ゴミ屋敷令嬢ですが、追放王子を拾ったら溺愛されています!
第十一話
ゴミ屋敷令嬢とひねくれ王子の奇妙な同居生活は続く。
ルシファーが拾われてから1か月ほどが経過していた。
(……そろそろ働くか。年下の令嬢にタダで寝食世話になるなんて、よく考えたら無様じゃないか)
今更気が付いたルシファーは、ある日の朝食の席で「リサイクルショップの仕事を教えろ」と高慢に言い放った。
ベアトリクスはその可愛らしい姿にくすくす笑いそうになるのを必死でこらえて、「もちろんですわ。じゃあ、さっそく今日行きましょうか」と応じた。
◇
ベアトリクスのリサイクルショップは平民街の中心部にあった。先日見かけた冒険者ギルドと目と鼻の先にある位置だ。
「ギルド関係のお客様が多いから、多少家賃はかさむけどここを借りているの」
白色の石材でできた、小綺麗な建物の一階だ。住居兼倉庫のゴミ屋敷とはまるで正反対の、〝ちゃんとした″店である。
「ここはちゃんとした店だな」
「もう、ルシファーったら! 心の声が聞こえていますわよ」
中に入ると、木製の棚に様々な商品が並び、壁沿いのハンガーには衣類が掛かっている。天井にはいくつもの照明器具が下がっていて、あれも売り物なのだろう。店の奥にカウンターと椅子があり、そこで店番をするようにとのことだった。
「仕事はお会計と商品を探すお手伝いがメインよ。……あ、今更だけど、ルシファーは読み書きや計算はできるのかしら?」
「当たり前だろ。馬鹿にしてるのか」
「すまないわね。馬鹿にしているつもりは一切ないのだけれど、できない子も多いのよ。ほら、この国は腕っぷしが正義でしょう? 勉強は重視されていないのよ。平民なら尚更ね」
その言葉にルシファーははっとする。確かにそうだ、と。
(俺は魔法を操るために学問を納めたけど、兄貴たちはその時間に鍛錬をしていたな)
学が無くても強くなれる。屈強な肉体の維持こそが最重要課題だ。それが父王を始めとしたグラディウス王国の在り方なのだ。事実、ともに戦争に出た騎士団の連中は簡単な計算すらできない者も多かった。
(我が国は、これでいいのだろうか)
他国からは『脳筋国』と揶揄されることも多いグラディウス。さまざまな書物に触れて積極的に技術を取り入れている近隣国からは、かなりの遅れを取っていると言わざるを得ない。
「――まあ、そういうわけだから。じゃあよろしくね」
「おまえはどこに行くんだ」
「もちろんゴミ拾いよ。拾ったら分別して、綺麗にして、売れる状態にしなきゃいけないもの。あなたのおかげで使える時間が増えたわ。ありがとうね!」
ベアトリクスはルシファーをぎゅっと抱きしめる。彼の頬にむにゅっと柔らかいものが触れた。
(――――!!!!)
「おい! やめろ! 子ども扱いするな!!」
「だって子どもじゃない。あなたはまだ10歳そこらでしょう」
慌てて彼女の腕から脱出するルシファーと、不服そうなベアトリクス。
(っ、くそ! どうしたらいい? 俺は子供なんかじゃない。二十一歳だぞ!)
子供向けのスキンシップを取られると非常に困る。何とも思っていない相手だからこそ、どことなく罪悪感を持ってしまうのだ。
そして、彼女の行動にいちいちドキドキしてしまう自分も嫌だった。
「まあいいわ。じゃ、あとはお願いね」
ベアトリクスは働くことが楽しくてたまらないといった様子で、軽やかな足取りで店を出ていった。
◇
リサイクルショップには次々と客が訪れた。
そのたびにルシファーは「おや。君がベアトリクス様に拾われた少年か」「あんた、名前はなんていうの?」「ずいぶん綺麗な見た目だねえ! 宝石みたいな目の色だ」などと声を掛けられた。
(あいつはずいぶん街に馴染んでいるんだな)
ベアトリクスの弟分だから話し掛けてみよう、という雰囲気が伝わってくるからだ。
そしてルシファーも、これは仕事なのだからと、普段の不愛想な態度ではなく丁寧に受け答えをした。
(あいつが頑張って築いたものを俺が壊しちゃ悪いからな)
途切れることなくやってくる客に対応し続け、夕方営業を終えるころには、ルシファーはくたくたになっていた。
しかし、身体は疲れていても心はすっきりとして軽かった。
客から「ありがとうな」「また来るよ」「あなたの接客、よかったわ!」と声を掛けられたことが嬉しかった。これまでの人生、笑顔で感謝されたことなどなかったからだ。ルシファーが役に立つことをしたり、戦果をあげても、当然だという目でしか見られなかったから。
しっかりと戸締りをして店を後にする。
茜色に染まる石畳を歩いて屋敷に戻ると、ちょうどベアトリクスも帰ってきたところだった。
「ルシファー。おかえりなさい! 一日大丈夫だった?」
「ああ、問題なかった」
野菜スープとパン、ソーセージを食べ、楽しげに今日はどんなゴミを拾ったかという話をするベアトリクス。ルシファーはいつも黙って聞いているだけだが、悪くない心地だった。
◇
湯あみを済ませ、ベッドに入るルシファー。明日も朝から店番だと、自分でも無意識のうちに気合を入れる。
――と、ドアがノックされた。
「ルシファー。入っていい?」
「どうしたんだ?」
もう二十時過ぎだ。規則正しい生活をしているベアトリクスも、いつもこのくらいに寝ているはずだが。急用だろうか?
ベッドから出てドアを開けたルシファーはぎくりと身をこわばらせた。
「ちょっ、おまえ! その格好はなんだ!」
「ごめんなさい。……一緒に寝てもいい?」
目の前にいたのは、夜着に身を包み、不安そうな表情で枕を抱えたベアトリクスだった。
ルシファーが拾われてから1か月ほどが経過していた。
(……そろそろ働くか。年下の令嬢にタダで寝食世話になるなんて、よく考えたら無様じゃないか)
今更気が付いたルシファーは、ある日の朝食の席で「リサイクルショップの仕事を教えろ」と高慢に言い放った。
ベアトリクスはその可愛らしい姿にくすくす笑いそうになるのを必死でこらえて、「もちろんですわ。じゃあ、さっそく今日行きましょうか」と応じた。
◇
ベアトリクスのリサイクルショップは平民街の中心部にあった。先日見かけた冒険者ギルドと目と鼻の先にある位置だ。
「ギルド関係のお客様が多いから、多少家賃はかさむけどここを借りているの」
白色の石材でできた、小綺麗な建物の一階だ。住居兼倉庫のゴミ屋敷とはまるで正反対の、〝ちゃんとした″店である。
「ここはちゃんとした店だな」
「もう、ルシファーったら! 心の声が聞こえていますわよ」
中に入ると、木製の棚に様々な商品が並び、壁沿いのハンガーには衣類が掛かっている。天井にはいくつもの照明器具が下がっていて、あれも売り物なのだろう。店の奥にカウンターと椅子があり、そこで店番をするようにとのことだった。
「仕事はお会計と商品を探すお手伝いがメインよ。……あ、今更だけど、ルシファーは読み書きや計算はできるのかしら?」
「当たり前だろ。馬鹿にしてるのか」
「すまないわね。馬鹿にしているつもりは一切ないのだけれど、できない子も多いのよ。ほら、この国は腕っぷしが正義でしょう? 勉強は重視されていないのよ。平民なら尚更ね」
その言葉にルシファーははっとする。確かにそうだ、と。
(俺は魔法を操るために学問を納めたけど、兄貴たちはその時間に鍛錬をしていたな)
学が無くても強くなれる。屈強な肉体の維持こそが最重要課題だ。それが父王を始めとしたグラディウス王国の在り方なのだ。事実、ともに戦争に出た騎士団の連中は簡単な計算すらできない者も多かった。
(我が国は、これでいいのだろうか)
他国からは『脳筋国』と揶揄されることも多いグラディウス。さまざまな書物に触れて積極的に技術を取り入れている近隣国からは、かなりの遅れを取っていると言わざるを得ない。
「――まあ、そういうわけだから。じゃあよろしくね」
「おまえはどこに行くんだ」
「もちろんゴミ拾いよ。拾ったら分別して、綺麗にして、売れる状態にしなきゃいけないもの。あなたのおかげで使える時間が増えたわ。ありがとうね!」
ベアトリクスはルシファーをぎゅっと抱きしめる。彼の頬にむにゅっと柔らかいものが触れた。
(――――!!!!)
「おい! やめろ! 子ども扱いするな!!」
「だって子どもじゃない。あなたはまだ10歳そこらでしょう」
慌てて彼女の腕から脱出するルシファーと、不服そうなベアトリクス。
(っ、くそ! どうしたらいい? 俺は子供なんかじゃない。二十一歳だぞ!)
子供向けのスキンシップを取られると非常に困る。何とも思っていない相手だからこそ、どことなく罪悪感を持ってしまうのだ。
そして、彼女の行動にいちいちドキドキしてしまう自分も嫌だった。
「まあいいわ。じゃ、あとはお願いね」
ベアトリクスは働くことが楽しくてたまらないといった様子で、軽やかな足取りで店を出ていった。
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リサイクルショップには次々と客が訪れた。
そのたびにルシファーは「おや。君がベアトリクス様に拾われた少年か」「あんた、名前はなんていうの?」「ずいぶん綺麗な見た目だねえ! 宝石みたいな目の色だ」などと声を掛けられた。
(あいつはずいぶん街に馴染んでいるんだな)
ベアトリクスの弟分だから話し掛けてみよう、という雰囲気が伝わってくるからだ。
そしてルシファーも、これは仕事なのだからと、普段の不愛想な態度ではなく丁寧に受け答えをした。
(あいつが頑張って築いたものを俺が壊しちゃ悪いからな)
途切れることなくやってくる客に対応し続け、夕方営業を終えるころには、ルシファーはくたくたになっていた。
しかし、身体は疲れていても心はすっきりとして軽かった。
客から「ありがとうな」「また来るよ」「あなたの接客、よかったわ!」と声を掛けられたことが嬉しかった。これまでの人生、笑顔で感謝されたことなどなかったからだ。ルシファーが役に立つことをしたり、戦果をあげても、当然だという目でしか見られなかったから。
しっかりと戸締りをして店を後にする。
茜色に染まる石畳を歩いて屋敷に戻ると、ちょうどベアトリクスも帰ってきたところだった。
「ルシファー。おかえりなさい! 一日大丈夫だった?」
「ああ、問題なかった」
野菜スープとパン、ソーセージを食べ、楽しげに今日はどんなゴミを拾ったかという話をするベアトリクス。ルシファーはいつも黙って聞いているだけだが、悪くない心地だった。
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湯あみを済ませ、ベッドに入るルシファー。明日も朝から店番だと、自分でも無意識のうちに気合を入れる。
――と、ドアがノックされた。
「ルシファー。入っていい?」
「どうしたんだ?」
もう二十時過ぎだ。規則正しい生活をしているベアトリクスも、いつもこのくらいに寝ているはずだが。急用だろうか?
ベッドから出てドアを開けたルシファーはぎくりと身をこわばらせた。
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