転生した公爵令嬢はVUCAを生きる

Mo×5

14第2騎士団長、アーサーについて side A

6日目の夜。
ソフィアとヴィーが今までにない位、衣服をボロボロにして戻ってきた。でも、ヴィーがハイテンション。

何があったの!
「ルイーズ、今日は凄いことが起きた!ソフィアがもうソードマスターになった」

え!
「たった6日の修行で?」
「そう、たった6日で」
ソードマスターって、そんなに簡単になれるの?コツコツ自力で本当に鍛錬をしないとソードマスターになれなかったのでは?
たかだか6日の修行だけで、なってしまっていいわけ?

「ソフィアのマスター姿、見たいか?」
ヴィーが浮かれて言った。
「みたいと思うけど、ソフィアは疲れているのでは?」
「大丈夫。ルイーズの癒しの力で体力が回復したら、問題ない。もう夜だ。近くの第二騎士団の訓練場を借りて、その力を見せよう」
「見せるって、私が見せるのだけど」
ソフィアが不貞腐れている。
「見せたくないのか?」
「お姉様にはお見せしたいけれど」
「なら決まりだ」

夕食を食べて、すごい食欲、ボロボロの服から新しい服に着替えた後、私たち3人は第二騎士団の詰所に行くことにした。


私は自分のためにフォースは使えないので、ヴィーに背負われて、移動することになった。2人はフォースを使って馬車より早く移動する。
以外に便利。

近くと言っても、第二騎士団の詰所は少し離れている。ただフォースのおかげですぐに着くことができた。

詰所の入り口にはまだ馬が2頭、残っていた。
「あれ、もう誰もいないと思ったのに。まだ誰かいるようだ」
ヴィーが言った。
「場所は使えないな。場所を変えるとするか」
「ちょっと待って。探ってみる」
「探ってみるって、そんなことができるのか」
皆、できるのではないの?
「私は耳がすごく良くて、小さな音でも聞こえるの」
「そんなこと、初めて聞いた」
「そうなの?ソードマスターは皆、できるのかと思っていた」
私は、聴力を高めて、確かめた。

「フィストー団長、その程度の攻撃ではソードマスターの私には勝てません」
キーンと剣が交わる音がする。

団長ってアーサーよね?
「団長とソードマスターが勝負をしているようなの」
「第2騎士団のソードマスターは確か副団長だったはず」
ヴィーが言った。
「上下、あべこべね。ソードマスターの方が団長になるんじゃないの」
ソフィアが言った。
「いろいろな場合がある。ラーウィック公国の場合はフィストー伯爵家から常にソードマスターが生まれるので、第二騎士団がほぼ世襲制になっている。現フィストー伯爵はソードマスターであり、近衛騎士団長をしている。していると言っても実質は形だけだが」
「息子もある年齢が来たら、ソードマスターになるだろうとみんなが考えていた。だから、第2騎士団の地位をフィストー伯爵は息子に先に譲ったのじゃないかな?今副団長のガーゴイルは平民出身のソードマスターで、貴族が多く嘱する第二騎士団でソードマスターとは言え、平民が団長となると軋轢が多すぎるとも考えたのだろう。多分、フィストー伯爵がお金を握らせているんじゃないか」
なるほど。政治的なことね。

「帰ろうと思ったが。もし2人が勝負をしているのであれば、ガーゴイルの太刀筋を見てみたい。アーサーも団長になるほどの素質があるのだからその実力も知りたい。覗きに行こう」
ヴィーが言った。

更にフォースの力で音を探った。人の気配は2人ではなく、3人。
「建物の中に3人いるわ」
もう1人は誰だろう。

「勝手に、騎士団の建物の中に入るの?」
ソフィアが言った。
「もう既に敷地に入ってるじゃない」
私が指摘した。
「覗きに行こうと言っただろう。ソフィアも他のソードマスターの実力を知っておいた方が良い。勉強になる。行くぞ」
ヴィーが言った。
ヴィーが先陣を切って建物の中に入ると、私たち2人は後をついて行った。

静かに歩き、気づかれないように。剣が交わる音が大きくなると、訓練場がすぐ目の前であることがわかり、気づかれない位置について勝負の様子を覗く。
訓練場には、フィストー伯爵と、いかつい騎士、恐らく副団長のガーゴイル、アーサーがいた。

「全く、23歳にもなってソードマスターにもなれないとは、一族の恥晒しめ。第一騎士団長のセルゲイは成人になる前に覚醒したというではないか。なのに、お前ときたら」
「いいか、ガーゴイル、力加減は無用だ。本気で倒しにかかって良い」
フィストー伯爵が言った。

ガーゴイルのソードはハルバードだ。
ハルバードは槍と横に広がる斧を合体させたようなブレードに長いシャフトを付けたポールアーム。
ガーゴイルがハルバードを構えると、オレンジのオーラがガーゴイルを包み込む。
アーサーはロングソードを構える。

うおー。
ガーゴイルがアーサーに切りかかろうとするが、アーサーはソードで受け止め、受け流すと体制を変えてガーゴイルに切り掛かる。ガーゴイルはアーサーの1振りを槍の部分で跳ね返し、斧の部分を振りかざした。アーサーは跳躍してその攻撃を回避した。
「ガーゴイルは槍と斧の使い手なのか。あの重さのソードをあのスピードで降り回せるのだから相当の怪力だな。パワーで押されれば、少し厄介だ」
ヴィーが難しい顔。
「ソフィアはまともに対峙すれば、パワーでは勝てない。こういう場合はどう戦えばいいと思う?」
「まともにやり合わない。そのためには交わし続ける」
ソフィアが答えた。
「そうだ。スピード勝負に持ち込む。それが勝算」
それ位の理論なら私もわかる。
「それにしても、アーサーはきれいな太刀筋をしている。私の好きな剣だ。ソードマスターでなく、ガーゴイルの攻撃をあれだけ抑えているなら、相当の実力者のはず。ソードマスターになれていてもおかしくない実力だと思うのだが」
「でも、ソードマスター程のスピードが出せないのであれば、アーサーは勝てませんね」
ソフィア冷静に試合を見ている。

アーサー、頑張って。
アーサーは何度もガーゴイルの攻撃を交わしていたが、次第にその動きは鈍くなり、何度かシャフトで突かれ、倒れ込んだ。一撃が効いたのか、咳き込んでいる。
最後にガーゴイルはフォースを込めた脚で倒れ込んだアーサーを何度も蹴り上げた。

「副団長、もう止めろ。勝負をついた」
フィストー伯爵が言うとガーゴイルは動きを止めた。

「嫌な奴だ。勝負はついていた」
ヴィーが唸った。

「顔は傷つけなかっただろうな。唯一、顔だけは取り柄なんだからな」
アーサーは気を失ったのか、ピクリとも動かなくなっていた。
「ソードマスターにもなれないのであれば、色仕掛けでもしてもらう。ルイーズ王女の護衛をしている。その顔であれば、ルイーズ王女を口説いて、惚れさせて、王配を狙えるかもしれない。年頃もちょうど良いしな」
フィストー伯爵は倒れたアーサーの状況を確かめた。
「既に気を失って、聞いていないようだがな。それにして、もしお前がソードマスターだったら、こんな状況にはなっていなかったのに。残念だ」
「運ばれますか?」
ガーゴイルが言った。
「いい。このまま放っておけ」
フィストー伯爵は息子をそのまま置き去り、反対側へ進んで行った。副団長もそれについて行った。

私たちは2人がいなくなるのを確認すると、アーサーに近づいた。
「大分、派手に容赦なくやられたな」
ヴィーがアーサーの状況を確かめた。
騎士団長の上着を剥ぐと、体は痣だらけだ。
何よ、こんなの虐待じゃない!訓練とは言わないわ。
私はたまらなくなって、アーサーの体に触れて、癒しの力を使った。
「ルイーズ、ほどほどに。癒しの力の事はほんとに他人に知られてはいけないんだ。完治をさせてはいけない」
ヴィーが忠告する。
「大丈夫、分かってます。気を失っているので、癒やしの力のことはわからないはず。起きない程度に半分位だけ治すわ」
今日一緒に歩いたコスモス畑からもらったエネルギー。貯めてた分をアーサーにあげる。
癒しの力をアーサーに注ぐと、アーサーの息遣いがだんだん楽になってきた。
残念だけど、ここまで。
私はアーサーの上着をもとに戻した。

「ところで、ルイーズ、アーサーから口説かれていたのか?」
「口説かれはしませんでした」
「そうなの?鈍感だから気づかないのではなくて?」
ソフィアが言った。
「とても優しかったけれど、わざと口説かなかったんだと思います。多分、私が困ると思ったから」

彼は、あの時、この状況を悩んでいたんだなと思った。

「さて、この状況なら、目を覚さないだろう。ソフィア、少しだけ、組み手をしないか」
「そのためにきましたものね。ではお願いいたします」
ソフィアがレイピアとマンゴーシュを装着し、ヴィーがショートソードを構えた。
ソフィアからレイピアでヴィーをつき、攻撃を開始する。
銀の光と紫の光が交差し、その戦う姿は楽しそうだった。

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