのに、声が小さくしぼんでいく。
カロリナとて馬鹿ではない。ユリウスの性格が悪いのは十分把握しているし、ルシファーが有能であることは知っている。しかし立場上ユリウス側に付かねばならないのだ。
友の立場を理解しているベアトリクスは再びユリウスと対峙する。
彼は額にぴくぴくと青筋を立てていた。そして腰に佩いた大剣に手をかけ、腹の底から唸った。
「言いたいことはそれだけか、ゴミ屋敷令嬢ッ!!」
ベアトリクスの返事を待つことなくユリウスは剣を振りかぶった。
「ちっ!!」
面倒ごとは御免だと思っていたルシファーだったが、こうなっては仕方がない。応戦しようと魔法を起動させたそのとき――。
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