ゴミ屋敷令嬢ですが、追放王子を拾ったら溺愛されています!
第三話
第四王子ルシファーは美しいが、軟弱で問題児。世間からはそう評価されている。
だが、幼少期の彼はそうではなかった。性格は素直で、膨大な魔力に恵まれた、将来有望な子供だった。
では、なにが彼を捻じ曲げたのか。その理由は、グラディウス王国の肉体至上主義にあった。
「男は強くあるべきだ! 強さとは筋肉! 隣の友は戦場で裏切るかもしれないが、筋肉だけは己を裏切らない!」
王ガイウスは事あるごとにそう叫んだ。
数百年にわたってグラディウスの厳しい大地で生き抜いてきた民にとって、これはごく自然な考え方だった。
グラディウス王国は傭兵を育成して輸出したり、自ら戦争を行うことで益を得、国家を運営している。男たちは心身ともに強くあることが求められた。
(僕も父様や兄様たちのようにたくましい筋肉をつけるぞ! ムキムキの大魔法使いになるんだ!)
幼いルシファーはそう夢見ていた。
――しかし、不運なことに、彼は筋肉が付きにくい体質であった。
いや、一般的な国では十分引き締まった身体だと評価されるだろう。しかしグラディウス王国においては不十分で、軟弱者に分類されてしまったのだ。
魔法の練習と並行して身体を鍛えていたものの、同年代の騎士見習いと並ぶと見劣りした。食事量が不足しているのかと思って人の二倍、三倍、食べるようにしても、一向に肉にならない。
ボタンがはち切れそうな胸筋も、岩のように盛り上がった上腕二頭筋も、ルシファーにはなかったのである。
『第四王子のルシファー様、ありゃあだめだな。魔法はいいらしいが、身体が仕上がっていない』
『鍛錬不足なのでは? 兄王子殿下たちは御立派なのになあ。怠けてるんだろうな』
ルシファーは臣下たちの陰口に唇を嚙んだ。
手の豆が破れ、血が滲むまで剣を振った。筋肉痛で寝られなくなるほど筋トレをした。三度の食事は吐くまで食べた。――そんな努力を何年積み重ねても、自身の評価は低いままだった。
「……俺は、いらない人間なのだろうか」
十代も中ごろになると、ルシファーは度々戦場に駆り出された。王子ながら最前線に立ち、魔法を駆使して敵陣を切り拓く役目を負った。期待に応えて認められようと、ルシファーはどんな戦場でも果敢に出陣した。
しかし、いくら戦果を挙げようが、本当の意味でルシファーが認められることはなかった。ひとえにそれはこの国の肉体至上主義のせいだった。
努力しても認められないことに傷ついたルシファーは、その勢いで思春期と反抗期をこじらせる。その結果が、ベアトリクスが呪いを受けた舞踏会だった。
自暴自棄になったルシファーは堕落した。鍛錬をやめ、ぼんやりと暮らすようになった。
(何をやっても認められないなら、やるだけ無駄だ)
見かねた父王に生活態度を注意され、怒ったルシファーは王に魔法を浴びせた。むろん、命に関わるものではない。自分を認めない父王をほんの少し困らせたかっただけなのだ。
しかし父王は激怒した。王にかけられた魔法――「頭髪をすべて消し去る」。これが決定打となり、ルシファーはかつての師に子供の姿に変えられたうえ、城から追放されたのだった。
内々に決まっていた婚約も当然破棄となり、兄王子たちからは笑われ、彼を庇うものは誰ひとりとしていなかった。
生きる意味などない。誰も自分を認めてはくれない。
城を出たルシファーは、死に場所を探して街をさ迷っていた。
2週間ほど飲まず食わずでいたところ、とうとう倒れてしまい、ベアトリクスに拾われたのだった。
◇
共同生活をすることになったふたり。
ルシファーに与えられたのは、伯爵令嬢時代にベアトリクスが使っていた部屋だ。広さもあり、専用の浴室や手洗いがあるなど、貴族令嬢の生活に必要な設備が全て揃っている。ベアトリクスは普段は屋敷の入口近くで生活しているため、奥まった位置にあるこの部屋はもう使わないとのことだった。
彼の部屋整備は前途多難だった。
「っ、くそ! 何なんだ、このゴミの量は! ドアが開かない!」
「この部屋を使って」と部屋の前らしい場所まで案内したベアトリクスは、午後のゴミ拾いに行くと言い残して出かけてしまった。廊下に積みあがるゴミ袋の間からどうにかドアノブを見つけたものの、押しても引いても全く動かない。
イライラして力任せに引っ張ると、ドアノブがポロンともげた。そして勢い余ったルシファーは背後のゴミの山に尻もちをつき、その身体の上に、積みあがったゴミ袋がどさどさと降り注ぐ。
「……あー。悪夢だ」
ぱんぱんに膨れたゴミ袋を振り払い、脱力する。
ドアさえ開けば、魔法を駆使して中を片付けることは難しくない。しかし、その前でつまずくとは。
ルシファーは大きくため息をついた。
「……こりゃ、あいつの呪いを解くところから始めた方がよかったな」
午後のゴミ拾いとかいうのに出かけた以上、更にゴミを持ち帰ってくるんだろう。
というか、今の自分は子供なのに、この量のゴミをひとりで片付けられると思っているのか?
(ガサツ女め。これ以上不快な屋敷にならないように、帰ってきたらまずは呪いを解かないと)
そう決めたルシファーはゆっくりと身体を起こし、力なく部屋の前のゴミを片付け始めた。
――しかし、帰宅して提案を聞いたベアトリクスの返事は意外なものだった。
だが、幼少期の彼はそうではなかった。性格は素直で、膨大な魔力に恵まれた、将来有望な子供だった。
では、なにが彼を捻じ曲げたのか。その理由は、グラディウス王国の肉体至上主義にあった。
「男は強くあるべきだ! 強さとは筋肉! 隣の友は戦場で裏切るかもしれないが、筋肉だけは己を裏切らない!」
王ガイウスは事あるごとにそう叫んだ。
数百年にわたってグラディウスの厳しい大地で生き抜いてきた民にとって、これはごく自然な考え方だった。
グラディウス王国は傭兵を育成して輸出したり、自ら戦争を行うことで益を得、国家を運営している。男たちは心身ともに強くあることが求められた。
(僕も父様や兄様たちのようにたくましい筋肉をつけるぞ! ムキムキの大魔法使いになるんだ!)
幼いルシファーはそう夢見ていた。
――しかし、不運なことに、彼は筋肉が付きにくい体質であった。
いや、一般的な国では十分引き締まった身体だと評価されるだろう。しかしグラディウス王国においては不十分で、軟弱者に分類されてしまったのだ。
魔法の練習と並行して身体を鍛えていたものの、同年代の騎士見習いと並ぶと見劣りした。食事量が不足しているのかと思って人の二倍、三倍、食べるようにしても、一向に肉にならない。
ボタンがはち切れそうな胸筋も、岩のように盛り上がった上腕二頭筋も、ルシファーにはなかったのである。
『第四王子のルシファー様、ありゃあだめだな。魔法はいいらしいが、身体が仕上がっていない』
『鍛錬不足なのでは? 兄王子殿下たちは御立派なのになあ。怠けてるんだろうな』
ルシファーは臣下たちの陰口に唇を嚙んだ。
手の豆が破れ、血が滲むまで剣を振った。筋肉痛で寝られなくなるほど筋トレをした。三度の食事は吐くまで食べた。――そんな努力を何年積み重ねても、自身の評価は低いままだった。
「……俺は、いらない人間なのだろうか」
十代も中ごろになると、ルシファーは度々戦場に駆り出された。王子ながら最前線に立ち、魔法を駆使して敵陣を切り拓く役目を負った。期待に応えて認められようと、ルシファーはどんな戦場でも果敢に出陣した。
しかし、いくら戦果を挙げようが、本当の意味でルシファーが認められることはなかった。ひとえにそれはこの国の肉体至上主義のせいだった。
努力しても認められないことに傷ついたルシファーは、その勢いで思春期と反抗期をこじらせる。その結果が、ベアトリクスが呪いを受けた舞踏会だった。
自暴自棄になったルシファーは堕落した。鍛錬をやめ、ぼんやりと暮らすようになった。
(何をやっても認められないなら、やるだけ無駄だ)
見かねた父王に生活態度を注意され、怒ったルシファーは王に魔法を浴びせた。むろん、命に関わるものではない。自分を認めない父王をほんの少し困らせたかっただけなのだ。
しかし父王は激怒した。王にかけられた魔法――「頭髪をすべて消し去る」。これが決定打となり、ルシファーはかつての師に子供の姿に変えられたうえ、城から追放されたのだった。
内々に決まっていた婚約も当然破棄となり、兄王子たちからは笑われ、彼を庇うものは誰ひとりとしていなかった。
生きる意味などない。誰も自分を認めてはくれない。
城を出たルシファーは、死に場所を探して街をさ迷っていた。
2週間ほど飲まず食わずでいたところ、とうとう倒れてしまい、ベアトリクスに拾われたのだった。
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共同生活をすることになったふたり。
ルシファーに与えられたのは、伯爵令嬢時代にベアトリクスが使っていた部屋だ。広さもあり、専用の浴室や手洗いがあるなど、貴族令嬢の生活に必要な設備が全て揃っている。ベアトリクスは普段は屋敷の入口近くで生活しているため、奥まった位置にあるこの部屋はもう使わないとのことだった。
彼の部屋整備は前途多難だった。
「っ、くそ! 何なんだ、このゴミの量は! ドアが開かない!」
「この部屋を使って」と部屋の前らしい場所まで案内したベアトリクスは、午後のゴミ拾いに行くと言い残して出かけてしまった。廊下に積みあがるゴミ袋の間からどうにかドアノブを見つけたものの、押しても引いても全く動かない。
イライラして力任せに引っ張ると、ドアノブがポロンともげた。そして勢い余ったルシファーは背後のゴミの山に尻もちをつき、その身体の上に、積みあがったゴミ袋がどさどさと降り注ぐ。
「……あー。悪夢だ」
ぱんぱんに膨れたゴミ袋を振り払い、脱力する。
ドアさえ開けば、魔法を駆使して中を片付けることは難しくない。しかし、その前でつまずくとは。
ルシファーは大きくため息をついた。
「……こりゃ、あいつの呪いを解くところから始めた方がよかったな」
午後のゴミ拾いとかいうのに出かけた以上、更にゴミを持ち帰ってくるんだろう。
というか、今の自分は子供なのに、この量のゴミをひとりで片付けられると思っているのか?
(ガサツ女め。これ以上不快な屋敷にならないように、帰ってきたらまずは呪いを解かないと)
そう決めたルシファーはゆっくりと身体を起こし、力なく部屋の前のゴミを片付け始めた。
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