転生した公爵令嬢はVUCAを生きる

Mo×5

13第2騎士団長、アーサーとの思い出 side A

私は結構暇だった。

修道院の時みたいに、朝から晩まで勉強しているわけでもなく、ヴィーとソフィアは朝早くから鍛錬のために出かけてしまう。
2週間後に行われる成人式の用意をするため、侍女が入れ替わり立ち代わりやって来るのだけれど、忙しいのは彼女達で、実際、私自身は何もやることがない。
今まで交流がなかったグレース王妃、ミカエル王子も頻繁に顔を出すようになり、侍女たちと一緒に成人式の用意を楽しんでいる。侍女がどちらがお好みですかと私に聞いているふりをしてはくるけれど、実際には最終的に、グレース王妃が選んでいる。私に選択権はない。
まぁ、王妃が楽しんでくれれば、それで別にいいけど。
それに、ミカエルは新しい遊び場を見つけたように喜んで、私の部屋の中でおもちゃを持ち込んで遊んでいる。侍女たちも沢山いるので、遊び相手には困らないようだ。私も時々一緒に絵を書いたり、工作をしたりして遊んであげる。小学1年生のお遊戯だ。
昨日は折り紙に夢中になった。

それ以外は暇なので、することといえば主に3つ。
一つは侍女たちの言う通りにして、マッサージやエステを受け、彼女たちの満足のいくようにツルピカになること。
実際、気持ち良いからいいんだけどね。

もう一つは夜に帰ってくるソフィアとヴィーを癒しの力を使って、回復させること。
2人とも朝から晩まで鍛錬をしているので、夜に疲れきって戻ってくる。2人分を癒すとなると、癒しの力は能力に限りがあるので、結構ギリギリまで能力を使い果たしてしまう。私も癒しの力を発揮するための修行が必要なのだけれど、先生はいない。私も癒しの力が最大限になるように執行の意味を兼ねて、午前中はキール城の散歩をしている。
癒しの力は自然の中のエネルギーをもらって、自分の中に溜め込んでおく原理。ゆえに、自然の中にいることで癒しの力が高まる。つまり、エネルギーを貰いに散歩に行っている言うこと。
キール城の秋は紅葉が美しいし、それだけでテンションも上がるしね。

だけど、最初は侍女だけを連れて外に出ようとしたら止められてしまい、必ずセルゲイか、アーサーが護衛につくことになっている。

最初、2人のイケメンと接するのはすごく緊張した。転生前からも男性との接触は今まで少なかったので、仕方ないじゃない?
だけれど、5日が経ち、それぞれ2日以上ずつ一緒にいたら、イケメンにも免疫がついて、だんだん慣れてきた。最初はちょっと浮かれていたけれど、美男美女は飽きると言うけれど、本当かも。
目的達成のためには冷静になることも必要。慣れてくると冷静に物事を考えることができるようになった。
私が転生したのは、ラーウィック公国の滅亡を阻止し、そしてこの世に転生したお姉さまを探し出して、悠々自適に生きていくこと。
小説の中で、セルゲイは私の夫になって、隣の王国に攻め込み、公国を滅亡させてしまうし、アーサーは妹のソフィアと組んで、私の命を狙う反逆者になる。
2人とも近づくべき人ではないのに、今は1番のお近づきになってしまっている。
考えようによっては、反対に今のうちに仲良くなって、回避すると言うのもありかももね。

それと。
まずは私が女王にならないようにすべきで、国王のお父様を死なせないようにする。小説の中では死因は食中毒だった。
うん?何かどこかで聞いたような話。
何に当たった食中毒だか分からないけど。転生できたことを考えれば、きっと癒しの力で直すことができる。お父様を助けること、必ずや成し遂げてみせましょう。


今日はアーサーに護衛をお願いする日だった。
今日で3回目の護衛。
さて今日の散歩の場所はどこになるのか。
散歩の場所はアーサーにお任せしていた。
「コスモス畑を見に行きましょう」
アーサーが選定してくれたキール城内の、コスモス畑。キール城内には小さな湖もあって、そのほとりのコスモス畑が満開と言うことらしい。そこを見に行くことにした。

コスモスが満開だった。
ピンク色が一面に広がり、その一面がが湖に映り、絶景となっている。
湖の周りをアーサーと一緒に歩いた。
「ルイーズ王女殿下、2人きりの時には子供の時のように、ルイスとお呼びしてもよろしいですか」
「ええ、いいわ」
「子供の時にもここに来たのを覚えていますか?私はルイーズと遊ぶのが大好きで、父と一緒に宮殿に上がる日が楽しみでした。ここはかなりのお気に入りの場所なんです。知っていましたか」
ルイーズの記憶を辿ると、小さなアーサーと楽しそうに遊んでいる。
「私も一緒に遊ぶのは楽しかったわ」
「そう言っていただけると嬉しいです。本当に子供の頃は複雑な事は何も考えず、楽しいことだけを大事にすることができた。ルイーズが思っている以上に、この思い出では私にとっての宝物なんです」
アーサーは湖の方を眺めていた。
「何か悩み事があるの?」
「はは、そう見えますか。そうかもしれませんね」
そう言って、アーサーは暫く黙り込んだ。
2人でぼーっとコスモス畑を眺めていた。


私はアーサーとの子供の頃のルイーズの思い出を思い出していた。

思い出の中の小さい頃のアーサーはまるで女の子みたいだった。つまり、可愛い。

「僕に妹ができたんだ。こんなにちっちゃくてね、本当に可愛いんだ。少し大きくなったら、一緒に遊びに連れてくるね。ルイーズもソフィアも仲良くしてね」
「もちろんよ。いとこですもの、仲良くするわ。コスモスの花冠を作ってあげて頭に乗せてあげようかしら」
「ソフィアには妹がいないから、私の妹にしちゃお。一緒に遊びたいな」

「なら、僕が大きくなって、いろいろなところに行く時は安心だな」
「アーサー大きくなったらどこかに行ってしまうの?そんなの悲しいわ」
「僕はラーウィックが大好きだ。だからね、いろいろなラーウィックを見てみたい。この間はお父様と一緒に港町に行ってきた。海には船が停まっていて、かっこよかったよ。外国のいろんな商品があったし、それにいろいろな人が集まっていた。山の方のりんご畑にも行ったことがある。収穫のときにはお祭りもあってね、すごく楽しんだ」
「ルイーズはまだお城から出たことがないの」
「ソフィアもよ」
「仕方ないさ。今は隣のカミーノ王国に、ケノービ王国が攻め込んで、戦争をしている。もしケノービが勝って、カミーノを支配したら、次はラーウィックに攻め込んでくるかもしれないんだ。とても物騒で危ないんだ。今は、王女様はお城から出るべきではないと思うよ」
「ラーウィックも戦争になってしまうの?」
「うん、なるかもしれない」
「怖い」
ソフィアが言った。
「僕が守るよ。僕が大きくなったら、お父様のように騎士になってラーウィックを守るんだ」
アーサーが言った。

記憶の中のアーサーは子供なのに大人びていてたけど、純粋な瞳を輝かせて、生き生きしていた。

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