ゴミ屋敷令嬢ですが、追放王子を拾ったら溺愛されています!
〈閑話〉SS級冒険者ミカエル(前)
SS級冒険者ミカエル。
その力量は一騎当千、不撓不屈の精神でどんな敵もなぎ倒す国民的冒険者である。
貧しい平民の家に生まれ、弟たちを養うために若くして冒険者ギルドに登録。叩き上げで成り上がってきた彼は、涼やかな雰囲気とは裏腹に、裏社会では有名な遊び人だった。
クエストが終わると昂りを抑えるために歓楽街へ向かう。派手な女たちを侍らせて、酒や宴やと豪遊するのが常だった。
金と名誉――誰もがうらやむそれらを手に入れたミカエル。
しかし、何もかもを手に入れたあとの毎日は、かつて憧れていたほど良いものではなかった。
『同じことの繰り返しですね。――つまらない』
クエストをこなし、女と酒に溺れる。好きでしていたときの気持ちは薄れ、半ば業務であるかのようにこなすようになった。
強くなりすぎたミカエルは、新しい刺激に飢えていたのだった。
彼が転機を迎えたのは、何の変哲もないある明け方だった。
黒竜討伐という特大クエストを終え、いつものように飲み明かした朝。帰宅しようと酒瓶と酔っ払いが転がる汚い裏通りを歩いていると、この風景に似つかわしくないものが目に入った。
『令嬢? なぜこんなところに』
艶のある金髪に清潔なドレス。裾からのぞく細い足首は、どう見ても貴族令嬢だ。
腰をかがめて一心不乱に何かを拾っているその姿は違和感しかなかった。
『朝四時、王都の歓楽街。貴族令嬢がいるのはおかしいですね』
何か困っているのだろうか。
ミカエルはよそ行きの顔を張り付けて彼女に声をかけた。
『ご令嬢。どうされましたか? わたしは冒険者のミカエルと言います。何かお困りでしたら力になりましょう』
ぱっと顔を上げる令嬢。青く澄んだ瞳がミカエルの目を捉える。そして彼の身体を素早く視線が上下した。
『ごきげんよう、ミカエル様。……もしかして、SS級冒険者のミカエル様でしょうか』
『そうですが……』
国民的冒険者のミカエルは有名人だ。こちらが知らなくても、相手は自分を知っているという状況は多い。
ベアトリクスはあまり世間に詳しくないが、それでもその名はよく聞き及んでいた。 有名人に会えた彼女は目を輝かせ、両手を胸の前で組み合わせる。
『お会いできて光栄ですわ! わたくしはブルグント伯爵が娘、ベアトリクスと申します。握手していただいても?』
『もちろんです、ベアトリクス様』
ベアトリクスはハンカチで手をごしごしと拭き、差し出された男らしい手を握った。そしてきゃーっと目を細め、興奮したように顔を赤らめた。
その様子を見て、ミカエルはすうっと心が冷めていく。
街を歩けば女性に声を掛けられ、熱っぽい目で身体を上から下まで眺められる。筋肉を触らせてくれだの、今夜は空いていますかだの、女とはこうもうるさいのかと嫌気がさしていたのだ。
その点裏社会の女は割り切った付き合いができるから楽でいい。素人は御免だ。
最早この令嬢が何をしていたのかなど、どうでもよくなってきたミカエル。
早く家に帰ってひと眠りしたい。興ざめしたこともあり、この場を切り上げることにした。
『お会いできてよかったです、ベアトリクス様。それではまた』
『はい! これからも応援しております!』
長い足で機敏に方向転換をするミカエル。左手に持っていた煙草を放り、ポケットに手を入れて家路につく。
――はずだった。
その力量は一騎当千、不撓不屈の精神でどんな敵もなぎ倒す国民的冒険者である。
貧しい平民の家に生まれ、弟たちを養うために若くして冒険者ギルドに登録。叩き上げで成り上がってきた彼は、涼やかな雰囲気とは裏腹に、裏社会では有名な遊び人だった。
クエストが終わると昂りを抑えるために歓楽街へ向かう。派手な女たちを侍らせて、酒や宴やと豪遊するのが常だった。
金と名誉――誰もがうらやむそれらを手に入れたミカエル。
しかし、何もかもを手に入れたあとの毎日は、かつて憧れていたほど良いものではなかった。
『同じことの繰り返しですね。――つまらない』
クエストをこなし、女と酒に溺れる。好きでしていたときの気持ちは薄れ、半ば業務であるかのようにこなすようになった。
強くなりすぎたミカエルは、新しい刺激に飢えていたのだった。
彼が転機を迎えたのは、何の変哲もないある明け方だった。
黒竜討伐という特大クエストを終え、いつものように飲み明かした朝。帰宅しようと酒瓶と酔っ払いが転がる汚い裏通りを歩いていると、この風景に似つかわしくないものが目に入った。
『令嬢? なぜこんなところに』
艶のある金髪に清潔なドレス。裾からのぞく細い足首は、どう見ても貴族令嬢だ。
腰をかがめて一心不乱に何かを拾っているその姿は違和感しかなかった。
『朝四時、王都の歓楽街。貴族令嬢がいるのはおかしいですね』
何か困っているのだろうか。
ミカエルはよそ行きの顔を張り付けて彼女に声をかけた。
『ご令嬢。どうされましたか? わたしは冒険者のミカエルと言います。何かお困りでしたら力になりましょう』
ぱっと顔を上げる令嬢。青く澄んだ瞳がミカエルの目を捉える。そして彼の身体を素早く視線が上下した。
『ごきげんよう、ミカエル様。……もしかして、SS級冒険者のミカエル様でしょうか』
『そうですが……』
国民的冒険者のミカエルは有名人だ。こちらが知らなくても、相手は自分を知っているという状況は多い。
ベアトリクスはあまり世間に詳しくないが、それでもその名はよく聞き及んでいた。 有名人に会えた彼女は目を輝かせ、両手を胸の前で組み合わせる。
『お会いできて光栄ですわ! わたくしはブルグント伯爵が娘、ベアトリクスと申します。握手していただいても?』
『もちろんです、ベアトリクス様』
ベアトリクスはハンカチで手をごしごしと拭き、差し出された男らしい手を握った。そしてきゃーっと目を細め、興奮したように顔を赤らめた。
その様子を見て、ミカエルはすうっと心が冷めていく。
街を歩けば女性に声を掛けられ、熱っぽい目で身体を上から下まで眺められる。筋肉を触らせてくれだの、今夜は空いていますかだの、女とはこうもうるさいのかと嫌気がさしていたのだ。
その点裏社会の女は割り切った付き合いができるから楽でいい。素人は御免だ。
最早この令嬢が何をしていたのかなど、どうでもよくなってきたミカエル。
早く家に帰ってひと眠りしたい。興ざめしたこともあり、この場を切り上げることにした。
『お会いできてよかったです、ベアトリクス様。それではまた』
『はい! これからも応援しております!』
長い足で機敏に方向転換をするミカエル。左手に持っていた煙草を放り、ポケットに手を入れて家路につく。
――はずだった。
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