ゴミ屋敷令嬢ですが、追放王子を拾ったら溺愛されています!
第八話
無事に金貨を見つけたルシファーは公園で休憩を取っていた。
ぽかぽか陽気にあてられてうとうとしていたらしい。周囲が騒がしくなったことで目を覚ました。
(なんだ? 騒々しい)
周囲を見回すと、大通り沿いのとある建物に男たちがばたばたと駆けこんでいく様子が目に入った。建物には〝冒険者ギルド″と看板が出ている。
近づいてみると、中から男の野太い声が聞こえた。
「西の森でサイクロプスが出た! 木こりの小屋が襲われたらしい! 今すぐクエストに出られる奴はいねえか!?」
(サイクロプスか)
大きな一つ目を持つ巨人で、人間を食らう獰猛な魔物だ。
弱くはないが、歯が立たない相手でもない。腕のいい冒険者が討伐に出れば問題なく始末できるだろう。まあ、西の森の木こりは不運だったが――
(……西の森だって?)
最近その言葉を聞いたような気がする。はて何だったかとルシファーは首をかしげる。
そして、はっと思い出した。
『今日はこれから西の森に行くの。街のゴミを拾いつくしたので、少し足を延ばしてみようかと』
確か、ベアトリクスはそう言っていた。
「っ、ちくしょう! あんな令嬢、格好の餌食じゃねえか!」
柔らかい女の肉なんて、魔物の大好物だ。
今から冒険者が向かっても間に合うかどうか分からない。今この瞬間にも、ベアトリクスは危機に直面しているかもしれない。
そう思ったら、身体が勝手に動いていた。
◇
時は5時間ほど前にさかのぼる。
屋敷を出発したベアトリクスは、一時間ほど歩き、平民街の更に向こうに位置する西の森に来ていた。
「少し来ないうちにゴミが溜まっていますわね。これは拾い甲斐がありますわ!」
木こりや冒険者が捨てていったであろう空き瓶や煙草の吸殻が、木々の間に点々と落ちている。
ベアトリクスはうっとりとそれらを眺めたのち、腕まくりをして拾い始めた。
ゴミに誘われるように、森の入り口からどんどん深いところへ進んでいく。
一時間半ほど経ったところで休憩を取ることにした。いつまでも健康でゴミ拾いを続けるためには、疲れを感じる前に休むことも大切だと知っているからだ。
適当な切り株に腰を下ろし、チーズパンにベーコンを挟んだものを取り出す。
大胆かつ繊細にかぶりつきながら、ベアトリクスは最近拾ってきた少年のことを考えていた。
「少しは元気になったみたいだけど、まだまだ笑ってはくれないわね」
肌艶や痩せた身体は改善されつつあり、身体面はもう心配ないと思う。けれども、ふとしたときに見せる寂しげな表情や、感情の抜けた目を見る限り、心の傷が癒えるにはまだ時間が掛かりそうだ。
「焦ることないわ。何事も健康が資本だもの。悪い子じゃないから、そのうち心を開いてくれる気がするしね」
拾った当初は毛を逆立てた黒猫のようだったけれど、一緒に暮らすうちに少しずつ距離は縮まっている気がする。もちろん仲良しと言えるまでには至っていないし、家事を手伝ってくれるわけでもないけれど、ベアトリクスに対する気遣いのようなものは感じていた。
朝が早すぎるんじゃないか、睡眠は足りているのか。昔使っていた寝台を綺麗にしたからこれを使えと言ってくれた。洗濯で荒れた手を見たときは治癒魔法をかけてくれた。
「根は面倒見のいい性格なのかしら? 兄弟の多いお家だったのかもしれないわね」
本人が言わないので過去のことは尋ねないようにしているが、弟や妹の面倒を見ていたのかもしれない。兄とふたり兄妹で、そのうえ家族から見放されているベアトリクスは、大家族を想像して素敵だわと心が温かくなる。ゴミ屋敷令嬢と呼ばれる自分に結婚は無理だろうけど、もし奇跡が起こって機会に恵まれたらなら、子供はたくさん欲しいと思っていた。
にこにこしながらパンを食んでいると、ふとお尻の下が揺れた。
「あら、地震かしら? ……いや、違いますわね」
継続した揺れではなく、揺れては止むという一定のリズムを刻んでいる。まるで何かの足音のように。
――魔物だろうか。ベアトリクスは素早くパンを鞄に戻し、身支度を整える。
警戒するように辺りを見回す。
と、少し先のあたりから男性の悲鳴が上がった。
「ぎゃああああっ!! 来るな! あっちに行け!」
「ヴウウウウウウウウッッッ!!!」
「!」
不運な誰かが魔物と遭遇してしまったらしい。
「――――行かなきゃ」
襲われている人を見捨てることは、正義感の強いベアトリクスにはできなかった。
下手をしたら自分も命を落とすかもしれない。けれども、この場で男性を助けることができるのは自分しかいないのだ。
「ええい! ゴミ拾いの最中に死ねるなら本望よっ!」
自分に喝を入れて悲鳴の上がったほうへ駆け出す。
木々の間から見えてきたのは、半壊した木こりの小屋だった。小屋に覆いかぶさるようにして、筋骨隆々とした緑色の巨体がうごめいている。
その姿を見て、ベアトリクスは目を見開いた。
「――サイクロプスですわ」
ぽかぽか陽気にあてられてうとうとしていたらしい。周囲が騒がしくなったことで目を覚ました。
(なんだ? 騒々しい)
周囲を見回すと、大通り沿いのとある建物に男たちがばたばたと駆けこんでいく様子が目に入った。建物には〝冒険者ギルド″と看板が出ている。
近づいてみると、中から男の野太い声が聞こえた。
「西の森でサイクロプスが出た! 木こりの小屋が襲われたらしい! 今すぐクエストに出られる奴はいねえか!?」
(サイクロプスか)
大きな一つ目を持つ巨人で、人間を食らう獰猛な魔物だ。
弱くはないが、歯が立たない相手でもない。腕のいい冒険者が討伐に出れば問題なく始末できるだろう。まあ、西の森の木こりは不運だったが――
(……西の森だって?)
最近その言葉を聞いたような気がする。はて何だったかとルシファーは首をかしげる。
そして、はっと思い出した。
『今日はこれから西の森に行くの。街のゴミを拾いつくしたので、少し足を延ばしてみようかと』
確か、ベアトリクスはそう言っていた。
「っ、ちくしょう! あんな令嬢、格好の餌食じゃねえか!」
柔らかい女の肉なんて、魔物の大好物だ。
今から冒険者が向かっても間に合うかどうか分からない。今この瞬間にも、ベアトリクスは危機に直面しているかもしれない。
そう思ったら、身体が勝手に動いていた。
◇
時は5時間ほど前にさかのぼる。
屋敷を出発したベアトリクスは、一時間ほど歩き、平民街の更に向こうに位置する西の森に来ていた。
「少し来ないうちにゴミが溜まっていますわね。これは拾い甲斐がありますわ!」
木こりや冒険者が捨てていったであろう空き瓶や煙草の吸殻が、木々の間に点々と落ちている。
ベアトリクスはうっとりとそれらを眺めたのち、腕まくりをして拾い始めた。
ゴミに誘われるように、森の入り口からどんどん深いところへ進んでいく。
一時間半ほど経ったところで休憩を取ることにした。いつまでも健康でゴミ拾いを続けるためには、疲れを感じる前に休むことも大切だと知っているからだ。
適当な切り株に腰を下ろし、チーズパンにベーコンを挟んだものを取り出す。
大胆かつ繊細にかぶりつきながら、ベアトリクスは最近拾ってきた少年のことを考えていた。
「少しは元気になったみたいだけど、まだまだ笑ってはくれないわね」
肌艶や痩せた身体は改善されつつあり、身体面はもう心配ないと思う。けれども、ふとしたときに見せる寂しげな表情や、感情の抜けた目を見る限り、心の傷が癒えるにはまだ時間が掛かりそうだ。
「焦ることないわ。何事も健康が資本だもの。悪い子じゃないから、そのうち心を開いてくれる気がするしね」
拾った当初は毛を逆立てた黒猫のようだったけれど、一緒に暮らすうちに少しずつ距離は縮まっている気がする。もちろん仲良しと言えるまでには至っていないし、家事を手伝ってくれるわけでもないけれど、ベアトリクスに対する気遣いのようなものは感じていた。
朝が早すぎるんじゃないか、睡眠は足りているのか。昔使っていた寝台を綺麗にしたからこれを使えと言ってくれた。洗濯で荒れた手を見たときは治癒魔法をかけてくれた。
「根は面倒見のいい性格なのかしら? 兄弟の多いお家だったのかもしれないわね」
本人が言わないので過去のことは尋ねないようにしているが、弟や妹の面倒を見ていたのかもしれない。兄とふたり兄妹で、そのうえ家族から見放されているベアトリクスは、大家族を想像して素敵だわと心が温かくなる。ゴミ屋敷令嬢と呼ばれる自分に結婚は無理だろうけど、もし奇跡が起こって機会に恵まれたらなら、子供はたくさん欲しいと思っていた。
にこにこしながらパンを食んでいると、ふとお尻の下が揺れた。
「あら、地震かしら? ……いや、違いますわね」
継続した揺れではなく、揺れては止むという一定のリズムを刻んでいる。まるで何かの足音のように。
――魔物だろうか。ベアトリクスは素早くパンを鞄に戻し、身支度を整える。
警戒するように辺りを見回す。
と、少し先のあたりから男性の悲鳴が上がった。
「ぎゃああああっ!! 来るな! あっちに行け!」
「ヴウウウウウウウウッッッ!!!」
「!」
不運な誰かが魔物と遭遇してしまったらしい。
「――――行かなきゃ」
襲われている人を見捨てることは、正義感の強いベアトリクスにはできなかった。
下手をしたら自分も命を落とすかもしれない。けれども、この場で男性を助けることができるのは自分しかいないのだ。
「ええい! ゴミ拾いの最中に死ねるなら本望よっ!」
自分に喝を入れて悲鳴の上がったほうへ駆け出す。
木々の間から見えてきたのは、半壊した木こりの小屋だった。小屋に覆いかぶさるようにして、筋骨隆々とした緑色の巨体がうごめいている。
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