ゴミ屋敷令嬢ですが、追放王子を拾ったら溺愛されています!
第二十五話
いつもの朝、いつもの一日の始まり。
特別な用事なんて何もないのに、起床したベアトリクスの気持ちはどこか高揚していた。
窓から差し込むきらきらとした陽を浴びながら、両腕を天に突き上げて思いっきり伸びをする。
「素敵な朝ね。だんだん気温が下がって過ごしやすくなってきているし、そろそろ季節が変わるのかしら」
冬支度の需要に備えて毛布や厚手の衣類を店頭に運ばなきゃねと考えながら、着替えをするためにクローゼットを開く。
ふわりと石鹸の香りが漂い、吊り下げられた色とりどりのドレスたちを眺める。
「……今日はこれにしようかしら」
手に取ったのは先日買ったばかりの新しいドレス。落ち着いた紫色の生地に、控えめながら品の良さを感じるフリルがあしらわれたものだ。袖や裾はふわりと広がるものではなく適度に絞りが入っているため、ゴミ拾いの妨げにならないところも気に入っている。
ベアトリクスは自身の装いについてこだわりはないが、伯爵令嬢としての品位や清潔感の維持には人一倍気を使っていた。よって、定期的に新品のドレスを購入しているのである。
「合わせる髪飾りは……たまには黒でも?」
鏡台の引き出しから黒翡翠のバレッタを手に取る。
黒とグレーのマーブル模様で、蝶の形をしている。ベアトリクスの豊かな金髪に合わせると、紫色のドレスと相まって一層上品な雰囲気を引き立てた。
身支度を済ませ、足取りも軽く厨房へ向かう。
すると、そこにはすでにルシファーの姿があった。そして、その前にはなぜか湯気の立ちのぼる鍋とソーセージを焼いているフライパンがある。
我が目を疑い固まっていると、エプロンを着けた少年が気配を察して振り返る。
「おはよう。今、食事を出すから座っていてくれ」
「えっ? ルシファーが作ってくださるの??」
聞き間違えだろうと思ったけれども、その問いはすぐさま肯定される。
「ああ。いつも作ってもらってばかりだからな。料理の経験はないが、おまえが作るところを見ていたから、同じようなものであれば提供できる」
得意気に言ってのけたルシファーは手際よくソーセージを皿に移していく。その横にちょうどよい焼き加減の目玉焼きを乗せ、戸惑うベアトリクスの目の前に置いた。
「ルシファーが食事を作ってくださるなんて、どういう風の吹き回しなのかしら。嬉しいけれど、なんだか申し訳ないわ」
「いいから食え。俺も色々考えたんだ」
配膳を終えた彼はふと気が付く。
「それよりベアトリクス。今日はいつもと雰囲気が違うな」
「ええ、たまにはこのような装いもしてみようかと」
ルシファーは紫色のドレスと黒いバレッタを交互に眺めたのち頬を緩ませた。
「俺と同じ色だ。よく似合っている」
「えっ!!」
ポツリと呟くような声量だったにもかかわらず、しっかり聞こえてしまったベアトリクスはナイフを取り落とす。
「ぐっ、偶然ですわ! ほんとうにたまたまですの!!」
言われてみれば確かにそうだ。紫はルシファーの瞳の色だし、黒は彼の髪の色。ほんとうに偶然の一致なのだけれど、わざと合わせたように思われても仕方のない組み合わせかもしれない。
慌てて否定するけれど、かえってそれが怪しいような気がして、ベアトリクスは顔を真っ赤に染め上げた。
ルシファーはふうと一つ息を吐き、どこか残念そうに首を振る。
「それはもちろんそうだろう。俺の色に合わせる理由なんておまえにはないからな。分かっている」
「ご、ご理解いただけて何よりですわっ」
恥ずかしさを誤魔化すようにベアトリクスは食事に集中し始めた。
しかし調理台に寄り掛かって腕を組むルシファーは、追い打ちをかけるように口を開く。
「だが、美しいというのは本音だ。俺は無駄な世辞など言わない主義だ」
「ぶっ!!」
思わず飲んでいたスープを吹き出してしまった。伯爵令嬢として厳しく躾られてきた彼女らしからぬ粗相である。
(先ほどから一体どうしてしまったの? この間のミカエル様とのやり合いで変な所でも打ったのかしら?)
星の市があった日の深夜、それなりに傷を負ったルシファーが帰ってきたけれど、自ら治癒魔法で治していたから大丈夫だと思っていた。念のため今からでも救護院に連れて行くべきだろうか。
げほげほとむせるベアトリクスに、ルシファーは機嫌よくミルクの入ったコップを差し出す。
「それと、今日は俺もゴミ拾いに着いて行く。店はあの暇人に任せたから大丈夫だ」
「ひ、暇人?」
「ミカエルだ。あいつはこの間の勝負で負けたから、要はその罰だな」
にやりと悪い笑みを浮かべるルシファーに、ベアトリクスは一体二人の間でどのような取引が行われたのだろうかと不思議に思うのだった。
特別な用事なんて何もないのに、起床したベアトリクスの気持ちはどこか高揚していた。
窓から差し込むきらきらとした陽を浴びながら、両腕を天に突き上げて思いっきり伸びをする。
「素敵な朝ね。だんだん気温が下がって過ごしやすくなってきているし、そろそろ季節が変わるのかしら」
冬支度の需要に備えて毛布や厚手の衣類を店頭に運ばなきゃねと考えながら、着替えをするためにクローゼットを開く。
ふわりと石鹸の香りが漂い、吊り下げられた色とりどりのドレスたちを眺める。
「……今日はこれにしようかしら」
手に取ったのは先日買ったばかりの新しいドレス。落ち着いた紫色の生地に、控えめながら品の良さを感じるフリルがあしらわれたものだ。袖や裾はふわりと広がるものではなく適度に絞りが入っているため、ゴミ拾いの妨げにならないところも気に入っている。
ベアトリクスは自身の装いについてこだわりはないが、伯爵令嬢としての品位や清潔感の維持には人一倍気を使っていた。よって、定期的に新品のドレスを購入しているのである。
「合わせる髪飾りは……たまには黒でも?」
鏡台の引き出しから黒翡翠のバレッタを手に取る。
黒とグレーのマーブル模様で、蝶の形をしている。ベアトリクスの豊かな金髪に合わせると、紫色のドレスと相まって一層上品な雰囲気を引き立てた。
身支度を済ませ、足取りも軽く厨房へ向かう。
すると、そこにはすでにルシファーの姿があった。そして、その前にはなぜか湯気の立ちのぼる鍋とソーセージを焼いているフライパンがある。
我が目を疑い固まっていると、エプロンを着けた少年が気配を察して振り返る。
「おはよう。今、食事を出すから座っていてくれ」
「えっ? ルシファーが作ってくださるの??」
聞き間違えだろうと思ったけれども、その問いはすぐさま肯定される。
「ああ。いつも作ってもらってばかりだからな。料理の経験はないが、おまえが作るところを見ていたから、同じようなものであれば提供できる」
得意気に言ってのけたルシファーは手際よくソーセージを皿に移していく。その横にちょうどよい焼き加減の目玉焼きを乗せ、戸惑うベアトリクスの目の前に置いた。
「ルシファーが食事を作ってくださるなんて、どういう風の吹き回しなのかしら。嬉しいけれど、なんだか申し訳ないわ」
「いいから食え。俺も色々考えたんだ」
配膳を終えた彼はふと気が付く。
「それよりベアトリクス。今日はいつもと雰囲気が違うな」
「ええ、たまにはこのような装いもしてみようかと」
ルシファーは紫色のドレスと黒いバレッタを交互に眺めたのち頬を緩ませた。
「俺と同じ色だ。よく似合っている」
「えっ!!」
ポツリと呟くような声量だったにもかかわらず、しっかり聞こえてしまったベアトリクスはナイフを取り落とす。
「ぐっ、偶然ですわ! ほんとうにたまたまですの!!」
言われてみれば確かにそうだ。紫はルシファーの瞳の色だし、黒は彼の髪の色。ほんとうに偶然の一致なのだけれど、わざと合わせたように思われても仕方のない組み合わせかもしれない。
慌てて否定するけれど、かえってそれが怪しいような気がして、ベアトリクスは顔を真っ赤に染め上げた。
ルシファーはふうと一つ息を吐き、どこか残念そうに首を振る。
「それはもちろんそうだろう。俺の色に合わせる理由なんておまえにはないからな。分かっている」
「ご、ご理解いただけて何よりですわっ」
恥ずかしさを誤魔化すようにベアトリクスは食事に集中し始めた。
しかし調理台に寄り掛かって腕を組むルシファーは、追い打ちをかけるように口を開く。
「だが、美しいというのは本音だ。俺は無駄な世辞など言わない主義だ」
「ぶっ!!」
思わず飲んでいたスープを吹き出してしまった。伯爵令嬢として厳しく躾られてきた彼女らしからぬ粗相である。
(先ほどから一体どうしてしまったの? この間のミカエル様とのやり合いで変な所でも打ったのかしら?)
星の市があった日の深夜、それなりに傷を負ったルシファーが帰ってきたけれど、自ら治癒魔法で治していたから大丈夫だと思っていた。念のため今からでも救護院に連れて行くべきだろうか。
げほげほとむせるベアトリクスに、ルシファーは機嫌よくミルクの入ったコップを差し出す。
「それと、今日は俺もゴミ拾いに着いて行く。店はあの暇人に任せたから大丈夫だ」
「ひ、暇人?」
「ミカエルだ。あいつはこの間の勝負で負けたから、要はその罰だな」
にやりと悪い笑みを浮かべるルシファーに、ベアトリクスは一体二人の間でどのような取引が行われたのだろうかと不思議に思うのだった。
「恋愛」の人気作品
書籍化作品
-
-
5
-
-
52
-
-
337
-
-
1
-
-
40
-
-
239
-
-
0
-
-
1512
-
-
124
コメント