ゴミ屋敷令嬢ですが、追放王子を拾ったら溺愛されています!
第二十八話
「……えっ?」
真摯な紫色の視線にベアトリクスは縫い留められる。
「この話の後に言うのはずるいかもしれない。……でも、おまえなら許してくれるだろう?」
ルシファーはそっと彼女の頬に手を添え、じわじわと顔を近づける。
一方のベアトリクスはびくりと身を固くし、焦ったように目線を逸らす。
「そっ、それはずるいですわ。わたくしだって、許せることとそうでないことが――」
「では、俺のことは嫌い?」
「そういうわけではないですけれどっ……!」
吐息を感じる距離まで美しく整った鼻筋が迫る。とうとうベアトリクスはぎゅっと目をつむり下を向いてしまった。
そのままぷるぷると震えていると、ふっと優しく笑う音が聞こえ、彼の気配が遠ざかる。
「すまない、意地悪をした。ひとまず俺は元の姿に戻らないと、おまえにとって男には見えないだろう」
「…………」
「色々と方法を考えてみるつもりだ。それまで格好はつかないが、今日のようにできることはさせてほしい」
彼の穏やかな声色を受けて、恐々と目を開ける。
「今日のように……?」
「ああ。朝食は俺が作るし、できるときはゴミ拾いも手伝おう。時間ができたら食事に連れて行きたいし、共に様々な景色も見てみたい」
「わ、わたくしは今までのような日常が送れるだけで満足しておりますわ」
「そうだろうな。おまえはそういう考えだろうな」
でも、と言って彼はベアトリクスの白い手を取る。
「――好きな女性に尽くしたいと思う、俺の我儘を聞いてくれ。このような気持ちになったのは初めてなんだ」
そうして柔らかな肌に唇を落とした。
ベアトリクスは思わず小さな悲鳴を上げ、ボンッと音を立てて首から頭までを真っ赤に染め上げた。
ルシファーはそのまま上目遣いで小悪魔的な笑みを浮かべたのち、ゆっくりと顔を離す。
「では、そろそろ帰ろうか。市場に寄って夕食の材料を買っていこう」
さっと立ち上がり、彼は紳士な表情で腕を差し出す。下山のエスコートをしてくれるようだ。
(なっ! この切り替えの早さは何ですの!? わたくしばかりドキドキさせられて、なんだか悔しいですわっ!)
ありがたく腕を取りながらもベアトリクスは頬を膨らませる。
普段はあまり意識しないけれど、ふとした時にルシファーは三つ年上の男性なのだということを思い知る。今日のように丁寧な扱いを受けたり、守られたり、甘い表情を向けられると、どうにも胸が高鳴ってしまうのだ。
手のひらから伝わってくる温かさを感じて、きゅんと胸の奥が締め付けられた。
(わたくしは、ルシファーのことが好きなのだわ)
ベアトリクスは自身の気持ちを正しく理解していた。けれども彼が元王子だと知り、自分の気持ちを伝えることは正しいのだろうかと迷いが生じた。
(星の市の夜にも、こんな気持ちになったわね)
ルシファーは元とはいえ高貴な身分だ。能力も優秀で、いずれは魔法を極める道に進むのだろう。そのパートナーがゴミ屋敷令嬢と呼ばれる自分でよいのかと。
(彼はきっとわたくしを守って大切にしてくれるわ。けれども、その優しさに甘えるような自分でいたくない)
「――ベアトリクス? 眉間に皺を寄せてどうしたんだ。疲れたか?」
「あっ、いえ。なんでもありませんわ。まだまだ歩けますからご心配なく」
心配そうな表情のルシファーに、うふふと作り笑いで応えるベアトリクス。
この話はまたあとでゆっくり考えようと心に決め、彼と家路についたのだった。
真摯な紫色の視線にベアトリクスは縫い留められる。
「この話の後に言うのはずるいかもしれない。……でも、おまえなら許してくれるだろう?」
ルシファーはそっと彼女の頬に手を添え、じわじわと顔を近づける。
一方のベアトリクスはびくりと身を固くし、焦ったように目線を逸らす。
「そっ、それはずるいですわ。わたくしだって、許せることとそうでないことが――」
「では、俺のことは嫌い?」
「そういうわけではないですけれどっ……!」
吐息を感じる距離まで美しく整った鼻筋が迫る。とうとうベアトリクスはぎゅっと目をつむり下を向いてしまった。
そのままぷるぷると震えていると、ふっと優しく笑う音が聞こえ、彼の気配が遠ざかる。
「すまない、意地悪をした。ひとまず俺は元の姿に戻らないと、おまえにとって男には見えないだろう」
「…………」
「色々と方法を考えてみるつもりだ。それまで格好はつかないが、今日のようにできることはさせてほしい」
彼の穏やかな声色を受けて、恐々と目を開ける。
「今日のように……?」
「ああ。朝食は俺が作るし、できるときはゴミ拾いも手伝おう。時間ができたら食事に連れて行きたいし、共に様々な景色も見てみたい」
「わ、わたくしは今までのような日常が送れるだけで満足しておりますわ」
「そうだろうな。おまえはそういう考えだろうな」
でも、と言って彼はベアトリクスの白い手を取る。
「――好きな女性に尽くしたいと思う、俺の我儘を聞いてくれ。このような気持ちになったのは初めてなんだ」
そうして柔らかな肌に唇を落とした。
ベアトリクスは思わず小さな悲鳴を上げ、ボンッと音を立てて首から頭までを真っ赤に染め上げた。
ルシファーはそのまま上目遣いで小悪魔的な笑みを浮かべたのち、ゆっくりと顔を離す。
「では、そろそろ帰ろうか。市場に寄って夕食の材料を買っていこう」
さっと立ち上がり、彼は紳士な表情で腕を差し出す。下山のエスコートをしてくれるようだ。
(なっ! この切り替えの早さは何ですの!? わたくしばかりドキドキさせられて、なんだか悔しいですわっ!)
ありがたく腕を取りながらもベアトリクスは頬を膨らませる。
普段はあまり意識しないけれど、ふとした時にルシファーは三つ年上の男性なのだということを思い知る。今日のように丁寧な扱いを受けたり、守られたり、甘い表情を向けられると、どうにも胸が高鳴ってしまうのだ。
手のひらから伝わってくる温かさを感じて、きゅんと胸の奥が締め付けられた。
(わたくしは、ルシファーのことが好きなのだわ)
ベアトリクスは自身の気持ちを正しく理解していた。けれども彼が元王子だと知り、自分の気持ちを伝えることは正しいのだろうかと迷いが生じた。
(星の市の夜にも、こんな気持ちになったわね)
ルシファーは元とはいえ高貴な身分だ。能力も優秀で、いずれは魔法を極める道に進むのだろう。そのパートナーがゴミ屋敷令嬢と呼ばれる自分でよいのかと。
(彼はきっとわたくしを守って大切にしてくれるわ。けれども、その優しさに甘えるような自分でいたくない)
「――ベアトリクス? 眉間に皺を寄せてどうしたんだ。疲れたか?」
「あっ、いえ。なんでもありませんわ。まだまだ歩けますからご心配なく」
心配そうな表情のルシファーに、うふふと作り笑いで応えるベアトリクス。
この話はまたあとでゆっくり考えようと心に決め、彼と家路についたのだった。
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